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【BS】テキサス娘への愛情を発露するスレ3【WS】

[34:all’s right with the world(2004/07/21(水) 06:08 ID:GpTUsba2)]
「見て見て、仕上がったばかりだよっ」
 俺の前にソードメイスを突き出して、彼女はえっへんと胸を張った。
 武具の周りを舞う青い輝き。一瞥しただけでそれが水の属を宿していると判る。
 随分前からこれに拘っていたのだ、彼女は。その努力の程は、原材料の精製をいつも手伝ってきた俺がよく知っている。
 最初は自分で使うのかと思った。だから何故そんなに意地になるのかと訊いた。
 すると彼女は少しだけはにかんで、「ボクの作った武器、君に使ってもらいたいんだよ」
 そんな事を言われてしまったら、協力するより外にない。
「四度目の正直だよー」
 とまれ眼前の彼女は、ほめてほめて、と言わんばかりの様相。
「よしよし、よく頑張ったな」
 頭を撫でてやると、心底嬉しそうな笑顔になる。まるで仔犬のよう。
 もしも尻尾がついていたなら、きっとすごい勢いで振り回していたに違いない。

「じゃあ、進呈です。大事に使ってね」
 しばらくじゃれあった後、彼女は大事そうに抱えていたソードメイスを俺へと差し出した。俺もそっと両手で受ける。
 籠められた想いと費やされた苦労が解るだけに、自然こちらの態度も恭しいものにならざるを得ない。
 が――。
「あ…っ」
 短い、彼女の悲鳴。俺も息を呑む。
 俺の手の中で、ソードメイスは液化を始めた。
 武具に属性を宿らせる時にはよくある事だ。籠めたその属の性が安定せず、金属として存在しきれなくなって消滅する。
 火ならば燃え上がって尽き、風ならば小さなつむじ風となって散じる。
 土ならばそれこそただの土くれに変じ、水ならば――丁度目の前の光景のように、溶けて流れる。
 属性武器の作成が困難とされる所以だった。
「――また、失敗しちゃった」
 王都の石畳に染み込んでいく様を最後まで見送り、そして彼女は深く深くため息をついた。
「使って欲しかったな。君に」
「…」
 今度こそ、との喜びが大きかっただけに、落胆ぶりも著しい。かける言葉がない。彼女は耐える様に拳を強く握っていたが、
「きっと神様は、ボクの事嫌いなんだよ」
 やがてぐっと目元を拭って軽口を叩く。無理矢理に浮かべたであろう微笑み。
「そうかもな」
「え?」
 予想外の言葉に、彼女は驚いて俺の顔を見返した。
「俺は、お前を大事に想ってる。神様なんかよりも、ずっと」
 額にかかった前髪をかき上げ、俺はそこにくちづける。
「だから敬虔な信者をぶん取ったって廉で、逆恨みされててもおかしくない」
 かーっと赤く染まる彼女の頬。
「よ、よくそんな恥ずかしい事言えるね」
「嫌か?」
「…ううん。嬉しい」
 首を振って、俺の胸に顔を埋める。しばらく好きにさせておいてから、俺はぽんと肩を叩いた。
「さ、行こう。もう一度材料集めだ」
「うんっ」
 極上の笑み。どちらからともなく、手を繋いで歩き出す。
 神々の逆恨みなら、この笑顔を独占する俺にこそ下るだろう。
 でもな、神様よ。この幸せをぶっ壊そうっていうんなら、俺はアンタにだって喧嘩を売るぜ?
 暖かな陽光。さわやかな初夏の風。すべて世はこともない。


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