【自己犠牲】クルセ娘を愛でる会 その2【神々の守護】
[569:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2006/04/14(金) 22:32:31 ID:YKvQuxrY)]
「く、ここまでか……!」
邪なる存在、不死の者共を浄化する為、呪われた地へと自らの意思で赴いた。それが間違いだとは思わない。
だが、まるで怒れる魂の念の重さに引きずられ、朽ち落ちた不浄の者は『命』、或いは『魂』さえも喰らい尽くそうと四方から彼を追い詰めてゆく。
肝心の回復剤は底を尽き、新品同様だった防具は上下問わずズタボロに砕かれ、裂かれ、身に付ける者を守る事を忘れるほどに傷ついていた。
また、彼らを還す為に丹念に打たれた炎を宿す剣は、根元で無残にも折られ、それ以上の役を果たしてはくれなくなっている。
一言でいえば、絶体絶命。体力に多少の自信はあったが、その自慢の体力とやらも今となってはただの強がりでしかない。
不死なる存在の前に生きた肉を与えるという事がどういう意味を持つのか、彼は嫌というほど知っていた。
「くそ、もう少しなのに……こんなところで終わるのかよ」
不死者の群れは呻き声ともとれない、言葉にもならない異音を発しながらじりじりと迫ってくる。
腐りただれた体を引き摺りながら。
恨みなのか、執念なのか、魂を洗い流す事の出来なかった無念の塊がその肉を求め一斉に襲い掛かる。
「くそ、くそ、くそォォォォォォォォ!!マグナンッブゥレイッ!!」
それが彼の最後の足掻きだった。
炎を纏った彼を前に一瞬だけ躊躇した不死者だったが、怯む事無く飛び掛ってくる。
「アーシェ――――…………」
不浄の牙が精根尽き果てた彼の首元に張り付いて。
だが。
次の瞬間には、そのぞっとするような凍てついた牙の感触は体のどこにも感じなくなっていた。
(そうか、これが、死ぬって事なんだな)
意外と痛みも無くあっさりと死ぬのだと。死ぬ時はあっという間なのだと、思っていた。
「何をこんな所で休んでいる?さっさと起きて街にでも帰るんだな」
「ちょっとちょっと、六子さん、いつの間にグランドクロスなんて覚えたんですか!こんな所に来たいなんて言うからおかしいと思ったんですよ、まさかあのインチキくさい催眠術師のところに行ったとかじゃないでしょうね?」
「お前は少し黙っていろ!ややこしくなる!」
「あ……お、俺は……?」
「実力が足りないのかわからんが、私のようにロボでないならあまり無茶はしない方がいいな、もう少しレベルをあげてから不死者を浄化しにくるといい。ロボはいいぞ、とてもいい。どうだ、お前もクルセイダーにならないか?今なら特典つ」
「付きませんよ、何も付きません。六子さんも何いきなり見知らぬ剣士さんをクルセ道に引きずり込もうとしてるんですか。ダメですよ、無茶な勧誘は止められているでしょう?」
口調は多少武骨だが凛とした表情を見せる女性の聖堂騎士と、明るい口調ながらどこか頼り無さそうな少年が笑いかける。
「たすけて、くれたのか?俺を……」
「いや、これは横殴りだ。私はボットだからな、アイテムも全部もらってゆく。横殴りボットだからな」
まったく表情を崩さず言い放つクルセイダーの手元から、はらりと落ちる蝶の羽。
「おっといけない、アイテムを思わず落としてしまった。だが、重量の調節の為だ、仕方ない。これは仕方ないことだ。そろそろゆくか」
「そうですね六子さん、そろそろ僕たちも戻りましょう」
手を振りながら、突然現れた二人は、現れた時と同じ様に突然目の前から消えた。
残っていたのは、足元に落とされた蝶の羽一枚と、気付けば気力と体力も充分に回復していた事だけだった。
「クルセイダー……聖なる騎士、か」
突然現われ、突然消えた二人を追いかけるように、羽を天にかざし。
微かに笑みを浮かべた剣士は。
不浄の地から、静かに姿を消した――。
「うーん、おかしいな。どうしてクルセイダー試験に来ないのだ?一応たすけてやったのに」
「結局勧誘の為に助けたんですか。しかもたすけてやったとか、六子さんは何を考えているんです」
「私は別に、特に、何も」
「そうですか。じゃあ、スキル戻してくださいね。だいたい、結婚資金を一緒に溜めてたんじゃないんですか?何いきなりスキル再振りなんかに使っちゃってるんですか」
「むむ……」
「むむ、じゃないですよ。もう」
「……ここにいたのか」
「「ん??」」
「別にあなたに誘われたから、クルセになったって訳じゃないんだけど……」
二人の背後に現れたのは、立派なペコペコに騎乗した剣士、ではなく、クルセイダーだった。
「俺はあそこでやり残した事がある。だから、クルセイダーになった。だけど、あの時礼を返せなかった事だけ悔やんでいたんだ」
「礼など要らぬ」
「そうですよ、六子さんに付き合ってるととんでもない事になりますよ」
「お前が我ら聖堂騎士の一員に加わった事は、素直に嬉しいがな」
「今は何も返せないが、いつか必ず」
ペコペコの手綱を引き走り去った後には、ひらひらと蝶の羽がふたつ。
「ふ……あいつも立派にロボ生活を送ってもらいたいものだ」
「いや、だから、ロボは六子さんだけですって;」
新米クルセイダーの後姿を、二人は笑みで見送る。
彼の行く末を。クルセイダーの未来を。
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