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【自己犠牲】クルセ娘を愛でる会 その2【神々の守護】

[620:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2006/04/25(火) 21:31:14 ID:ElLZ0f3U)]
 今も尚、鎮魂の鐘の音が鳴り止まぬ場所がある。無情に朽ちた魂が、いつまでも眠れずに彷徨う場所がある。
 彼女はそこで、いつも一人だった。
 今日もまた昼とも夜とも知れぬ永劫の時間(とき)の中を不浄なる者共がうごめいている。
 すらりと伸びた美しい脚を静かに引き上げて、呟くように囁いた。
「滅せよ」
 その言葉を最後に、髑髏は踏み潰され、砕けて、散った――。

「おかえりなさいませ、チェルシ様」
「ただいま。あら、今日は珍しくあのお騒がせコンビがいないのね」
「ああ、シルヴィア様とレイニーくんの事ですか。今日は二人ともフェイヨンダンジョンの内部調査に出かけております。間もなく帰還の報告を受けておりますが」
「そう……」
「それよりもチェルシ様、その……まだそれをお外しにならないのですか?」
「ん?これ?ふふ、そうね。私にはこれが一番しっくりくるのよ」
 プロンテラ大聖堂の入り口前で、新任アコライトがグラストヘイムより帰還したプリーストを迎えた。
 迎えられた神官の脚には、罪人の証である足枷がはめ込めれている。だが、彼女には、それをはめる罪と呼べるものがひとつもない。
 チェルシと呼ばれたプリーストには犯した罪など、かけら一つとして、ありはしない。
「しかし……それは、あなたの様な汚れなき神のつかいである神官の身に付けるものではありません」
「この枷はね、私自身を止める為のもの。常に戒める為の、枷なのです」
 静かに言い放つチェルシ。彼女には、彼女にしか理解できない枷をはめる理由がある。
「お前はいつもいつも!まったく何を考えているんだ!」
「まあまあ六子さん、そんな顔も素敵ですよ。あ、これはこれは、お久し振りですチェルシ様」
「相変わらず元気そうね、お帰りなさい二人とも」
「チェルシ……お前も元気でやっていたか?ずいぶんすれ違いばかりだったな」
「あなたもね、シル。レイもすっかり背が伸びて、大人っぽくなってきたわね」
「ありがとうございます。六子さんから沢山お話は伺ってます。殴りプリならぬ、蹴りプリなのだとか……」
「ふふ。シルからどんな事を聞いたのか知らないけれど、確かにその通りよ。私は、私の脚で不浄の者を浄化するプリーストなの」
「六子・ロナ子・蹴り子の三人といえば、知らぬものはないという『グラストヘイムの生きた伝説』とまで噂されるほどの有名人ですからね。そんな方とこうして会えるなんて、光栄です」
「あら、聖職者には世辞など無用よ、レイ」
「いえ……お世辞ではありませんよ、チェルシ様」
「どうだ自慢の脚は冴えてるか?まさか、なまったとは言わせんぞ」
「ふ、私の蹴りで天に帰らぬものなどいないわ。あなたこそ、セラニアに転生を許してしまうとはね」
「あいつはあいつだ。そして、チェルシ。お前も、お前だ」
「そういう自分はどうなの、シル」
「私も、私でしかない。そういうものだ」
「そうね。さて、そろそろ私は行くわ。神父様に報告したら、明日の準備をしなくてはいけないの」
 重そうな足枷をはめながらも、それでもまるでそれを感じさせないほど自然に。軽やかな足取りで聖堂に消えた長身の女性神官。
 もし。
 もし、その自戒の鎖を解き放ったとしたら。はたして。
 その真実を知る者は、この世界に、ほんの一握り。

「あ。どこかで引っかかると思っていたんですけど、チェルシ様の蹴りプリって設定。もしもシリーズでいうと、『もしも春麗が♀プリーストだったら』みたいな感じですよね」
「いつも思うんだが、お前の例えは意味がわかりにくいんだ。もう少しわかりやすくしてくれ。kwsk」
「ロボ語で聞きなおさないで下さいよ。っていうか、チェルシ様のうさぎのヘアバンド。ウサミミに足枷ってすごいギャップですね」
「ああ、あれか。セーラの話ではあのウサミミが本体だと言っていた」
「は?何をわけのわからない事を……」
「いやな、あいつは寝るときも足枷、ウサミミを外さずに眠るんだ。そこまではいい。だが、セーラ。つまり、ロナ子の話ではチェルシが寝ている時にそのウサミミが動いたというのだ。最初は私も、そんなバカな話をと信じなかったのだが、その……」
「な、なんですか。六子さん、それからチェルシ様に何がおこったんです?」
「いや、あまりにも気になったのでな、聞いてみたんだ本人に。そうしたら、あいつ、外そうとした事は何度かあるらしいんだが、何度引っ張っても、取れないと言うんだ」
「取れないって……ウサミミが、ですか?」
「うむ。それで、私も手伝ってやる、という事で引っ張ってみたんだが……いいか、落ち着いて聞けよ」
「ごくり。は、はい……;」
「痛がるんだ。そんなに強く引っ張ったら痛い、と言ってのけた」
「ちょっとしたホラーじゃないですか!それってまさか、チェルシ様、呪われているという事なのでは……」
「その時からなんだ。あいつが足枷をするようになったのは」
「足枷を外したら、どうなっちゃうんでしょう」
「そうだな……これは私の推測でしか無いのだが。ひとりでカタコンベ制圧程度の事はやってのけるだろう」
「ウサミミと足枷との関係性も相当のものですけど、カタコン制圧なんてひとりでできるものじゃありませんよ!そんな事はありえません」
「まぁ、あいつの事を知らない人間なら、そう思うのが正常だ。お前は、至極、正しい。正論だ」
「いくら六子さんでも、そんなの、信じられませんよ……」
 噂は噂、真実はいつか知ればいい。そう言って、六子は少年の頭を撫でつけた。
「ほら、無駄話は終わりだ。報告にゆくぞ、もたもたするな」
「あ、待ってくださいよ、六子さーん」


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