【自己犠牲】クルセ娘を愛でる会 その2【神々の守護】
[656:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2006/05/06(土) 13:18:27 ID:msnAemVo)]
「さて、今日も真面目に詐欺露店!ミルクを薄めて儲けまくりだ!ほくほく」
細いキツネ目に、狡猾さがうかがえる嫌な笑み。いつごろからだったか、もう忘れたが、とにかく、今は裏露店として裏通りの商人として生きている。
頭の切れる男だった。生命に関しての様々な知識を学び、錬金術を極める為の全ての学を、彼は自身の私利私欲の為だけに使ってきた。
男には、金が必要だった。しかも、一人の人間が持てるような金額ではない。莫大な金が、男には必要だった。
その為の手段は選ばない。今までもそうだったし、これからも、そうするだろう。
その筈だった。
あの時までは。
「ちゃんとここに成分調整、加工乳と書いてあるじゃないか!これは立派な商品だ、詐欺などではない!」
「つべこべいうな、さっさと歩け!その場で処分されたいのか?」
「横暴だ!これではまるでプロンテラ私警団による私刑ではないか!私は無実だ!冤罪だ!」
前々から噂が広まっていたのは認める。だが、決定的な証拠が見付からなかった。それはそうだろう、もちろん、簡単にバレるようなヘマはやらかさない。それは最低限、当たり前の事柄だった。
だが、その日男は、自分でも浅はかだと思えるような初歩的なミスを犯してしまっていた。ここまでくると、まるで何もかもが子供の言い訳、屁理屈にしか聞こえないだろう。
「これで、お前もお終いだな」
私警団の一人が吐き捨てる様に言い放つ。それを見て、悔しさに唇を噛み締めるアルケミストの男。
そこに、ペコペコに乗った女性騎士。しかも、その転生職であるロードナイトの騎士が現れた。
騎士はそのアルケミストの男を見下ろすと、私警団の男達に向かって、一言。解きなさい、と命じた。
はじめは渋がっていた男達だったが、プロンテラ騎士団の命ならばと、アルケミストを開放し騎士に身柄を明け渡す。
「後の処分は私がつけるから」
「了解しました、よろしくお願いします」
騎士と私警団の会話は短いながらもそれぞれにとっての必要な事項を確認してから、アルケミストを捕らえていた男達は戻っていった。
「……私を助けてくれたのか?それとも、絞首刑ってやつか」
よほど強く縛られていたのだろう、手首には縄の跡が赤々と浮かび上がっている。アルケミストは何とか一時的に開放されたが、今度は国が自分を裁くつもりなのかと動揺を隠せない。
「あんたが――」
騎士は、男に向かって静かに口を動かす。その手には透き通るような碧色に煌く両手剣が握り締められていた。
「あんたが、これを売ってくれなかったら。私はロードナイトになんてなっていなかったかもね」
「……?」
「あんたは覚えちゃいないかも知れないけど、この剣。あんたの店で買ったものだから、あんたには今でも感謝してる。この剣がなかったら、転生まで耐えられなかったかも知れないから」
ロードナイトが振り上げたその剣は、男にも見覚えがあった。長身の両手剣で、その剣には強い魔力が込められている。
疾風の如き速さで敵を討ち倒し、時に、その魔力が雷となって降り注ぐという。
仕入れてから買い手がつくまで、数ヶ月も眠っていた。大した苦労の品だったことを、今でも思い出す。買ったのは、確か、剣士の女の子だったはずだ。
「まさか、キミは……あの時の剣士の」
「いつか、あんたの店に報告でもしようって思ってたんだけど、あれから随分忙しくてね、それがまさかしょっ引かれるとは。一体何をやらかしたんだか知らないけど、今回だけは見逃してあげるわ。その代わり、二度とこんなヘマはやらかさない事ね」
「ロードナイト様になっているとは、思いもよらなかったよ」
「まあね、色々あってさ。どうしても負けられない奴がいてね、そいつと張り合ってるうちに、いつの間にかって感じかな」
「私を裁かないのか」
「ま、正直に罪を認めて洗いざらい話すってんなら、私が罪を軽くしても良いけど。本当にあんたが、罪悪感を感じて反省しているならね」
「私は……私にはやらなくてはいけない事がある。その為には、金が必要なんだ。そして、私は商人でもある、だから、商売をしたまでのこと。それだけだ……」
「ぼったくりでも、って訳」
「それは違う。売値は商人が決める、それに納得した者が商品を購入する。そうして、商品は売れた。私は金を得、相手は物を得る。そうやって今までやってきた、それが我々のやり方だからだ」
「一理ある、それは認めるわ。だけど、そのやり方で被害にあっている者も少なくない。改善しないというのなら、仕方ないけど……」
騎士はきっ、と鋭い視線で男を見やる。その答えによっては、ここで全てが終わる、とでも言いたげな表情だ。
男は、観念したように両手を肩口まで上げて、嘆息した。
「わかったよ、せっかく拾われた命だ。ここで失う訳にはいかないな。それに、まだ、やり残した事も多いんでね」
「あんたほどの商売の腕があれば、みみっちいやり方じゃなくても、いくらでも儲かるでしょうよ。今度は、表通りで合いましょう。正規露店の認証は私が申請しといてあげる、明日にでも役所に取りに行きなさい」
「……ありがとう」
「今度は、あんたの夢を叶える番ね」
「……ああ。そうだな」
ロナ子とデューク皿うどん店主の、そんな昔話。
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