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【自己犠牲】クルセ娘を愛でる会 その2【神々の守護】

[658:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2006/05/07(日) 22:18:12 ID:KWQWnaa6)]
「ん?六子さん、今、何か聞こえませんでしたか?」
 奇妙な動物の鳴き声にも似た妙な音を聞き、少年はふと頭を引き上げる。
「気のせいだろう。ほら、ぼーっとするな、手を動かせ」
「は、はい……なんだったんだろ、今の?」
 気を取り直して、作業を再開する二人。黙々と続けられる作業に、息つく暇もなく必死で取り組んでいた。
「それにしても。ああ、なんという造形美、これぞ職人芸だな」
「自分で作って自分で褒めないで下さいよ。確かに、六子さんの作ったのと僕の作ったのでは全く出来が違いますけど」
「うむ。だが、それは仕方の無い事だ。なにせお前はこの内職をするのは初めてなのだからな」
「そうですよ。六子さんとは違います、初心者ですよ、僕は」
「だがな、それを言い訳にしてはいけない。お前が手伝いたい、やりたいと言い出した事だ。言ったからには責任を持って、物事に挑め」
「言われなくとも、充分理解しています。ふぅ、これで、三十本っと……」
「むむ。まだそれだけしか完成していなかったか、だが無理もない」
「六子さんは凄いですね、僕が苦心している間にも、もうこんなに数え切れないほどの造花が完成しているなんて」
「慣れ、とでもいえばいいのか」
 六子は教会の中で堂々と材料を広げては、一本一本丁寧に、だが迅速に内職の造花を作り上げている。
 こつこつと真面目に内職をこなしているクルセイダーの姿は、少年にはそれがとても愛しく感じられた。
 普段は六子がひとりでこなしている仕事だが、少年は六子の作業を手伝いたいと言って勝手に作業をはじめてしまう。
 結局少年の作った造花は微妙な出来で、六子は後で直さなくてはいけないな、と、嘆息しつつふと頭をあげた。
「そういえば、いつの間にか花神父様がいなくなりましたね。さっきまでいたのに」
「ん?イバラ様なら、娘さんに呼ばれてどこかに行ってしまったぞ」
「娘さん?何かあったんでしょうか」
「さあな。それはわからんが……お、帰って来た。おかえりなさいませ、イバラ様」
「ああ、ただいま、シル。内職の方はどんな具合ですか」
「滞りなく。そういえばイバラ様、先ほど娘さんに呼ばれたみたいですが、何かあったのですか」
「……ああ、その事でしたか……ふふ、実はさっき娘に呼ばれましてね、それで、その娘を誑かそうとした男を少しばかり矯正してきたところです」
「ぶっ!……い、イバラ様の、きょ、矯正……ですか……;」
 いつも変わらぬ花神父の表情だが、その瞳の奥に、ぎらりと揺れる光が灯っているのを六子は見逃さない。話を聞きながら動かしていた指先が、ぴくりとも動かなくなる。しかし、徐々にその指が震え出して。
「えぇ、少々、悪戯がすぎた迷える子羊を。その行過ぎた過ちを、神の導きのままに、ね」
 少年は六子の表情がみるみる青ざめていくのを見て、何が起こったのか理解できないでいた。六子は花神父の言葉ひとつひとつに酷く怯えているようで、額から妙な汗が噴き出して、今度は指どころか全身がくがくぶるぶると震え出している。
「ど、どうしたんですか六子さん。顔色悪いですよ?燃料切れですか?それとも電池切れですか?それとも……」
「あわわわわわわわわ」
 六子の震えは止まらない。作りかけの造花は無残にもひしゃげ、奇妙な形に折れ曲がり、使い物にならなくなっている。
「妻も一緒に呼ばれましてね、ふたりで。そう、三度ほど、ね」
「さ、三度!一度や二度ではおさまらず、三度も!?……ひっ、三度、さ、三度……三度まん、サンドマンッ……」
「ろ、六子さん?どうしたんですか、サンドマンがどうしたんですか?六子さん?いけない、六子さんがオーバーヒートを起こしてる!」
「サンドマンッ!サンドマンッ!」
「ろ、六子さーん!戻ってきてくださーい!」
 訳も無く怯える六子。成す術なくうろたえるだけの少年。そして、くっくと笑う花神父。
 結局六子はその後丸一日、うんうんうなされて寝込んでしまったという。


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