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【自己犠牲】クルセ娘を愛でる会 その2【神々の守護】

[688:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2006/05/27(土) 02:10:48 ID:KK.CosKg)]
「突然ですけど、僕、引退します!」
 いつものように快晴の青空の下、少年はいつもと変わらない笑顔で、明るい表情を崩さないで。
「そうか。短い間だったがこれでお別れだな。さらば」
「あっあっ!六子さん、待ってくださいよ、もうちょっとお別れっぽい感じでいきましょうよ。最後ですよ最後」
「何だ。貴様、もしかしてアレか。寂しがり屋か、やめるならさっさと消えろ。邪魔で仕方が無い」
「そうですよ、僕は寂しがり屋ですし皆さんとお別れするのは辛いのです。けれども、僕はやめなくてはいけないのです。わかりますか、このジレンマ。特に六子さんと一緒にいられなくなっちゃうなんて辛すぎます」
「ふむ……それはわかった。だがな、だからといって私には何もしてやる事が出来んぞ」
「でも、せっかくなので引退式というのを催したいと思います」
「引退式?何だそれは」
「いや、ですから、文字通り引退式ですよ。他に何か疑問でもおありですか」

 その夜、プロンテラ大聖堂では少年を囲むように十余人の関係者各位が一同に勢揃いしていた。
 ツンデレラやゴルバヤロザ、ザーガといったクルセ三バカトリオに、蹴り子、花神父イバラ様、見習いアコライトの少女などの聖堂関係者だけでなく、様々な者が集まっている。
 もちろん、その中には六子や六子の親友でもあるロナ子の姿もあった。
 いつもは厳粛な空間である大聖堂だが、今度ばかりは多少にぎやかな雰囲気である。
 集まった面々を見回して、少年は咳払いをひとつ。
「えー、今夜は僕の引退式にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。エタアコとして続けてきたアコライト生活も、今夜で最後となりました」
 これまで続けてこれたのは、今まで出会ってきた全ての方々のおかげだと思っています。
 特にお世話になった大聖堂関係者の皆様には、伝えきれないほどの感謝を感じずにはいられません。
 全ては神のお導きだったと思います。
 本当にありがとうございました。

 言葉のひとつひとつに、喜びがあり、重みがあった。
 ただ、そこにいたのではない。そこには、物語があり、日常があり、そして思いが詰まっていた。
 思い出す事は山ほどあった。
 嬉しかった事。悔しかった事。楽しかった事。悲しかった事。
 やりきれない思いも沢山してきた。
 それでも、彼の目には後悔の色は浮かんでこなかった。
 決意の、澄んだ瞳だった。

 その場にいる全員が、労いの言葉をかける中、六子だけは終始無言だった。
 だが、その六子が、突然口を開く。
「お前を引き止めようとは、微塵も思わん。だが、お前との約束だけは果たさせてもらう」
「え?約束、ですか?」
「お前が言い出したことだろう?私と、結婚しろ」
 六子の突然の告白に大聖堂は一気にパニックに陥る。ショックエモが乱れ飛び、悲鳴にも似た絶叫が引退式会場を突き抜けた。
「ちょ、ろ、六子さん……!こんな時に……」
「お前がいなくなっても、絶対に忘れない。それを、刻み込む。それが、私の、最後の、お前への手向けだ」

 四年後――。
 雨に濡れ、風にさらされ、太陽に焼かれ、すっかり色褪せてしまった一枚の写真が。
 一人のクルセイダーの手から、滑り落ちた。
 恥ずかしそうに顔を赤らめる、小柄な少年と、見違えるほど美しい花嫁の姿。
 その後ろには大勢の仲間達。
 皆、笑顔だった。
 この世界で、幸福な事はとても少ない。けれど、彼らの表情を見ると、まるで幸福だった。
 クルセイダーの表情は、あれから少しずつだが表情を出せるようになっていた。一番大切な人を失って、はじめて理解した感情。
 人間の心とは、時に鋭く。時に鈍い。喜怒哀楽を浮かべ、正直者にも嘘吐きにもなれる。
 人の心に、完全な正解などありはしない。

 まるで眠るように、安らかな表情。
 幼い頃、何も知らないではしゃいでいた頃のような、柔らかい表情。
 ようやく人の心を取り戻した、かつてロボと呼ばれたクルセイダーの女性。
 彼女は、だが。
 しかし、二度と目を覚ます事はなかった。
 その手から放れた一枚の写真だけが、シルヴィアという名の銀髪のクルセイダーの最後をみとるように、まるで寄り添う様にして。
 彼女のすぐ傍に置かれたままで。


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