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【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】

20 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2005/02/15(火) 03:37 ID:sre8.8BI
 その日。ミッドガルド中の男性諸君がそわそわしていたその日も、荒武隊隊長は、機体の傍で悠然と煙草を吹かしていました。
 少しばかり昔を思い出しながら。
「あ、いたいたー」
 そこへかかったのは耳慣れた子供の声。アラームです。
 駆けよってくるその姿を認めて、隊長は急いで煙草をもみ消しました。
「あのね、はい、プレゼント」
 小さな背丈から一生懸命にさしだされた手に在るのは、綺麗に包装されたハートの形のチョコレートです。
「…バレンタインデーか」
 あまり甘いものの好きではない――というよりむしろ苦手な彼がそう呟くと、アラームはにこーっと笑いました。
「うん! 昨日お婆ちゃんのお鍋を借りて、お姉ちゃんとふたりで作ったんだよ」
 知識ばかり豊富なライドワードと知識すらないアラームのふたりを、魔女が罵りながら手伝っている様が容易く想像できて、
隊長は微かに笑みました。
「えっとね、私、隊長にこいしてるんだよ」
 彼は危うくひっくり返るところでしたが、そこは大人の威厳で踏みとどまります。
「そんな物言い、誰に習った?」
「パンクさん」
 隊長はお調子もののカビを思い浮かべて、さもありなんと納得します。
「こいしてるって、好きで好きでたまらないひとに言うんだって。
 じゃあ皆に言ってくるね、って返事をしたら皆喜ぶぞ、って言われたよ」
 少し困ったふうに隊長は頭を掻いて、それから言いました。
「それは多分、大事な言葉だ。あまり軽々しく使う代物ではない」
「大事なの?」
 不思議そうにアラームは首を傾げます。好きなひとにどうして好きだと告げていけないのでしょう。
「そうだ。とても特別な言葉だ。胸を張って誰かに恋していると言えるのならば、それは幸福なのだ。例えそれが生涯、ただ一
度の事だとしても」
 走馬灯のように脳裏を過ぎった記憶。それに引っ張られるように、隊長はいつになく饒舌でした。
 彼が我に返ると、真摯な瞳がじっと自分を見つめています。幼いなりに何かを感じたのでしょうか。それは気遣うような、労
るようなまなざしでした。
「――隊長は、こーふくだったの?」
 彼は一度瞑目し、そして巌のような顔に静かな微笑みを浮かべると、そっとアラームの小さな頭を撫でました。

「ところで、アイツには贈ったのか」
「アチャスケさん?」
 頷いて見せると、アラームは嬉しそうに答えます。
「お婆ちゃんが届けてやるよって言って、ふたつとも持って飛んで行ってくれたんだ」
 さんざ愚痴を言いながら、きっと魔女は楽しそうだったでしょう。
 それから隊長は疑問に思い、そして訊くのをやめました。バースリーはもうこんな儀礼めいたお祭りには付き合わないでしょ
う。ならもうひとつが誰から宛てたものなのか、凡その想像がついたからです。
「ふふふー」
 アラームが楽しい企みがあるかのように笑いました。
「あのね、帰ってきたらお婆ちゃんにもあげるんだ。ちゃーんと皆の分作ったんだから。あ!」
 そうか、とまた頭を撫でると、アラームは更に幸福そうに笑み崩れます。けれど突然、彼女は思い出したように声を上げました。
「どうした?」
「あのね、お婆ちゃんにこいしてるんだよ、って言わない方がいいのかな?」
 真面目に尋ねるその顔を見ながら、隊長はこの子に恋はまだまだ早いな、と思いました。

 この約一月後。
 女の子へ贈り物などした経験のない隊員達が、お返しに四苦八苦する事になるのですが、それはまた別のお話です。

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