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【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】
- 327 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/02/13(火) 21:24:32 ID:WuY.K7Yc
- アラームたんのチョコを狙いに時計塔行ってくる。
- 328 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/03/18(日) 03:32:25 ID:mPf7djUI
- いまさら、バレンタイン&ホワイトデーネタのSSですみません。
しかも管理者とバースリーの若い頃をイメージしてます。
管理者とバースリーの話なんて誰が見るだって・・・。
---------------------------------------------------
一人の魔女がいる。
魔女はこの塔を守るために、"人であれば" 悠久とも思える時間を生きてきた。
人であることを止め、魔女であることを始めたその日から、
ずっとずっと長い間、この塔を守り続けきた。
―やがて到来する「楽園」を夢見て。
守り続ける日々は"魔女であれば"そう長い時間でもない。
守り続けることにもなんの不平も不満もない。
―全てはその「楽園」の為なら。
だが、守り続ける日々の中で、ひとつだけ気がかりなことがあった。
「楽園」と同じぐらい、いや、楽園よりも「大切」ななにかを忘れてしまった。
―そんな気がする。
――ずっとずっと思い出せない、魔女となったその日から。
「ほえ?管理者さん、それなーに?」
大切そうにラッピングされた箱を抱えた管理者をあらーむに呼び止められた。
「え? ああ、アラーム、これはね…バースリーへの 贈り物ですよ」
「もしかして??? ホワイトデーですの!?」
贈り物―という単語に興味をそそられたジョーカーが話に割って入った。
「・・・ええ、まぁ、そのようなものです」
「なんでなんでー!バースリー、 管理者にチョコあげないでしょー?」
自分は渡せなかったが、他人の動向に(異様に)詳しいライドワードが混ざった。
「そうですね、貰ってません。最後にもらったのが―、そう、この時計塔が今の状態になる前ですかね・・・」
あまり自分のことを話したがらない管理者がめずらしく言葉を漏らした。
管理者がふと懐かしんで振り返ると、そこに3人が目を輝かせて管理者を見つめていた。
―――しまった。と、管理者が思うより早く―。
「聞かせてーーーーーーーーーーーー!!」
3人の大きな声が木霊した。
やれやれ、とその場から逃げられそうもないことを確信した管理者が語り始めた。
それは時計塔―さらにいえば、それが建設中の頃の話だった。
「さて、どーしたものかなー」
錬金術師用の個室の扉の前で、一人のウィザードの女性がチョコレートケーキを持って立ち尽くしてた。ケーキを乗せた皿を両手でもってしまっている為に扉が開けないせいもある。だが、それ以上に開いたあと、自分がどう振舞えばいいのか考えあぐねていた。
扉の向こうの男性に、チョコレートケーキを渡す、ただそれだけのことなのに、バレンタイン―という名目があるだけで、自分でも恥ずかしいぐらい、意識してしまって仕方ない。
(ええい・・・日頃なんの為に英知学んでいるというのかぁあ、こんなときに役に立たんとわああああ・・・・)
考えるほど恥ずかしくなり、恥ずかしいからこそ冷静さをどうにも失う。
ウィザードは火照る額を扉に(音が立たないように)そっと乗せる。ヒンヤリと詰めたい扉飾りのプレートにはそれを渡したい錬金術師名前が刻印されている。
(そうそう、部屋はここで間違いないのよねー・・・って、えええ!?)
気が付くと名前のプレートは後退し、古めかしい音をたてて、その扉はゆっくりと開きはじめた。気が付けばかすかな魔力の発動を感じる扉にあわて、預けていた額を起こして、ウィザードは扉にむき直す。
開ききった扉の向こう、重厚そうな机から、錬金術師が微笑みながらウィザードを見ていた。
「30分も前から私の部屋でなにをもじもじしてるんですか? どうぞ、気兼ねなくお入りください」
ウィザードは赤みを帯びた顔を伏せて、足早に部屋に入ると、再び古めかしい音を立ててしまる扉がしまった。閉まる扉には向こう側が見えるような、魔法による細工がしてあった。
「いや、用心のために細工していたら、存外面白いものが見・・・いや、失礼。」
本当に失礼なことを言っている―と思いながらも、錬金術師の微笑みは、まるで魔法をかけられたからのように逆らい難く、ウィザードはすべてを許してしまいそうだった。
(きっと、魔法などでなく、非論理的だが―惚れたほうの弱み―というやつだな・・・)
ウィザードは少しでも冷静に判断しようと努めていた。
「で、御用向きはなんでしょうか? それともこんな真夜中にまで、例の"時計塔"に関する、設置予定の魔導回路の設計レポートの回収ですか?ご苦労様です・・・一応、それならここに出来てますが、それも明朝の提出のはずでしたよね?」
悪戯な微笑みがウィザードをさらにむずがゆくさせた。
つかつかと、ウィザードは歩み寄ると、手にしていたケーキを机に置き、なにごともなかったようにレポートを手に取った。
「ううううむ…こんな夜中まで、おおおお仕事、お疲れ様ですすすすすすっす。なにぶん建設計画にち・・・遅延があり、っそsっ早急に、資料が必要でででで・・・」
ウィザードはしどろもどろにアドリブで答える。もとより部屋に来るためのこじ付けでしかないその理由には無理がありすぎて言えば言うほど恥ずかしさが増した。
「おや、おいしそうなケーキですね」
(さっ・・・最初から解って言っているのであろう!!)
ウィザードはそう思いながらも、錬金術師の言い返せずにいた。
この日でないと、この日だからこそ渡したかったもの、いや、渡したかった想いを伝えるために此処に来ているのだから。焦るのは―それを果たしいからで、それが先決だった。
「こ・・こんな夜更けに、しかも職務に従事している者に、て・・・手土産ひとつもっていかない訳にも、ほら、いぃい・・・いかないしな。」
「・・・ああああ、甘いものは、そう、ほら、疲れた体にもよいと、みの=タウロス氏も・・・そうだ、言っていて・・・なんだ、その、がってん頂けましたか?」
「いいいい、いらないならよいのだぞ、多く作りすぎてしまってな・・・それが一番うまく・・・じゃなくて、おすそ分けというか、なんというか、なんだかなぁあ」
ウィザードが矢継ぎ早に言う。
ウィザードの意味不明な話がまだ続きそうだったが間隙を縫うように錬金術師が質問した。
「・・・で、こちらはバレンタインの贈り物、と取ってもよろしいので?」
その言葉の後、『ぼふん』という音ともにウィザードの顔から炎が上がった。
ウィザードは紅潮しきった顔から煙をもくもくと立てながら、ゆっくりと倒れ伏した。
「あらあら、からかい過ぎえしましたか、すみませんw」
倒れ伏して聞こえている様子もないウィザードに錬金術師がやさしい声色で語りかけた。
「・・・って、おーい、大丈夫ですかー?」
ウィザードは翌朝まで目が覚めなかった。
翌朝を錬金術師の部屋で迎え、出て行くところを他人に見られて誤解を受けたことは ―まぁ、別のお話。
―――と、そういうことがありまして、以降、一度も貰ってません」
管理者の思い出話はそこで終わった。
終盤から3人の「鬼」「悪魔」「ひとでなし」という声が止まなかった。
「まぁ、そんなことがありまして、それ以来、ホワイトデーに私が謝罪もこめて、ずっと一方的にでも渡してる訳です、まぁ、ご本人はお忘れになっているようですが・・・」
最後にほんの少しだけ残念そうに言うと、3人はそれで赦し、管理者に先を急がせた。
「――思えば、それが人であった最後のバレンタインでしたね。」
3人からだいぶ遠ざかった後、管理者は立ち止まるとぽつりと一言呟いた。
それから間もなく、バースリーにそのプレゼントは手渡された。
「毎年毎年ご苦労なことだな」
「気にしないでください、私も自立プログラムによる行動ですので。」
バースリーはそれが特別なものということを忘れているようだった。
当たり前のように義理のつもりで皆に分けているものの一つだと思っていた。
「きっとこれは、私にとって、本当はとても嬉しいものなのだろうな?」
「さぁ、私の機械の心では解りかねます」
「・・・きっと私は忘れてしまっていて、・・・きっと「そうだった」のだろう?」
「さぁ、私の機械の心では・・・」
二人だけが通じる言葉で、その会話は成り立っていた。
二人だけの秘密で、二人とも忘れてしまった、なにかについて交わされる言葉。
昔々、一人のウィザードと、一人の錬金術師がいた。
二人は全ての命へ贈られる「楽園」を夢見ていた。
その到来の時までこの時計塔を守るために、その為の悠久に耐えうるために―。
一人は魔女になるために―――愛を、
一人は機械の体を得るために―心を、
二人はそれらを『対価』として支払い、人を捨てた。
それは遠い過去へ置き去りにした、大切な「なにか」。
楽園の扉が開かれた先に、その「なにか」もまた―あることを願って止まない。
- 329 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/03/18(日) 23:30:28 ID:4rnXejlU
- いいないいなー。
- 330 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/03/19(月) 10:09:22 ID:lQrlXIA.
- cktk・・・cktk・・・
- 331 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/05/30(水) 00:59:19 ID:mHPzA/Gg
- なんとなく、328以来、時計塔の過去を妄想し始めました。
諸先輩方をリスペクト&イメージをオマージュしつつ、過去の話を書いてみました。
まだ続きます。
-----------------------------------------------------
冷たい雨が降っていた。
その雨に打たれることも構わずに、そこに集った軍勢―神族、魔族、オーク族、そして人と、多種多様に混在する―その誰もが押し黙り、ただ呆然と、その中央を見つめていた。
視線の先、軍勢に囲まれた中央に、一体の巨体が苦しみもだえ、断末魔の声を辺りに響かせていた。
それはかつて、ここに集う大軍勢に対峙し、神族も魔族も、そして彼らの巻き起こした諍いすらも打ち払った、空前絶後とまで言われたる超兵器の姿だった。
かつて人の手により作られたそれは、人社会を巻き込んで戦禍を広がる、神族と魔族との諍いを平定する為のものであったー。
―かつて。
その言葉が意味するように、首尾良く神魔の諍いを両陣営の損耗を以って収めることに成功した後、彼の兵器は前触れもなく突如、暴走を始めた。
制御を失った彼の力が暴威となり、この世界に生きる全ての生物にむかったとき―、
―彼の存在はただ一己の敵となった。
最強の力は最凶の力となり、―全ての命を蹂躙し始めた。
瞬く間に、世界から種族を問わず多くの命が失われた。
―そして今。
轟雷の如き断末魔の咆哮を上げながら、その超兵器は最後の時を迎えようとしていた。
その作戦を展開した混成軍が皆、緊張した面持ちでその最後を待ちわび、見守っていた。
死ぬことをわすれたようなその生命に、対抗しうる手段は乏しく、僅かに残された手段は魔導の力による次元の狭間へ幽閉であった。
決戦に集った軍勢にしても、それはただの陽動に過ぎず、兵器を見つめることしかできない現状がそれを如実に語っていた。
人の手によって作られたそれは、また人の手によって作られた魔導の増幅機関によって、封印されようとしていた。
正しくは、その魔力増幅機関を有した、ひとつの塔の力よって―。
それにより空間に穿たれた時空の狭間に引き込まれながら、彼の兵器はじっとりとした目でその塔を見つめる。
恨めしいのか、くやしいのか、辺りを振るわすような悲鳴を上げながらも、時空の狭間のその身が押し込まれようとする間も、彼の兵器は目の前に高くそびえるその塔を、ただただ見つめていた。
―その塔。
いまだ6割程度の完成率と言われながらも、今こうして彼の兵器をみごとに押さえ込み、全ての生命の明日を担う、その存在感とは裏腹に、その塔は確固たる名称はない―。
―時計塔。いつのころからか、その塔はその姿をとってそう呼ばれていた。
これは、
この物語は、
まごうことなき、かの時計塔の昔―。
皆の知る時計塔が刻んだ時間(思い出)を逆巻きにした、遠い昔のお話ー。
- 332 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/09/27(木) 07:52:43 ID:jfO/p.JE
- 壊れた時計・・・か・・・
- 333 名前:331 投稿日:2007/10/14(日) 17:37:53 ID:FrBph/QU
- 331の続きです。
主っきり331かき終えた頃からGvGに参加して続きを忘れてました。
多少、人影もまばらですが、まぁ、気にしない。
まだまだ続きます、というかいかせていだきます。
-----------------------------------------------------
「やれやれ、こんなことのためにこの塔を作った訳ではないのですけどね・・・」
宙に浮いたスフィアが写す外の光景を眺めながら、錬金術師の男がつぶやいた。
目の前には外の様子が立体的な像になって映しだされ、その中心に彼の超兵器がいた。
鳥瞰に映るその映像を眺めながら、男は溜息を漏らす。
純然たる研究者として、実験装置として作られた塔がただの兵器のように使われていることを憂う。
だがその手は休むことなく、錬金術師を取り囲む操作版の上で忙しそうに踊っていた。
「ま・・・そうもいってられませんが・・・・ね・・・」
超兵器の映像と周りに浮かんだ計器の数値を何度も確認しながら、錬金術師は独りで操作版を操作する。舞踊るような操作の度、時空に穿たれた穴はアメーバのように姿を変え、逃げようとする超兵器を捕らえた。
錬金術師もまた、この大地に住まうものの希望を担い、超兵器への最後の対抗手段―封印を施すために戦っていた。
時空/因果制御実験用 魔導増幅装置―時計塔。
錬金術師(かれ)はその全てのコントロールを担っていた。
「もう少しで、次空間の狭間へ落とし込めそうなんですけど…。」
時計塔の内部に唸りのような機器の駆動音が響いていた。
周りの計器類の数値も、振り切れそうな勢いで、とうの昔に安全領域を越えている。
タイトでぎりぎりの操作―錬金術師の男が設計の段階から経験的に得た知識―で、なんとかこの塔は動かされ、超兵器と拮抗していた。
残念のそうに機器から目を離すと、再び外の超兵器の様子に目を向けた。
超兵器が轟音の唸り声を挙げ、その声は塔の内部まで聞こえていた。
その音と、外の週音装置から拾い上げた音が奇妙なシンクロを魅せて響く。
「―我慢比べ…ってことですか。」
―あんまり得意ではないのですがね〜と心の中で独り愚痴りながら、錬金術師の男が操作する手に魔導の力を乗せた。
それ呼応するように操作盤は一斉に動き出し、触れてもいない箇所が勝手に動作する。
まるで数人がかりで行われているような操作が操作盤の上で行われていた。
それも、錬金術師の男が思う、最高のタイミングで。
錬金術師はその操作に額に汗をかきながらも、どこか楽しげな表情を顔に浮かべていた。
再び、映像の超兵器をあおり見て、呟く―。
「上等です。」
「うぉい、そっちの様子はどう?」
錬金術師の眼前に小さい映像の窓が開き、それに映るウィザートの女性が問いかけた。
「なんの用ですか? 今は戦闘体制です。持ち場を離れるとは関心できませんね。」
目もくれず、錬金術師が答えた。
「…。いつも以上に話にならんなぁ…でもまぁ、そういうな。
こちらは文句も言わず、薄暗い地下で魔道炉に魔導を注ぎ続けてる身だぞ?
…しかも、いつ終わるとも判らん。
その上、地下で状況も判らなければ、そちらからの連絡もない。
なら少しぐらいの質問してもいいだろう?」
「芳しくありません。あともう一息って感じですが、持久戦になりそうです。
通達と管理のほうよろしくお願いします、―以上、終わり。」
「ちょ…ちょっとまて、そんな一方的に…」
焦るウィザードの表情をアップで移した窓が消えうせるように閉じられた。
錬金術師のほうが返答も短めに一方的に通信連絡を遮断した。
「・・・まったく」
時計塔の地下の巨大魔導炉を有するエリアの隅で、こっそりと通信を行ったウィザードが呟くように愚痴を吐いていた―人の気もしらないで、と。
「あらあら…想い人につれなくされて残念ですのw」
音も無くウィザードに忍び寄った女セージがその耳元で呟いた。
「うひゃっ」と小さく驚き、ウィザートが飛びのいて、セージを見つめた。
「あらあら、「魔女」とまで呼ばれた女性(ひと)が、なんというカワイイ反応w」
セージが続けて微笑んで言葉を続けた。
「…まったく女心がわかってませんわね、彼は。
せっかく忙しい持ち場を仕事にかこつけて離れて、声だけでも聞こうとしたのに、
なんて冷たいおひとw…だが、それもまた快…」
「そっ…そんなんじゃないっっっ!!!お前こそ、勝手に持ち場を離れてどっ…」
ウィザードは顔をいつのまにか顔を朱に染め上げて声を張り上げていた。
「ふふっw ローテーションの休憩ですの。
持久戦になるんでしょ?なら、休めるときにゆっくり休むですのw」
どこから聞いていたと聞くよりもはやく、セージが最初からだと暗に答えた。
「護衛役のオークさん達も手持ち無沙汰で、休憩用に水やら食べ物やら用意してくれてましたわ。彼らなりに、気を使ってくれているのかしら。」
顔を紅潮させたままフリーズしたウィザードに、再起動を促すようにセージが別の話を振る。
「そっ…そうか、それはありがたい。聞いてのとおり持久戦になるらしい。好都合だ。」
ウィザードが俯いて表情を隠しながら、強気に答えた。
ほほをさすりながら、表情や音頭に心の内がでてないことを悟ると、再び言葉を続けた。
「…ここに集まった大ギルド規模の魔法職達が魔導力を注ぎ込み、それを増殖炉で数倍に跳ね上げても、拮抗するのがやっとというのか…。どれだけの計り知れない力をもつというのだ、超兵器とやらは…。」
改めてウィザードは敵の強大さを確認し、同時にぞっとする涼しさが背中を這った。
少し二人で黙った後、セージは微笑みを取り直しウィザードへ告げた。
「―今、できることをしましょう。
状況も見えないこんな地下で、それでもあなたは、その魔法職達を統率して奮い、勝利を信じて背中を預けてきたんでしょう、彼に?」
「・・・まぁな」
どこかまっすぐな言葉を含むセージの言葉に素直になれず、受け止めながらもウィザートは恥ずかしまぎれに目を逸らす。
「それを『愛』っていうんですわーーーーっっ!!!!!」
セージはひときわ大きい声で、最後を締めた。
「ばっ・・・・ばかっ!!!それとこれとは・・・ちがっ・・・・」
ウィザードは再び顔をまっかに染めて心にも無い憤慨をする。
言うや否や、否定は認めないとばかりに、セージは走って逃げた。
足が速いのは昔からのなじみでしっていたが、このときばかりは異様に速かった。
「・・あうぅ・・・」
ウィザードは手持ち無沙汰で無意識に触れた耳の温もりに気付いた。
耳まで赤くなっていたことを知ると、それだけは見られなくて、逃げられてよかったのかな、と思っていた。
さきほどまでの緊張は恥ずかしさに負け、ほぼ完璧に解けていた。
<続く…かと。>
- 334 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2009/01/04(日) 20:58:37 ID:8sxSCcV.
- 331、333の続きです。
だいぶ間があきましたが、とりあえず終わりまで書きたいと思います。
なにかのきっかけでふと、スレへ戻った人が見てくれれば幸いです。
「うはー、すげえすげえ。あれが抑えこまれてるぞ?」
吟遊詩人の男が、窓の外の超兵器を見てつぶやいた。
その男は時計塔側からその攻防を窺うことのできる図書資料室の窓辺に腰掛け、
ビリビリとふるえる戦場の空気を肌に感じながら、窓の外の攻防を見守っていた。
そして、その攻防を特等席から見守りながら、轟音の咆哮が響く度、
吟遊詩人もまた驚きの声を上げていた。
「うはっw」
この攻防に介入できる人間も限られてはいるが、それを差し引いても、
その声色は内外の緊張感をよそに、あきれるほどのんきなものだった。
そして辺りを震わす轟音がまた一つ響くと、今度は内側から大きな音が響いた。
吟遊詩人はその音のほうへ振り返ると、崩れた本の山と、埋もれ伏す女性の姿を見た。
伏して顔こそみえないが、前へ伸びる美しい髪は見知った女性のものだった。
「おおい・・・大丈夫ー?・・・」
吟遊詩人が声をかけると、もぞもぞと女性が動いた。
助けてといわんばかりにその姿だけが、ふるふると震えていた。
吟遊詩人が本をどけてやると、ゆっくりと体を起こした。
「・・・痛ッつつつたいなぁ、もう」
女性は鼻まで下がった眼鏡をなおしながら、散乱した本を集めて積みあげだした。
また同じ目に遭いそうではあるが、急いでる様子にその余裕のなさが伺えた。
「まじで大丈夫かよ?」
「――――――!?」
声に反応して上げた顔の正面に心配そうな吟遊詩人の顔があった。
―が、あまりに顔と顔の距離の近さに女性がとっさに後ろへ飛び退いた。
―ドンッ。
―――と鈍い音がして女性が振り返ると、そこには再び崩れ始める本の山がみえた―。
ドサドサと落ちる音だけが、女性のつむった目の裏側で響き、しばらくした後、
何の感触のなさに目をゆっくりとひらくと、そこには、自分に覆い被さり、
そのほんの山から身を挺して庇う、吟遊詩人の姿があった。
「―いや、―ほんっと、気をつけろな?」
「・・・あ・・・アリガトウ」
状況か、自分の失態にか、赤みを帯びた顔を背けながら女性は小さな声で礼を呟いた。
一通り、崩れた本を脇にまとめた後、女性は再び吟遊詩人を見た。
吟遊詩人は窓際に腰掛け、また外の観戦を続けていた。
「―ねぇ、あなたは避難しないの?」女性は吟遊詩人に声をかけた。
窓の外では、世界の命運をかけた一戦が行われ、その戦火に巻き込まれないように、
と、多くの者は遠方へと避難していた。
「―いや、気がかりがあってね、一人で逃げるわけにもいかないでしょ・・・」
窓の外を眺めながら吟遊詩人が呟いた。
「・・・き・・・気がかり・・・って?」
戦闘要員を除き、この塔から避難していないのは女性と吟遊詩人ぐらいなものだった。
女性は目的あってのことだったが、その引っかかる物言いに、女性は少しの期待を込め
質問を返した。
この一戦にまければ、世界が崩壊するかもしれない
―そう思えば気恥ずかしさもあるが、確認しておかないといけないこともある
――と、女性は自分に言い聞かせた。
まじめな顔でだまったまま吟遊詩人が振り向いた。
その雰囲気にのまれ、女性もまた押し黙り、微妙な間が生まれていた。
「いや、吟遊詩人の端くれとしてねw
この一戦の行方を見逃すわけにはいかないでしょ、語り部としては、さw」
軽口で柔和に顔を崩した吟遊詩人が答えた。
「―。あー、そうですか、そうですか。」
期待はずれな答えに少しふくれながら女性が答えた。
手持ちぶさたのように、女性はまた本を整理し始めた。
”――本当は、あなたが気がかりなんです―”
二人は互いを背にしながら、互いに心の中で本音を呟いた。
「ーで、なんで、自分こそ逃げないの?」
聞ける部分の言葉だけ、吟遊詩人は疑問にのせた。
「んー、私は司書として、この貴重な本達を守る義務がありますっ!」
(―というのでいいかな・・・)
と、女性もまた司書を名乗り、本気と言い訳半々の答えを返した。
「というわけで! あなたも!!
大事な本を別室に避難させるのを手伝ってほしいのです、がっ!?」
司書は半分の本気も、半分の義務もまた重要だった。
-------------------------------------------------------------------
「・・・おかしいですね」
錬金術師が呟いた。
その手はその間も機器の調整と操作を休むことなく動き続けていた。
戦況も順調に推移し、機器・計器類ははタイトなその性能ながらも安定し、
錬金術師自身の手に掌握されていた。
魔力は絶えず増幅炉より供給され、時計塔の隅々まで駆けめぐっている。
そして、その機能を最大限に発揮した時計塔により、さしもの超兵器も
慟哭の声を上げながら、次元の狭間へと葬りされられようとしていた。
―気味が悪いぐらいに全てが順調に推移している・・・。
喜ばしいはずのそのことが、なぜか気がかりでならなかった。
むしろ胸の奥で、消えることなく朧にくすぶり続けていた。
「・・・ふっ・・心配性すぎますかね・・・」
錬金術師は軽い疲労の為か自嘲気味に呟く。
張りつめた緊張の糸はいまにも擦り切れそうで、
楽観の許されない現在の状況においてもそれを寛容させるものがあった。
見やる計器類の間の、関係各所の映像を届けるスフィアがあった。
時間で切り替わる映像の中、必死に詠唱ささげる見知ったウィザードの姿が映った。
きっとその人がそばにいたのなら、心配のし過ぎだと笑い飛ばされたことだろう。
この戦いが終われば、世界は救われ、明日やその先が訪れる。
たやすくはないかもしれないが、きっとより良い未来を創造していける。
――その未来に、ほんの少しだけ自分の未来図を加えてもいいですかね?
ほんの一瞬ではあったが、錬金術師の顔にほころび、ゆるんだ。
そのウィザートと歩む未来を想像して自嘲気味に短く笑う。
錬金術師は、愛される幸せを気恥ずかしく思い、
それに応える自らの気持ちもまた、はっきりとは表さずに過ごしてきた。
互いにそれを察することができるだけの年月を過ごしながら、
それを確かめる機会をあえてやりすごしてきたのかもしれない。
ゆっくりと当たり前になっていくそれを、ことさら幸せだとは考えなくなっていた。
だから、錬金術師は確かめなければならない。
迎える未来で、それがなにものにも代え難いことであることを。
「―さて、そのためにもこの戦いを終わらせる必要があります、―よね?」
錬金術師がスフィアに映る超兵器の姿を見ながら、その先にみる未来へと問いかけた。
錬金術師の疲れ切った手に力が再び蘇るような思いがした。
操作盤と計器類を通し、それに応えるような手応えを錬金術師は感じていた。
――全てはうまくいく。
――疑うべきはなにもなく。
この戦いを見守る誰の目にも、そう映っていた。
<続く>
- 335 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2009/03/07(土) 03:16:44 ID:VXBMIH.I
- まだあったのかこのスレ…涙出そうだ
3年分読んでくる
- 336 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2009/05/18(月) 01:16:04 ID:xtivYAiU
- 331、333、334続きです。
スレに人がいた痕跡をみて、涙がでそうです。
勝手やらせてもらってすみませんが、まだ続きます。
----------------------------------------
「最後の攻勢をかけますっ!
各員―もう少しです、最後まで気を抜かずお願いしますっ!!」
塔の隅々にまで、すべてを指揮統括する錬金術師の声が響いた。
塔内の人々は若干のざわつきの後、その声に答えるように自らの作業に集中した。
「後、少し…。」
錬金術師の目の前のスフィアに、次元の穴に沈みつつある超兵器が映っていた。
その呼び名が過去のものであるかのように、かの兵器は塔の力に屈しようとしていた。
その姿を見守る軍勢もその姿に安堵の視線を送っていた。
かの兵器に傷つけられた体と世界はすぐには回復しないだろうが、自らを苦しめた、
それの苦しむさまはせめてもの慰みだった。
それは曇り空から差し込んだ光のように、全ての未来に差し込んだ光のようだった。
だが、それとは違う視線を送るものがいた。
人の軍勢のとある一部隊が、ゆっくりと動き出す。
戦いで重い体を引きずり、歩くたびに重苦しい鎧が擦れる鈍い音がした。
それに気がついた人の将校がそちらへ視線を向けつぶやくように声をかけた。
「悪いな、もうひと働き・・・頼んだぞ」
一部隊はゆっくりとその将校の横を通りながら、静かにうなずいてそれに応えた。
ゆっくりと超兵器を見つめる軍勢の間をすり抜け、一路塔へと向かう。
押し黙り行動する姿にその別行動の隠密性が見て取れた。
押し黙り行動する姿にその別行動の隠密性があった。
途中ちらりと見やる超兵器の姿に、ほかが感じているような安堵はなかった。
密命を受けたその身には、苦しむ超兵器の姿が禍々しくしか見えない。
それこそがこの命令の本質だったから。
その人の部隊は予め周到に用意された道をたどり、苦もなく塔内へと侵入した。
そこまではまったく予定通りだった。
「―どこへいこうというのだね?…プロンテラ騎士団の諸君?」
塔へ入ったところで、同じく秘密裏に進入したのであろう他国の一団に会うまでは。
2国の騎士の一団が、塔内にて邂逅する。
「―貴様ら…いや、貴公らはシュバルツバルトの騎士団か…」
"シュバルツバルトの騎士団"と称された騎士たちが、沈黙を持って応えた。
応えずとも、鎧に刻まれた紋様、己ずから背負いしエンブレムがそれを示していた。
"プロンテラ騎士団"と称された一団がうやうやしく言葉を続けた。
「目的は…いや、聞くまい。おそらくは我らと同じであろう?」
互いはゆっくりと剣を抜いた。言葉の先に切り結ぶ運命だけを感じていた。
「…結構。立場は違えど我らのやることは一つ、王と国と臣民へ忠を尽くすのみ」
「次の次の戦争のため、超兵器をも退けるこの塔をみすみす他の勢力へと渡すなぞ…」
「…まかり通らぬもの。」
同じ意思が互いの口をついて語られる。互いに剣を構え、互いににじりよる。
「退けは…せぬか、お互い?」「…そのとおり。」
互いの意思を確認し、最後にそれを締めるかのように互いの剣が切り結ばれた。
硬質な物と物とがぶつかり合う音だけが、静寂の塔内に響いていた。
- 337 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2009/08/16(日) 23:02:22 ID:wPQoQhUI
- 「やはり…気にかかりますね。―明らかに塔全体の出力が増している」
錬金術師がつぶやいた。
跳ね上がる計器、コンソールを通じて手から感じる手ごたえ。
その手ごたえは力強く、状況を考えれば、それは心強さのように思えた。
だが、その高まりが一向にやむ気配もなく異様なまで高まり続けていた。
―増殖炉への魔力の供給が予想以上に健闘してるから?
――この塔のポテンシャルが自分の想像以上のものだったから?
状況が万事うまくいく中、些細な疑問が錬金術師の心の奥に突き刺さっていた。
錬金術師としての熟練された知識が、それを危険ななにかと予知させていた。
「―いったい、なにが…」
だか、その熟練した知識を総動員してもなお、その危険の本質を掴めずにいた。
それにわずかな苛立ちを覚えながら、流れる計器とコンソールのモニタ情報を追い、
ただの杞憂であることを願いながら、全ての情報を洗いなおすように辿る。
高く響く胸の鼓動が焦りを覚えさせた。
そのせつな劈くような警報音が響き、錬金術師をおどろさせた。
ビィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
ビィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「ケイホウ、ケイホウ――――侵入者アリ」
スフィアのいくつかから小さな窓が表示され、入り口周辺の映像を映す。
そこには剣を槍を切り結ぶ騎士たちの姿が映されていた。
「――なっ…なにをやってるんです!こんな時に!!」
懸念していたものとは違ったが、そこには作戦上ありえない光景が写っていた。
―それは味方同士の戦闘―。
わずかに見えた個々の綻びは、少しずつ互いに絡まりあい、
大きな非常事態へとなろうとしていた。
唖然と、その光景に見入った刹那、時を動かすように今一度警報音がなった。
ビィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「ケイホウ、ケイホウ――――――魔導炉エリア ニテ イジョウハッセイ―」
先の警報とおなじく、スフィアから小さな窓が多数展開し、魔導炉エリアの
様子を映した。それと同時に緊急の通信回線連絡が開かれた。
「―こ・・こちら魔導炉っ!ねぇ!そこにいるんでしょ!?返事をして!!」
慌てる様なウィザードの声が、警報音に入り混じるように飛び込んできた。
「な・・・なにごとですっ! 状況を説明してください」
錬金術師が即応が、その声もまたず、弱るような声が続いた。
その声は背景に叫び声のようなうめき声のような音がノイズのように入り混じる。
「・・・さっきまで! 手伝ってくれていた!
オークの人たちが・・・・・オークの人たちが、突然・・・・・」
息を荒げ、切れ切れした声が続き、一呼吸おいた後、叫ぶような声が響いた。
「―――襲ってきたのっ!!!!」
通信にあわせ、魔導炉エリアを移す様子が手早く切り替わっていた。
そこには、武器を手に襲い掛かるオークと、他のウィザード達の無残に襲われる姿と、
傷を負いながらもわずかにそれに応戦する修羅の光景が映されていた。
「―助け・・・」
言葉がおわるよりも早く、それを映すモニタが切り替わる。
「―どうしました!?返事をしてくださいっ!!」
モニタに喰らいつくがのように錬金術師ががなった。
その声を無視するように無作為にアングルを変えながら、魔導炉の様子が流れ続ける。
機器が故障したのか、その中をかいくぐり、舞い踊るように、その惨状が流され続けた。
<続く>
- 338 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2009/09/07(月) 23:05:26 ID:ai9CDP8I
- ゆっくり話が進んでますね。
どうなるのだろう?と、こっそり楽しみにしていたり。
- 339 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2009/10/18(日) 23:47:54 ID:KfR.ExtY
- 331、333、334、336、337続きです。
ちょっとだけ更新。感想ありがとうございます。
遅筆すぎですがご期待に沿えるように終わりまで書き続けたいです。
----------------------------------------
「―助け・・・」
言葉がおわるよりも早く、それを映すモニタが切り替わる。
「―どうしました!?返事をしてくださいっ!!」
モニタに喰らいつくように錬金術師ががなった。
その声を無視するようにスフィアは一瞬、砂嵐を映すと、戻った映像はただ魔導炉の様子だけを流れ続けていた。
そこに広がる惨劇の中を舞い踊り、かいくぐるように映し続けていた。
「止め・・・止めて・・・止――――――」
抜けた腰を重く引きずりながら、ずりずりとひとりの男の魔術師が退く。
その姿に覆い被さるようにゆっくりと大きな影が覆っていった。
その目には息を荒げながら、ゆっくりと斧を振り上げるハイオークの姿が映り、
斧よりしたたる誰彼ともしれない血が、直下の魔術師の頬へと数滴落ちていた。
「止めて!殺さな―――――――――」
恐怖と叫びが交錯して加速する中、その声をふさぐように斧は無慈悲に振り下ろされた。ハイオークは斧から伝わる鈍い感触を振り払うように、斧を魔術師の肉体から引き抜く。そして異なる魔術師の姿を目で追う―――
その目にとらえられれば、それは次の獲物になるということだった。
ハイオークが次の獲物へとゆっくりと移動すると、背後に激痛が走る。
その背中を異なる魔術師が打った雷球が捕らえ、ハイオークが沈んでいった。
そこかしこで、先ほどまでともに行動していた魔術師達とオーク達が争っていた。
何が起きていて、誰が敵で、誰が味方かもしれないまま、ただ自らに襲いかかるものを敵とし、持てる力をぶつけ合うようだった。
「――凍れ、ただ静かに――時の静止するが如く!!!」
詠唱の最中、苦し紛れに振り下ろされたハイオークの斧がわずかに肩を掠めた。
わずかに裂けた皮膚の痛みを感じながらも、その手に集約された魔力を一気に解放する。
「ストームガスト!!」
あたりを白銀に染め、凍れる水蒸気が煌めく。
あたりの温度が急激に下がると、数匹のハイオークが絡め取られるように凍結した。
「ウ・・ガガガガガ」
凍結する体を振り解くように激しく左右すると、その身に亀裂が走り、砕けて落ちた。
「――あなた達が―――、襲ってくるから・・・・」
くやしそうにウィザードがつぶやく。強襲に興奮しているのか、手心を加えて放ったはずのストームガストが、思う以上の力で発動していた。
ふと握ったその掌に残った魔力の残滓を感じていた。
先ほどまでの作戦行動で疲れているはずの体から、なぜか沸き上がる力を感じていた。
(・・・どうゆうこと・・・?)
だがそこには、迷い、立ち止まる暇もない。
そこかしこで行われる争いは、少しずつではあるが魔術師の側が圧されつつあった。
オークの力と数に、圧される魔術師達の劣勢が見てとれた。
「ファイアーウォール!!」
攻撃を避け、敵と距離をとる魔術師を支援するように、その間に炎の壁を置く。
状況は麻のように乱れ、そこかしこで広がる戦闘に静まる気配はまったくなかった。
そこでふと頭をよぎった小さな疑問など、その喧騒にかき消される他に無かった。
(――――――――――きりがない―)
続けて放たれる魔法に、ウィザードは言葉をつむぐ間さえない。
その目は次の目標を追い、止むことなく詠唱と魔法が繰り返されていた。
体は舞うように襲い掛かる刃を避け、敵の集団を捕捉する。
「ストームガスト!!!」
一瞬にして、勢いよく襲い掛かるその姿そのままに、敵の一団が凍りつく。
その氷塊が砕ける轟音とともに、ハイオークの一団が沈んでいった。
(―だけど――今ならいける―)
繰り返される生死のやり取りに、その身はギリギリで掻い潜り、生き残る為のその方へ、ぴったりと寄り添うように動いてくれた。
体の奥から湧き上がる力も後押しし、ウィザードはそう確信する。
ウィザードは戦場を舞い、惹きつけるように多くのオークをその身に引き受ける。
劣勢の中、そうしなければいけない状況もあり、確信の全てをそこへ注ぎ込む。
―もっと―もっと―もっともっと――――。
多くの敵を束ね、攻撃の隙をついて魔導をその手に収束―詠唱を開始する。
―どこともつかなくなった限界まで―。
・・・"ドン"・・・・。
ウィザードが魔法を放とうとその手を掲げたその瞬間、背中に硬いゴム質を感じた。
一瞬にして体の熱を奪われ高鳴りはじめた鼓動を感じながら、背後に目をやった。
その背後で背中合わせにこちらを見遣るハイオークと目があった。
(拙い・・・・)
発動寸前の魔法を掲げて無防備な体をさらすウィザードの目に、振り返りざま斧を振り上げるオークの巨体が映っていた。
<続く>
- 340 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2009/12/28(月) 01:59:07 ID:0LL7FRuY
- (――ちっ・・・)
ウィザードはその場から飛び退いて距離をとる。
避けるにはもの足りない距離に舌打ちをひとつ吐き捨て、
せめてものダメージ軽減に展開したEQ任せに身を固めて防御姿勢をとった。
・・・・。
だが、数分とも思える数秒の後も、その斧が振り下ろされることはなかった。
オークの巨影は、斧を振り上げた姿のまま、まるで石像のように静止していた。
「グ・・・ガガガっ・」
その石像が小刻みに震えながら、消え入りそうな声で言葉にならない声を上げていた。
その腹から手が生え、そこから伸びた、細くたおやかな指に血が滴っていた。
その指が腹に収まるように体のほうへ引き込まれてゆくと、オークはゆっくりと倒れ、
その崩落に巻き上げられた埃の先に、小さな女性の影が現れた。
「ふむ・・・・まだ研究途中の余地はありますが、この属性変換、使えますわね・・・」
オークの腹を貫いたその手を見定めながら、セージが何かを確認しながらつぶやいた。
返り血を振り払うように手を払うと、飛び散る血は炎を帯びて蒸発した。
「油断ですわよ、あなたらしくもない―。」向き直してセージが声をかけた。
――ぞくり。
ウィザードの背に刹那、寒気が走った。
この混乱の中、涼しげなセージの横顔が、よく見知ったそれとは違って見えた。
本能的な恐怖が、ウィザードの心を一瞬にして凍てつかせた。
「―?――大丈夫ですの? 」
呆然と立ちすくむウィーザードに気付いたセージが声をかける。
心配そうに覗き込むセージの目は、いつもとかわらない蒼天のような色を映し、
その晴れやかな目に、ただ不安げなウィザードの姿が写っていた。
「―あ、ああ、うん、大丈夫、ごめん」
いつものセージを思い起こし、ウィザードはその杞憂を飲み込む。
戦闘に混乱したのかと自分を納得させると、落ち着いて現状に向きなおした。
「――――なにが原因で起きたのか。
・・・は、知りませんが、とりあえず現場の混乱は収まりつつあるようですわね。」
察しのいいセージがウィザードの心を読んだかのように言った。
あたりは、一応の収束が見受けられ、転がる人やオーク達の死屍累々のもと、
傷つきうずくまる者達を残して、くすぶるような辺りの状況がそれを物語っていた。
わずかに、だだっ広いエリアの一部で、まだ戦闘行為が散発的に継続されていた。
「――ん、でも完全にこれを終わらせて、作戦に戻らないと・・・。
私はほかの戦闘に加勢してくる・・・。――あなたは怪我人の対応のほうを・・・」
周りを見渡しながら、ウィザードが言う。
作戦の継続は、地下深く、外の様子も分からないこの場からでは分かりえなかったが、
ウィザードは後対応に備えるべく、揺り動かされた状況を元の状態へ戻そうと考えた。
体に疲弊は多少あったが、なぜか体の底のほうからジンワリと力が沸き上がり、それをカバーしていた。
「―――――どこへ、・・・・行きますの????」
再び、動き始めたウィザードの背後から、それを止めるかのようにセージが声をかけた。その背後にセージから発する魔力の収束、高まりを感じながら、ウィザードが振り返る。
ウィザードは見落としていた。
傷つき倒れた臥すその者たちが、
今持って散発的にエリアで行われている戦闘行為が、
かならずしも、オークと人間が相対するものだけではなかったことを―。
「―私と・・・・・戦ってはもらえませんこと・・・・・?」
先ほど感じた恐怖が、セージという人物の現身をなして、そこに居た。
<続く>
- 341 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2010/01/03(日) 17:31:32 ID:8g57FjG2
- 「…どうしてこうなった?……なにが起きている??………」
錬金術師の消え入りそうな声が小さく響いた。
天井を向いた耳には多重化してけたたましい警報音が響き、
目の前のスフィアに異常をきたした塔とその塔内の様子が写っていた。
いつのまにか体はコンソールに倒れ伏し、その様子を見ていた。
伏した体はギシギシと軋んで重金属のように重く、指一つ動きそうもなかった。
「…うご・・・・け・・・・」
自分に言い聞かせるようにつぶやいては伏した体を起こそうとしたが、
そのたびに軋む体に、皮でも引き剥がされるような激痛が襲った。
苦痛に歪み、休み休みそれを繰り返すも、一行に動かない体に焦りだけが募った。
(なにが・・・一体?・・・・)
錬金術師は必死に状況を探ろうと、辛うじて生きている目をこらす。
その刹那、その薄ぼんやりとした視界を切り裂く稲光が走り、錬金術師の目に
激痛が走る。
稲光が瞬く度、頭の裏側を叩き潰ような鈍痛が繰り返され、
その度、錬金術師の脳裏に、塔内部/各所の様子がフラッシュバックして映った。
最後に魔導炉エリアの様子が映ると、対峙するウィザードとセージの姿があった。
錬金術師の目前で、見知った仲間同士が対峙し戦っていた。
一方的に攻撃を仕掛けるセージに対し、ウィザードは逃げ回るばかりだった。
「―やめろっ!・・・お前らなにをしてるんだっ!!」
二人に向け、錬金術師は声を上げるが、その声はまるで二人に届いていなかった。
二人は無視するように戦闘を続けていた。
セージの魔力は膨れがり、可視化した魔力がオーラとなりセージから立ち昇る。
収束された魔力が新しい膨大な破壊の力を生み、避けるウィザードだけでなく、
周囲を、逃げ遅れた人とオーク、またはかつてそれであった残骸を絡めて壊していく。
ウィザードは戦闘を忌避して逃げるが、徐々に迫り来る攻撃に追い詰めらていた。
「やめろ!やめろ!やめろぉおおおおおお!!!!」
錬金術師の声は届かず、各所の戦闘もやまず、人もその他も、そして魔導炉も、
それらをすべて収めた塔の全体で、もっと大きな何かが崩れ去っていくように見えた。
「…無駄だ…おまえの声はとどかない…」
錬金術師の背後から、幼い声がした。
その声を契機に辺りの音は静止し、その声がだけが辺りに残響のように木霊した。
「…これはお前の頭に直接映した塔内の映像…。そして塔内で起きている全ての現実だ」
その声は無垢な幼さと裏腹に、凍てつくほどの冷酷な含みをもって響いていた。
<続く>
- 342 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2010/01/07(木) 01:44:03 ID:aVaW4TKM
- お、続きが来ていた!
何が起きているんだろう。気になるなぁ。
- 343 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2010/02/04(木) 00:23:21 ID:lhcEuDuA
- 「・・・ぉおい・・・無事かー?」
塔内図書資料室の門にもたれ掛かる吟遊詩人の気遣う声が響いた。
崩れた本の山を横へ避けながら、吟遊詩人が体を起こそうとしている。
幾度目かの振動―これまでの揺れの中で、一際大きかったもの― により、
避難中の本の山が大きく崩落し、吟遊詩人に襲いかかった。
その本か、地面か、どこかに体を打ち付けたのか、その体は酷く重く感じ、上半身を起こし、扉へもたれ掛かるのが精一杯だった。
同じく大切な本を避難させていた司書の女性とは、図書資料室の門を隔てて内と外に分けられ、崩れた本の山が互いの姿を隠し、その行き来をも阻むようだった。
「・・・あ・・・うん・・・なんとか・・・大丈夫・・・」
扉と本の山の向こうから司書の返事があった。
扉の外、通路側からの塔内の駆動音に紛れた為か、その声はひどく弱々しかった。
「・・・でも・・・」
司書の言葉はそこで終わり、続かない言葉を待って静寂の間があった。
「でも・・・って! 本当に大丈夫なのかよっ!!」
静寂に不安を覚えた吟遊詩人が、がなるように言った。
駆けつけたい気持ちを阻む重い自らの体が、その声を荒げさせる。
「まってろ・・・今・・そっちいくから・・・・」
その答えは帰ってはこなかった。
床のカーペットをずる音と、体で払い除けた本の崩れる音をさせながら、
吟遊詩人は腕の力だけで這い、司書の元へ駆けつけようとした。
「こないでっッッ!!!!!!!!!」
慟哭のような司書の声が辺りに大きく響く。
「・・・その・・・いま・・・動けないのだけど・・・・・」
司書は無意識のうちに出た自らの大声に我に返り、声の調子を落とすが、
その声には隠しきれない動揺を含んでいた。
「その・・・今は・・・こっち・・・こないで・・・・・」
吟遊詩人に声を掛けながらも、司書の眼はただ一点を見つめていた。
顔に何時もよりも青白さを浮かべ、その表情は不安と動揺に呑み込まれ、揺れていた。
見つめるその先に、そのすべてを語る理由が鎮座する。
そこに降り積もった本をどかそうとも、動かない自らの足。
その足の膝から下が―――――――ない。
膝からつながるその下の感覚だけを頼りに膝を折り曲げて体へ引き寄せようとする。
追従するように体に引き寄せられる一回り分厚く見開いた一冊の本。
膝から下が、まるで、その本に喰われているか、吸い込まれているように―
――――――――――在った。
<続く もしくは引っ張るw>
- 344 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2010/05/09(日) 14:38:59 ID:yfobIjRQ
- り・・・リニュまでには終わりた・・・。
-------------------------------------------------------------------
「・・・だれ・・・だ・・・」
錬金術師は、声のする方へ顔を向けた。
倒れ伏した床から見上げた映るコンソール。
その上を切り裂くように何本もの稲光が走っていた。
稲光は、明滅を繰り返しながら収束し、みるみるうちに光球へと変わった。
「これ・・・は・・・・」
錬金術師が重い体を引きずり光球へと近づくと、その光球から小さな手が現れた。
それは空を掴むように手を伸ばし、それに続く体が徐々に現れた。
その不思議な光景を呆然と見つめる。
その影が、錬金術師をゆっくりと覆っていった。
“―――h はええええええぃっ”
――その刹那。声が響いて突風のように駆け抜けていった。
序々広がる影は、その声とともに突然、錬金術師を包みこむように大きくなると、
光球から現れたその影――小さな体が、錬金術師に勢い良く降りかかった。
「―――んっっ―――くっ」
突然強襲に錬金術師が声も上げられず、くぐもる息遣いのみを吐き出す。
錬金術師はその体にの降りかかった塊を受け止めて床へ転がった。
反射的にその塊を手でどかす。
錬金術師のその手には人肌の温度と小さな質量の名残があった。
どかされたその塊、その場で体をまるめ、もそもそと動いていた。
「・・・ん・・・ハぁ・・」
その塊から産声のような弱く小さい息吹があった。
錬金術師はゆっくりとその小さな塊を見ると、それは幼い少女の姿だった。
「―――おのれ、、、まだ我を拘束し、阻むというのか―――」
先程の冷淡にして幼い声に気づき、錬金術師が顔を上げてコンソールをみると、
そこには同じ姿をした少女がもう一人、訝しげに佇んでいた。
その少女が自分手や腕、体を見やり、肩をぐるりと回すと、そうつぶやいた。
「―くそっ・・・切り離せたというに、この姿は・・・・。
なんぞ・・・・?? まるで・・・力がでない・・・???」
錬金術師を無視するように、コンソール上の少女が訝しげな声でつぶやいていた。
「誰・・・だ・・おまえは・・・」
口を開くのも重かった。
寝入りよりも重重と感じる体をおして、その疑問が錬金術師の口をついて出た。
「――――――私・・・か?」
コンソール上から、床に倒れ伏す錬金術師を見下すように少女が言う。
その瞳には、その姿とはまるで似つかわしくない冷淡な光を宿していた。
「―私は・・・っくくっ・・・お前らが『封印した』と思っているモノさ―」
嘲笑を含んだ言葉が響き、錬金術師が目を細める。
その言葉の真偽は心が感じる違和感が本当だと唱えていた。
細かな立証を脇においてなお、今まで感じていた違和感のパズルが少しずつはまりだす。その少女の声には、その少女の言葉には、そんな強制をもった呪詛の力があった。
「もっともこの姿は、我を阻もうとした、そこに転がる少女のものだがな・・」
言葉はその子供子供した声色とは真逆に、深い闇を宿す重厚な韻で響く。
「お前は―・・・超兵器・・・の意思・・・だとでもいうのか・・・・」
錬金術師が臓物を吐き出すように言葉を紡いだ。
その目は見上げるようにコンソールの上に立つ少女を見上げ、見定めるように強く光る。
「くくく・・お前だけは気付いていたようだな・・・だが・・もう遅い・・・」
少女は腰に手を当て、コンソールに腰掛けて足組む。
嘲笑とともに続く言葉は、まるで床の錬金術師へ、侮蔑のように下された。
「私は私の体という殻を脱ぎ捨て、私をも凌ごうとするこの塔と同化した。
すでに私の意思は、私を抑えようとした力を辿り、この塔へと降臨した。」
(そんなことが・・・)
出来るのか?という疑問は渦巻いていたが、現状という事実がそれを飲み込んだ。
看過した凶兆を読みきれなかった、その後悔だけが錬金術師の心に染み広がる。
「お前も感じただろう、この塔の力の膨張を。
私は私をも阻もうとしたこの塔の力を飲み込み、それと入り交じりて、
我が魔力は、血流のごとくこの塔を駆け巡り、その隅々までを掌握した。
駆け巡る魔力は私の血となり、
鼓動するあまたの機関は私を構成する体となり、
この塔の力は私がふるう手足となり・・・。
―そしてこの塔は新たな私となり、再び私は世界の滅びへと歩み始める。
―そのはず、だった・・・のだがな・・・。」
若干悔しそうに、少女はその脇に転がる同じ姿をした少女の見遣る。
「私を阻む、最後の枷(リミッター)すら、そこに転がっているのにな―。
まだ、私を阻むか。この世界を壊すなと囁き、この心を迷わすか。―忌々しい。」
もうひとりの少女、枷と呼ばれた少女が床に転がっていた。
吐息のような呼吸にわずかに胸を上下させて、静かに眠っていた。
錬金術師はその姿を過去の記憶とたぶらせて、
遠ざかる意識の中で薄ぼんやりとした過去の記憶を見ていた。
噂に聞く、
超兵器の制作も終盤、
起動寸前まで完成しなかったという『精神』という自律制御機構―。
持て余す力の飲まれ、理論上コントロール不能なまで、膨れ上がった破壊衝動。
それを抑えるために『精神』に組み込まれたリミッター。
対話不能だった超兵器の『精神』と対話し、稼働安定領域までに引き上げた秘匿機構。
そして、その秘匿機構に組み込んだとされるひとりの少女の噂。
どこぞの人体研究の派生で生み出された子(結果)だとも―。
端々の噂を頼りに整合し、繋ぎあわせた超兵器の情報。
それらが漣のように、錬金術師の脳裏に浮かんでは消えた。
薄く白んだ辺りの景色に、眠る小さな少女の姿があった。
その少女こそ、―まさか―であったのかもしれない。
「―――まぁ、いい。」
スフィアに写された塔内を見ながら、少女が軽く微笑んでいた。
「私が滅んだとでも思っているなら好都合だ。
ゆっくりと私はこの塔に潜み、本来の力を取り戻すとしよう―。」
その姿はまるでその惨状を楽しむようだった。
<つづく>
- 345 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2010/05/21(金) 00:37:53 ID:QgSGXrck
- 続編乙です。後1カ月か……
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