【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】
[104:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/04/18(月) 13:28 ID:Z/kq58Ys)]
6
そこは、時計塔のある町だ。名は、アルデバランと言う。
町中に水路が張り巡らされた、静かな町。ぱしゃぱしゃと、船を漕ぐ櫂の音が、風車の軋む音と遠く重なり合う。
その町の狭い通りの一角、石畳の上を男が一人、進んでいた。
「もう少しか…久しぶりだな」
呟き、彼は両脇の建物に、四角く切り取られた空に在る、時計塔を懐かしそうに見上げた。
何とはなしに愛用の古いギターへと手を遣り、そしてまた、下げる。
彼の顔には仮面。頭には、ターバンの様に巻かれた薄青の頭巾。
「……?」
声が聞こえた気がした。複数。
若い男が数人と、子供…少年だろうか?が一人。
男は、立ち止まり声のした方を向く。
彼の耳が示すとおりの、言い争う集団が、そこに居た。
屈強…とはいかないものの、それなりに経験を積んでいるらしい冒険者が数人と一人の少年。
「んな端金で、そんな危険な頼みなんて聞けるかよ」
そのうちの一人…珍しくも、前をきっちりと止めたシャツを着た細身のブラックスミスが、呆れた風に言った。
「何だよ、このケチ!! 俺の小遣い全部なんだぞっ!!」
「ケチも糞もねぇよ、ガキンチョめっ。いいか…?100zじゃ今時、肉も満足に買えねえ。
物事には、相場ってもんがあるんだよ。俺だって、よーーーーーっくそのへんは勉強したもんだ」
「うるさいやいっ!! 偉そうに言うなこのオッサン!!」
ぴしり、と鍛冶師の額に判りやすい青筋が浮かぶのを男は見ていた。
「あらあらまあまあ…オッサンだってさぁ。まぁ、あんた確かに悪人顔だしねぇ。
それにしても、子供に対してその言い方はないんじゃない?」
PTの中の一人、妙な口調の男ハンターが言う。
頭には、花の髪飾りを一本、咲かせていたりもする。
「うるせえ、このカマ野朗!!俺の後ろに憑いてくるなっ!!
というか、そこなガキンチョ!! 誰がオッサンだっ、ホルグレンばりに修正しちゃる!!」
不穏当な事を言いつつ、襟元をつかもうとする、鍛冶師。
しかし、ばっ、と真横に跳んで伸びてきた手をひらりと避ける。
…中々の、俊敏さである。
「俺の犬探してくれない奴なんかの言うことなんてきくかーっ!!」
大声で叫ぶや否や、身を翻し、走り出した。
「あ、コラァ手前ぇっ待てっ!!」
鍛冶師も、それを追いかけ…
「待ってなんかやるかよーっ!!」
少年は後ろを振り向き、あかんべーをしつつ、走るが…
「こっちまで来てみやが…うおわぁぁっ!?ど、どけーーーーーっ!!」
目の前に、高速で迫る…というよりも直線上にいた男に気づかなかった。
軌道修正すべく、慌てて無理やり体を捩ろうとする。
「……」
一方の男は無言でひょい、と後ろに一歩下がった。
その唐突な動きに少年は、一瞬思考が空になる。
少年は、全力疾走していた。これは前提だ。
続いて、全く注意が散逸した状況に遭遇した。
そして、この三段論法が示す結論は。
「のうっ!?」
一声。地面に出ていた出っ張りにつま先を引っ掛け、どべしゃっ、と躓く。
勢いあまって、ゴロゴロと転がり…尻を上に向け、ひっくりかえった状態でようやく停止。
そのまま全く動かなくなった所を見ると…どうやら気絶しているらしい。
「ったく…てこずらせやがって…観念しやがれ!!」
後ろの襟を掴み、猫を持ち上げる様にして少年を引きずり上げる。
「ああん…それじゃ、悪者みたいじゃない。もうちょっと、優しく言ったらどう?
なんていうかしらん…そう、囁くみたいに」
「喧しい!! 鳥肌立つから擦り寄るなぁぁぁぁっ!!」
「あら、つれないわねぇ…この、い・け・ずっ♪」
つん、と男ハンターが鍛冶師の首筋を指でつつく。
ぞわ、とその部分を起点として一斉に鳥肌が浮かび上がった。
「止めろ貴様物欲しそうな目で俺を見るなそれ以上続けると埋めるぞごるぁ!!」
「産める…? そんな…受けなら受けと早く言えば…愛ってすばらしいわぁっ」
「黙れぇっ!!」
絶叫と同時に放たれる拳は、がこんと顎を捕らえ、男性から両性?へと進化していたハンターをものの見事に吹き飛ばした。
くるくると錐揉みしながら宙を舞い、重力に従い落下。ずがん、と敷石に打ち付けられた頭が小気味良い音を立てる。
「痛いわねぇっ、何するのよっ!!」
しかし両性類はへこたれない。がばっ、と立ち上がると何事もなかったかのように鍛冶師に怒鳴り返す。
目を回した少年を片手にぶら下げたまま、ぎゃあぎゃあと言い合う二人。
後ろでは…もう一人の冒険者…女性の聖職者である…が、諦めたような表情でハンターにヒールを掛ける。
その行動一つとってみても、彼女がこの二人に関わらない方がいい人間だと理解できる。
「…あー、お二人さん?」
ややあって、プリーストに心中で同情しつつ男が二人に声をかける。
「何だっ!?」「あら、なぁに?」
「いや、単純なことだが…少し、落ち着いたらどうだ?」
男の言葉に、その二人は、お互いの顔を見合わせ…
それから、仮面の男に視線を遣り、漸く口を閉じた。
「…すまん。ははは…俺、今年で22にもなるのにな」
鍛冶師は、ようやく正気にもどったのか間が悪そうな様子で言い、
プリーストも何とも申し訳なさそうに頭を下げていた。
「それはいいんだが…少しいいか?」
「?」
不思議そうな顔をし、小首までかしげて両性類が男の方を見つめる。
「う…いや、その子供の事だが…何かしたのか?」
その視線に、思わず半歩後ずさりつつ、尋ねた。
「ああ、こいつ?」
ひょい、と片腕に提げた少年を示してみせる。
男は、頷いてそれに応える。
「そこに居たんなら見てたろう?いきなり…」
途中で言葉を切り、提げた方の腕を軽く揺らしてみせる。
「こいつが、知らない間に棄てられた犬を探してくれってせがんできてなぁ…100Zで」
けどよ、大体、俺みたいな貧乏ブラスミが一月どれくらい食費削ってるのか判ってるのかよ…とか
全然レアは出ないし、扱ってた商品が急に暴落するし、週に一回はテロに巻き込まれるし、毎日昼飯抜いてるんだぞ…などと、
悲しい独り言が、鍛冶師の口からはブツブツと漏れている。
「なるほど…」
一方の男は、悲しい呟きに気づかないふりをして頷く。
賢明な判断であった。
「馬鹿ねぇ。日々、理不尽な不幸と戦うのがあなたのライフワークじゃない」
「そんな腐った人生死んでもいやじゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
鍛冶師が喚く。プリーストが、重い溜息を吐いていた。
と…吊り下げられていた少年が、もぞ、と体を微かによじる。
う…ん、と微かな声。どうやら気がついたらしい。
…しかし。
「なーーーーっ!! 離せ離せ離せーーーーーっ!! この幼児(放送コード)!! ショ○×▼野朗ーーー!!」
気がつくか早いか。少年は正しく、野良猫の如くに暴言を吐きながら暴れまわる。
最も…吊るされた状態である。手足をばたばたと振り回し、身体をよじったところで、
右へ左へ、ぶらぶらと親猫にくわえられた子猫の様にゆれるだけであるが。
「まぁ…おマセさんね」
「お前な…」
頬に手を当て、艶めいた様子で感想を述べるOh-ハンタに、鍛冶師は呆れたように呟く。
「変な仮面のオジサン!! 仮面被ってるなら見てないで助けてよっ!!」
少年は、矛先を男に向け、叫んだ。
「…そうなのか?」
「そういうものだよっ!!1+1=2と同じくらい明らかだっ!!
っていうか、今すぐ助けろーーーーーーっ!!」
「ふむ…」
顎に手を当て、一瞬考え込むような様子を見せる。
「何考えてるのさうすのろーっ!! はやくしてよっ!!」
そして、彼は結論を出した。
「鍛冶師さん、どうぞ。存分に灸を据えてやってください」
少年の顔の中で、顎がすとんと垂直落下した。
「OK。任せとけ」
片腕に少年をぶら下げたまま、鍛冶師と連れの二人は歩き始め、逆の方向へと進んでいく。
『馬鹿やろーーー!!裏切り者ーーー!!それでも仮面つけてるのかーっ!!』などと叫び声が背後から聞こえてくるが、それには構わない。
一度、軽く息を吐くと彼は時計塔へ再び歩き始める。
塔の向こうの爽やかな空には、綿雲が静かに流れていた。
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