【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】
[334:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2009/01/04(日) 20:58:37 ID:8sxSCcV.)]
331、333の続きです。
だいぶ間があきましたが、とりあえず終わりまで書きたいと思います。
なにかのきっかけでふと、スレへ戻った人が見てくれれば幸いです。
「うはー、すげえすげえ。あれが抑えこまれてるぞ?」
吟遊詩人の男が、窓の外の超兵器を見てつぶやいた。
その男は時計塔側からその攻防を窺うことのできる図書資料室の窓辺に腰掛け、
ビリビリとふるえる戦場の空気を肌に感じながら、窓の外の攻防を見守っていた。
そして、その攻防を特等席から見守りながら、轟音の咆哮が響く度、
吟遊詩人もまた驚きの声を上げていた。
「うはっw」
この攻防に介入できる人間も限られてはいるが、それを差し引いても、
その声色は内外の緊張感をよそに、あきれるほどのんきなものだった。
そして辺りを震わす轟音がまた一つ響くと、今度は内側から大きな音が響いた。
吟遊詩人はその音のほうへ振り返ると、崩れた本の山と、埋もれ伏す女性の姿を見た。
伏して顔こそみえないが、前へ伸びる美しい髪は見知った女性のものだった。
「おおい・・・大丈夫ー?・・・」
吟遊詩人が声をかけると、もぞもぞと女性が動いた。
助けてといわんばかりにその姿だけが、ふるふると震えていた。
吟遊詩人が本をどけてやると、ゆっくりと体を起こした。
「・・・痛ッつつつたいなぁ、もう」
女性は鼻まで下がった眼鏡をなおしながら、散乱した本を集めて積みあげだした。
また同じ目に遭いそうではあるが、急いでる様子にその余裕のなさが伺えた。
「まじで大丈夫かよ?」
「――――――!?」
声に反応して上げた顔の正面に心配そうな吟遊詩人の顔があった。
―が、あまりに顔と顔の距離の近さに女性がとっさに後ろへ飛び退いた。
―ドンッ。
―――と鈍い音がして女性が振り返ると、そこには再び崩れ始める本の山がみえた―。
ドサドサと落ちる音だけが、女性のつむった目の裏側で響き、しばらくした後、
何の感触のなさに目をゆっくりとひらくと、そこには、自分に覆い被さり、
そのほんの山から身を挺して庇う、吟遊詩人の姿があった。
「―いや、―ほんっと、気をつけろな?」
「・・・あ・・・アリガトウ」
状況か、自分の失態にか、赤みを帯びた顔を背けながら女性は小さな声で礼を呟いた。
一通り、崩れた本を脇にまとめた後、女性は再び吟遊詩人を見た。
吟遊詩人は窓際に腰掛け、また外の観戦を続けていた。
「―ねぇ、あなたは避難しないの?」女性は吟遊詩人に声をかけた。
窓の外では、世界の命運をかけた一戦が行われ、その戦火に巻き込まれないように、
と、多くの者は遠方へと避難していた。
「―いや、気がかりがあってね、一人で逃げるわけにもいかないでしょ・・・」
窓の外を眺めながら吟遊詩人が呟いた。
「・・・き・・・気がかり・・・って?」
戦闘要員を除き、この塔から避難していないのは女性と吟遊詩人ぐらいなものだった。
女性は目的あってのことだったが、その引っかかる物言いに、女性は少しの期待を込め
質問を返した。
この一戦にまければ、世界が崩壊するかもしれない
―そう思えば気恥ずかしさもあるが、確認しておかないといけないこともある
――と、女性は自分に言い聞かせた。
まじめな顔でだまったまま吟遊詩人が振り向いた。
その雰囲気にのまれ、女性もまた押し黙り、微妙な間が生まれていた。
「いや、吟遊詩人の端くれとしてねw
この一戦の行方を見逃すわけにはいかないでしょ、語り部としては、さw」
軽口で柔和に顔を崩した吟遊詩人が答えた。
「―。あー、そうですか、そうですか。」
期待はずれな答えに少しふくれながら女性が答えた。
手持ちぶさたのように、女性はまた本を整理し始めた。
”――本当は、あなたが気がかりなんです―”
二人は互いを背にしながら、互いに心の中で本音を呟いた。
「ーで、なんで、自分こそ逃げないの?」
聞ける部分の言葉だけ、吟遊詩人は疑問にのせた。
「んー、私は司書として、この貴重な本達を守る義務がありますっ!」
(―というのでいいかな・・・)
と、女性もまた司書を名乗り、本気と言い訳半々の答えを返した。
「というわけで! あなたも!!
大事な本を別室に避難させるのを手伝ってほしいのです、がっ!?」
司書は半分の本気も、半分の義務もまた重要だった。
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「・・・おかしいですね」
錬金術師が呟いた。
その手はその間も機器の調整と操作を休むことなく動き続けていた。
戦況も順調に推移し、機器・計器類ははタイトなその性能ながらも安定し、
錬金術師自身の手に掌握されていた。
魔力は絶えず増幅炉より供給され、時計塔の隅々まで駆けめぐっている。
そして、その機能を最大限に発揮した時計塔により、さしもの超兵器も
慟哭の声を上げながら、次元の狭間へと葬りされられようとしていた。
―気味が悪いぐらいに全てが順調に推移している・・・。
喜ばしいはずのそのことが、なぜか気がかりでならなかった。
むしろ胸の奥で、消えることなく朧にくすぶり続けていた。
「・・・ふっ・・心配性すぎますかね・・・」
錬金術師は軽い疲労の為か自嘲気味に呟く。
張りつめた緊張の糸はいまにも擦り切れそうで、
楽観の許されない現在の状況においてもそれを寛容させるものがあった。
見やる計器類の間の、関係各所の映像を届けるスフィアがあった。
時間で切り替わる映像の中、必死に詠唱ささげる見知ったウィザードの姿が映った。
きっとその人がそばにいたのなら、心配のし過ぎだと笑い飛ばされたことだろう。
この戦いが終われば、世界は救われ、明日やその先が訪れる。
たやすくはないかもしれないが、きっとより良い未来を創造していける。
――その未来に、ほんの少しだけ自分の未来図を加えてもいいですかね?
ほんの一瞬ではあったが、錬金術師の顔にほころび、ゆるんだ。
そのウィザートと歩む未来を想像して自嘲気味に短く笑う。
錬金術師は、愛される幸せを気恥ずかしく思い、
それに応える自らの気持ちもまた、はっきりとは表さずに過ごしてきた。
互いにそれを察することができるだけの年月を過ごしながら、
それを確かめる機会をあえてやりすごしてきたのかもしれない。
ゆっくりと当たり前になっていくそれを、ことさら幸せだとは考えなくなっていた。
だから、錬金術師は確かめなければならない。
迎える未来で、それがなにものにも代え難いことであることを。
「―さて、そのためにもこの戦いを終わらせる必要があります、―よね?」
錬金術師がスフィアに映る超兵器の姿を見ながら、その先にみる未来へと問いかけた。
錬金術師の疲れ切った手に力が再び蘇るような思いがした。
操作盤と計器類を通し、それに応えるような手応えを錬金術師は感じていた。
――全てはうまくいく。
――疑うべきはなにもなく。
この戦いを見守る誰の目にも、そう映っていた。
<続く>
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