【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】
[66:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/03/24(木) 04:35 ID:6FDgVMbc)]
3.
てくてくと、長い廊下を歩きながらアラームは、考えていた。
荒武の言い回しは難しく、彼女の知らない言葉もあったけれども、
取り合えず、管理者のおじさん達が自分を呼んでいるらしい、ということは理解できた。
ただ、その理由が彼女には思い浮かばない。
いや、しばし考え込んで後、少女は一つの理由に思い至った。
彼女が『着ぐるみ』を壊す回数が増えているのではないか、と。
考えてみると、確かに最近、悪い冒険者に着ぐるみを壊される回数が増えた気がした。
『…どうしよう…』
実際に数えた訳でもなく、その考えは杞憂に過ぎないのだけれど。
しかし、彼女とて未だ幼い少女。一度掻き立てられた不安を自ら抑える術を知る筈も無い。
勿論、四六時中何時だって誰にだっていい子に振舞ってはいられないのだ。
一旦考え始めたが最後、どんどんと悪い想像ばかり膨らませてしまう。
具体的に言うならば、目を吊り上げ、眼鏡をぴかぴか光らせて睨むオウル先生や
蒸気を頭の辺りから噴出して怒っている管理者を思い浮かべて、彼女は恐怖した。
その背景は暗雲が立ち込め、遠雷がごろごろと鳴り響いていたりする。
『全く…貴方は何時も何時も機体を壊してばかりいて一体何を学んで(以下、延々と説教が続く)』
『このところ幾らなんでも壊し過ぎじゃよ。全く、ワシの身にも(以下、延々と愚痴が続く)』
『どうしよう、どうしようっ』
一瞬思い浮かべた恐るべき光景に真っ青になる、アラーム。
幾ら時計塔の一員として一生懸命に頑張ってるといっても、好き好んで怒られたい訳では無論、無い。
途端、足取りは重くなり、呼ばれた部屋までの距離が永遠と同じくらい長く感じられる。
「うー…」
回れ右。そして戦術的撤退を実行したい気持ちを必死で抑え、アラームは歩く。
その歩みはピラミッドのミノタウロスよりも遅かったりするが。
何時もの勉強部屋への曲がり角や、昼間、一緒に闘う皆が居る筈の談話室。
バースリーが腕を振るう食堂を通り過ぎ、目的の部屋が近づいてくる
勿論、憂鬱の度数もうなぎのぼり。じっとりと嫌な汗が手に浮かぶ。
そして、そんな彼女は背後の不埒で悪いジジイに気づかない。
「おおー!! アラームたんじゃっ!! 待っとったぞ!!」
ジジイ…新参にも関らずライドワード部隊に無断で秘蔵の写真集なぞこっそり追加しいの、
女冒険者にハアハアしぃのでこってりと時計塔の真面目な面々から絞られ続けたにも関らず、
反省なぞ皆無のエルダー老である…は、勿論、少女のブルーな心境なぞ一切知らぬ風に、大声で言う。突然に。
「わひゃぁっ!?」
「アラームたん。飛び上がっちまう程、ワシに会えて嬉しいかぁ」
全く予期していなかった大声に、飛び上がる程驚くアラーム。
一方、豪快に笑いながら、かさかさに乾いた手で少女の頭をなでる爺。
「え、あ、う…え、えと」
頭をなでられるまま、にへらーと曖昧な笑顔でエルダー老に答える。
「取り合えず、それだけは違うと言わせてもらいます。エルダー老」
そんな老人と少女に、部屋の中から現れた蒼でそろえた外套と山高帽を纏った一人の紳士が声をかける。
「う…」
「遅い。一体何をやっていたのだね」
くちばしからは、目の前で萎縮する少女に対する容赦の無い言葉。
彼は、梟の姿取る大悪魔。名を、オウルデュークと言った。
そして、言うまでも無く少女が今現在持つとも会いたくない人物である。
彼は、一度溜息を吐くと
「全く…私は何時も君に時間は大切にしろと言っているだろう。
人間の言葉を借りるのは癪だが、タイム・イズ・マネーという言葉もある…」
「は、はいっ先生!!」
しゃきっ、と背筋を伸ばしたアラームを前に、また何時もどおりの説教が始まりかけ…
「梟のぅ〜、別にそれくらいいいじゃないか。アラームたんが可哀想じゃよ」
「エルダー老!! 貴方は何と能天気なことをおっしゃるか!!
それと…私のことは梟と呼ぶなと何度申し上げたら老は理解なさる!?」
梟と呼ばれる事を、高貴な血筋の悪魔たる彼は我慢できない。
怒りに飾り羽を逆立て、エルダーへと詰め寄る。
「私の名前は前に申し上げた筈!!」
「とはいってものぅ…なんじゃったっけ?」
そんな怒れる悪魔を前に、老人力を発揮するエルダー。
ぽりぽりと立派な髭を蓄えた顎を指先で掻き、暫し黙考する。
「思い出されましたか?」
口元をひくつかせながら、デュークが言う。
「んー…デューク…」
「そうです、私の名前は…」
なにやら思い出しかけたエルダーを前に、梟が言う。
「デューク・更家じゃったか」
…その瞬間、隣で事態を見守っていたアラームは、
俯いているオウルデュークの蒼い外套が、一瞬、オウルバロンの様に紅く染まるのを、確かに見た。
ゆらり、と彼の周囲の大気が見えない圧力に歪曲し、迸る魔力に金属の床板に亀裂が走る。
「あわ、あわわわわ…」
まるで、ザ・ワールド。三者の時間は停止する。
「ク…ククククク…ククククククククク…」
肩が、揺れる。漏れる様な笑い声にあわせて上下に。
外套が揺れる。怒りのあまり、見境のなくなった魔力に。
「ん、違ったか? それじゃあ、デューク・東郷か?」
ぷちっ、という擬音。そして 時は 動き出す
一歩、デュークは歩みだし顔を上げる。
そこには、笑顔。但し、それは怒りに歪んでいて。
「エルダー。私には、誇りがある。貴族として生まれ、貴族として生きてきた矜持だ。
お前は、それを汚した。完膚なきまでに汚したのだ。その罪を支払え。今すぐにだ」
「…ほげ?」
しかし、悪くて不埒な老人は、それを惚けた表情で聞いていて。
「…………」
その所業で遂に、彼はキレた。もう、全く見境無く。人間の言葉を喋ることすら忘れるくらい。
「クケェェェェェェェェェッ!!(訳:ぶち殺すぞヒューマンがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)」
「おわーっ!! 梟のがキレたわいっ!!」
ローブのすそをたくし上げ、脛毛の生えた足を見せびらかせつつ、
エルダーは反転、全力疾走で敵前逃亡を開始した。
ライトニングボルトが嵐の様に乱れ撃ち、デュークはエルダーを追いかける。
「………」
そして、後に残されたのは土煙を立てながら走り去っていく二人を呆然と見送るアラームだけ。
「………え、えと…うん。取りあえず、呼ばれてるし行った方がいいよね」
取りあえず、自分自身を納得させ、彼女はすぐ近くに見える目的地に向かった。
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