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【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】

[98:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/04/14(木) 13:26 ID:GoRhZSK2)]
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「でも、それならどうして私、呼ばれたんですか?」

「ああ、それはですね。先日、一階フロア巡回中のパンクが見回りの途上、
冒険者進入口付近でその箱を発見し…」

 難しい言葉の羅列は、進撃のラッパを高々と吹き鳴らし始めた。
 だが…肝心のアラームは、というと。

「……」

 固まっている。いや、むしろラッパの音にくるくると目を回しているようだった。
 と、不意にこれまでふわふわと浮かぶばかりだったライドが、ため息を吐くようなしぐさを見せた。
 ゆっくりと空中を動き、少女の隣まで移動するとホログラフの女性は歩みを止める。

「つまりね、アラーム」

「ライドお姉さん?」

「…あのですね。私の話はまだ終わっていないのですが」
 会話に割り込まれた管理者は、ぎり、と頭に相当する部分を女性に向けると、少し抑揚に欠ける声で言った。

「まぁ、管理者や。ここは大人しく引っ込んどきな。
アラームが、お前さんの説明で目を回してるじゃないか」

「バースリーさん、そりゃああんまりですよ」
 
「あんまりなもんかい…ほれ、見といてみい」
 言って、バースリーは節くれだった指先で、アラームを指差す。
 そして、一言尋ねた。

「アラームや。さっきの説明、よく理解できてるかえ?」

「う…え、えとっ…出来てますっ……」

「嘘お言いじゃないよ。バレバレさね」

 尻すぼみに消えていった返事に、魔女は苦笑しつつ答える。
 同じく女性陣のライドも肩をすくめながら、その様子を見ていた。

「判りましたよ…」
 表情のない機械の顔に、管理者は不満そうな色を浮かべながら、渋々承知した。
 椅子に座りなおすと、彼はもぞり、と動いて居住まいを正す。

「さて…と、アラーム」
 そんな管理者を、すまなさそうに上目遣いに見ているアラームへ向け、女性が言う。

「ちょっと、この箱の中身、見てもらえないかしら?」

「えっ…でも…いいの?」

「大丈夫大丈夫。別に変なものじゃないから安心して」
 にぱっ、と安心させるように笑ってみせる。

「……」
 しかし、ライドが示してみせるそれは、正体不明の箱である。
 住人達を疑うわけではないけれども…どうにも、少女には未知の物体に対する本能的な不安が過ぎっていた。
 覚悟は決めた。おもむろに、アラームは机に近づき…恐る恐る、前のめりになりながらも上蓋に手を伸ばす。

 『わふ』

 …しかし、少女が中身を見るよりも早くか細い声で、箱が鳴いた。

「!?」

 『わふわふ』と、更に続けて二度。その鳴き声に促される様に、そっと蓋を持ち上げる。

「わぁ…」
 思わず、口から感嘆の声がついて出る。
 箱の中には、一匹の子犬が居た。茶色い、綿毛の様な毛並みで、敷かれた白く柔らかな布の上に伏せている。
 そいつは、自分に向けられた視線に気づいたのか…ゆっくりと頭を上げると、ふんふんと鼻を動かしながら、
潤んだ目を少女に向ける。一人と一匹の視線がぴったりと合っていた。

「……」
 ぱちくりと瞬きを繰り返すアラームと、じっとそんな少女を見ている子犬。
 机上に腹ばいになりながら……じっと、何をするでもなく見詰め合う。

「どうしたの?」

「あ、えと…… 本物の犬見たことなかったんです。
でも、ライドお姉さん。この子は?」

 名残惜しそうに子犬から目をそらすと、物問いたげな目で女性を見る。

「そう。その仔のことで今日は呼んだのよ。パンクが、一階で見つけてね」

「ワシ等だけじゃなく、アラームの意見も聞こう、とライドさんが言ってのう」
 ライドワードの言葉に、クロックがそう付け加える。

「私達だけで決めるのも横暴ですし…ちなみに、貴方を呼ぶ前に多数決をしたんですが、
棄権…というか、舌戦途中で退出ですか…を含めて、丁度半分半分で決着がつかなかったんですよ。
バースリーさんは、アラームと一緒でいいと仰いましたし。因みに、棄権されたのは…」

 管理者が、言いかけたその時だった。

「クケーッ!!」「おわーっ!! おわぁぁぁーっ!!? ろ、ローブに火が付いたぞいっ!!」

 ドアの向こうから鶏の如き怒声と、緊迫感に欠ける老人の悲鳴。それから、ひっきりなしに轟き続ける雷鳴。
 そして、流れライトニングボルトが、部屋の扉を真っ二つに砕き折るにいたって、管理者が再び口を開いた。
 なにやら、ぎしり、と錆びたゼンマイを無理やり動かしたかのような様子であった。

「…言わなくても、判りますね?」

「う…うん」

 確かに、これならば仕方がなかった。
 というか、横から口を挟みたくなるような状況ではなかった。

「話、元に戻していいかしら?」

「ええ。構いませんよ」

 各人を代表して答えた管理者の言葉を受けて、ライドワードはこほん、と一度咳払いをする。

「さっき、管理者さんが言った多数決っていうのは、この仔を塔におくか、
それとも、人の町においてくるか、っていうのを決める為なの」

 一度言葉を切る。

「アラームは、どっちがいいと思う?」
 まっすぐ、少女の目を見据えて言った。

「……」
 まっすぐに目を見つめられ、アラームは考え込む。
 即答はしない。うー、という呻きにもにた小さな声が零れていた。
 たっぷりと、数分はそうしていただろうか。おずおずと、アラームの片手が上がる。

「私は………」

 その場に居る全員の視線が、少女に集まる。
 くぅん、と子犬が鳴いた。

「この仔のこと、放っておくのはいけないと思う」

「どうして?」
 再び、女性は問う。

「……」
 答える事が出来なかった。
 自分自身の判断を肯定する理由が、ぼんやりと浮かんではいるのだ。
 それを意味のある言葉にくみ上げる事が出来ないだけ。
 残念ながら、アラームはその為の冴えた言葉を知らなかった。

「いい?よく聞きなさい」

少女は、こくりと頷いて応える。

「この仔を放っておかないってことは、言い換えればこの仔の世話をする責任を持つってことよ?
ご飯をあげたり、散歩してあげたり、しつけだってちゃんとしなくちゃダメ。
生き物だから、もっと色々な問題だっておきるかもしれない」

 真剣な目で、ライドはアラームを見据える。

「あなたは、それが出来る?」

 矢張り、すぐに返事は返らない。
 アラームは俯き、しかし、答えを紡ごうと懸命に言葉を捜す。

 そして、小さな唇が、微かに震えた。
 俯いていた顔が持ち上がり、ライドワードの瞳を見つめる。

「だって…」

 不器用で、拙い。
 けれど、それは何処までも真っ直ぐに、心のままを顕して。

「この仔には、傍に…誰も居ないもん。一人ぼっちで、お腹がすいてて、寂しくて…
そんなの、絶対駄目だもん。私だって…誰もいないなんて、いやだもん」

 部屋にいる誰も彼もが、黙ってその言葉に聞いている。

「出来るもん。絶対出来るもん…絶対、そんな悲しい事はしたくないもん!!」

 最後は、殆ど叫ぶ様にしてアラームは訴える。
 それきり、少女は口を再び閉じた。

「アラーム」
 涙を目を潤ませて、自分を見ている少女にライドは一度だけ、目を瞑りながら息を吐く。

「ごめん。如何しても必用な事だったけど…ちょっと、厳しい言い方だったわね」
 アラームは首を横に振って応えた。

 不意に、これまで黙って事の経緯を見守っていたクロックが、椅子から浮かび上がる。
 そして、立派な髭を蓄えた老人の顔が言う。

「さて…それじゃあ、多数決は賛成で決まり、じゃのう」

 そして、その言葉の直後。一際大きい遠来が、遠く響き…そんなことはともかく、結論は下された。


 尚…しばらくして、時計塔の隅の方で、程よく焦げたエルダーが、
これまた別のパンクに発見されたのは、全くの余談である。

「……」

「げほっ…ごほごほ…梟のも、もうちっと老体をいたわらんかいな」

「……」

「…なんじゃいカビ球、その目はっ」

「…………」


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