◆みんなで創る小説Ragnarok ♂萌え2冊目◆
[94:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2009/12/23(水) 20:21:55 ID:X3DXkAus)]
プリーストのディノは何度目かわからない溜息をついた。
食卓の上で湯気をあげているのは、クリスマスターキー。
戸外からは楽しげなざわめきが聞こえる。
今夜はクリスマスイヴ。
迷いながらも買ってしまったキャンドルに火をつけて、ディノは恋人の帰りを待っている。
「……身から出た錆じゃないか」
ゆらりと揺れる炎を見つめて、また溜息をつく。
恋人のチェイサー、セルヒとのやりとりをディノは今更ながら後悔していた。
それは一月前の事だ。
いつもより激しい情事の後にディノは聞かれた。
――なぁ、プレゼントは何がいい?
機嫌を損ねていたこともあって、ディノはすげなく答えたのだ。
「青ジェム百個」
「おいおい、怒るなって。無理させたのは悪かった。
でもな、せっかくのクリスマスなんだから、もうちょっと色気のある物にしてくれよ」
後ろから抱きすくめられ、宥めるようなキスが一つ二つとこめかみに落とされる。
けれど、それでも怒りは解けず、半ば八つ当たりでディノはセルヒに言ったのだ。
「クリスマスなんて、そもそもこの辺りの風習だろ。プロンテラ生まれの君には馴染み深いのかもしれない
けど、僕には縁がないんだよ」
この言葉に嘘はない。
ディノの故郷である沙漠の街にはクリスマスなんてものはなかった。
だから、湿った寒さに負けない華やかな雰囲気は羨ましかった。と同時に少し妬ましかった。
そんな軽い諍いと前後して、セルヒは狩場に籠もりがちになった。
十二月二十五日、または二十四日。その日が近づくにつれて、恋人持ちもそうでないものも、浮き足立っ
ていく。
それに対してディノの心持ちは冷えていく一方だ。
この一週間、セルヒは一度も帰ってきていない。
一人だけの夕飯は味気ない。独り寝も侘びしい。
「あんな事、言うんじゃなかった」
今更後悔しても詮無いことだとは思っても、呟きはディノの口からぽろりと零れた。
『今日は帰る』
というwisがセルヒから来たのは半刻ほど前だ。
慌てて少しはそれらしい物を、と買い物へ走ったのは懺悔と期待から。
鍵が開く音を聞いて、ディノは思わず起ち上がった。
振り返り、部屋に入ってきたセルヒを見やる。
吹き込んできた冷たい風はプロンテラの空気、鼻先をかすめた潮の匂いはセルヒにまとわりついている香
りだ。
「なぁ、今日の飯は?」
鼻をひくつかせる恋人にディノは言葉短く答えた。
「ターキー」
「へぇ、そりゃ良かった。
イズでずっと魚介類ばかりだったからなぁ。肉だ肉」
ファーのついた裾を翻し、食卓へと向かう恋人の言葉に、ディノはほっとすると同時に落胆する。
――やっぱり、今日がクリスマスイヴだってことを期待するんじゃなかった。
馬鹿にしながらも希望を持っていた自分自身をディノは心の中で嗤う。
――やっぱり、僕には縁がないんだ。
未練たらしくプロに居るのではなく故郷に戻っておけば良かった、とディノは思う。
そうすれば、浮かれた雰囲気に流されることも、その雰囲気にあてられて不安になることもなかったかも
しれない。
自分の考えに耽っていたディノを引き戻したのは、額に当てられたセルヒの掌だった。それはひやりと冷
たい。
「おい、俺の話を聞いてないな?」
「ごめん、考え事をしてた」
「たく……」
セルヒが大仰に肩を竦める。
顔は笑っているから、気分を害した訳ではないらしい。
「ほら、飯が冷える前に渡して置くぞ」
「渡す?」
左手を取られながら、ディノは首を傾げた。何か貸していた物でもあったろうかと考えたが思い出せない。
にやりといたずら小僧のようにセルヒが笑う。
「俺の手作りだからな。ちゃんと大事にしろよ?」
言いながら、セルヒはディノの薬指に指輪を嵌めた。
それを見て、ディノは言葉を詰まらせた。
「……」
「カードまで自力だからな。このために毎日イズに籠もったんだ」
と、セルヒは誇らしげだ。
対して、ディノは贈られた指輪を凝視する。
送り主の手と同じくひんやりと冷えている指輪には、フェンカードが刺さっていた。それを認め、ディノ
は左手の拳を、
「っ、馬鹿!」
思いっきりセルヒへと振り上げた。
ディノの反応を予想したのか、職業柄の身軽さからか、セルヒはひらりとそれを躱す。
「おいおい、せっかく考えたクリスマスプレゼントに馬鹿はないだろう、馬鹿は」
「馬鹿以外に何があるんだよ! この馬鹿! こんなネタ装備じゃ売れもしないじゃないかっ」
右手も加えて殴りかかろうとするディノに、セルヒはけたけたと笑う。
「貰ってすぐに売り払うとか、酷いぞぉ?」
「どっちが酷いんだよ! 君のほうが性格(たち)が悪いじゃないかっ。どう見ても嫌がらせだ」
ひょいひょいと食卓の周りを逃げ回るセルヒにディノは業を煮やした。
殴れないならば、と指で聖印をきる。
「ホーリーラ……」
「こらこら」
頤を捕らえられ、ディノはキスで口を塞がれた。
けれど、ホーリーライトの詠唱は止まらない。
なぜなら、彼の薬指にはまっているのは――。
骸骨の指輪オブアンダーアキャスト
「んっ……」
腹に直撃したホーリーライトを物ともせず、セルヒは恋人の唇を堪能し、その後呟いた。
「メリークリスマス……、いやそれともハッピーホリデイ?」
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