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【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】

[150:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2007/09/14(金) 02:18:15 ID:g2NX44Vk)]
274.ロシアンルーレット[3日目午前]


「……」
「……」
2人が去ったあと、残った淫徒プリらの間に沈黙が落ちる。
あの叫び声は一体誰のものか。
見に行った2人は大丈夫か。
思惑が交錯する。
♀ケミは思う。悲鳴の主が♀ハンターならいい。
そのまま死んでいてくれればもっといい。
♀マジは考える。たぶんこれで♀ケミの話の真偽がはっきりする。
悲鳴の主が生きていてくれれば。
そして♀アコは思いついたことをすぐ口に出した。
「あたし達はどーしよ?」
「どうするかって、あとは侍ってるしかないでしょ」
当然のように言って悪ケミが肩をすくめる。だが♀アコは首をかしげた。
「そうかな?絶対間に合わないって決まったわけじゃないし、2人を追っかけてもいーんじゃない?」
「あ、うーん」
「キミ、時々すごく鋭いこと言うよね」
それぞれに声を上げて淫徒プリと♀マジは考えこむ。
ときどきってなによ、と♀アコが抗議するがそれは華麗にスルー。
やがて♀マジが賛成した。
「…誰か怪我してればすぐ戻ってこれないかも知れないし、追いかけた方が早く合流できるね」
だが淫徒プリは同意しかねるといった表情で首をかしげる。
「ですが皆でついていっては偵察の意味がなくなります。敵が本当に危険だった場合、強くて速度も掛かっている2人だけのほうが逃げやすいでしょう」
「でもさ、ヤバい相手とはいつか戦わなくちゃいけないでしょ?今やっても同じじゃない?」
「同じではありません。多少なりとも精神力を回復して挑みたいところです」
職業的な考え方の差だろうか。
積極策を主張する♀マジや♀アコと慎重策を主張する淫徒プリの意見が対立する。
その様子を見て♀ケミはちょっとだけ悩んだ。
彼女達に死んでもらうなら喧嘩になるよう煽るところだが、人手がこれだけあれば悪ケミの言った脱出の可能性も現実味を帯びてくる。
その可能性を今ここで消してしまうのは損ではないか。
「あの…先に♂プリーストさんの遺品を確かめてみませんか?何か役に立つものがあるかもしれませんし」
そう言って少し離れた場所に作られた土饅頭をちらりと見る。
「…ああ、そうだね」
♀マジは一瞬何か言いたそうな顔をしたが、すぐにうなずいた。
代わって淫徒プリが答える。
「でも装備は一緒に埋めてしまいましたよ」
「いえ、装備のことではなくて」
♀ケミはかぶりをふる。
せっかくの支給品を埋めるなんてもったいないとは思うが、「使える」装備を埋めてしまうほど馬鹿ではあるまい。それほどたいした物ではなかったのだろう。
それに装備を誰が持つかと言う話になれば、戦力外の彼女に回ってくる可能性は低い。
「精神力や体力を回復できるものとか、足の速くなるものを持っていないかと」
「なるほど」
淫徒プリは♂プリのものだったらしい鞄を引き寄せた。そして他の面々に鞄の中を見せる。
覗き込んだ一同はそれぞれに声を上げた。
「うわ、なにそれ」
「…干し肉?そんなにいっぱい?」
「喉が乾きそうね」
「わふ」
最後のは肉を見せられて尻尾をバタつかせた子デザである。
「食料はちょうど無くなった所ですし、これはありがたくもらいましょうか」
そう言って淫徒プリは干し肉の束を10個に分け始めた。
もっともさすがにそれだけの人数で分けると二食そこそこにしかならない。
受け取った♀アコは小首をかしげ、
「じゃああたし達のも分ける?」
鞄からペットフードを取り出した。
一瞬期待する顔を見せた悪ケミがペットフードを見て顔をしかめる。
「肉があるのにどーしてばけもののえさなんか食べなきゃいけないのよ」
「それペットフードだよ」
「わ、わかってるわよそんなことっ。直約しただけじゃない」
「直訳…かなあ?」
干し肉の束から一本選んで口にくわえ、残りを空っぽの鞄へ収めながら♀マジは首をかしげる。
同じく鞄を開けた♀ケミは、そこである物に気付いた。
(そう言えばこんなものもあったわね)
♂ローグから奪った菓子包みの状態を確かめる。
二つのうち一方はいつの間にかつぶれて泥に汚れているが、もう一方は大丈夫そうだ。
干し肉やペットフードもあったところを見ると、これも誰かに支給された食料なのだろうか。
首をかしげていると、早くも肉を一枚食べ終わった♀アコが目ざとく見つけた。
「なーにそれ?」
「たぶんお菓子だと思います」
「へー」
♀アコは身を乗り出した。
そして物欲しそうに言う。
「干し肉ばっかりだとちょっと飽きちゃうなー」
「そうですね。でも1つしかありませんし…」
♀ケミはちょっとだけ考えるポーズを見せた。
そして失望を顔に浮かべた相手に秘密めかして小声で続ける。
「今のうちに女の子だけで分けちゃいましょうか」
「やった」
柔らかめのビスケットのようなそれを♀ケミはおおまかに六等分する。
そして5人に勧めた。
空腹のときの甘いものや小さな秘密の共有は、仲を深める簡単な手段の一つである。
どうも視線の厳しい少女達を懐柔し、障害を減らしてから男性陣を篭絡しよう。とっさにそういう計算をしていた。
「なにこれ?」
「デザートです」
不審そうな♀マジへいたずらっぽく笑って見せ、さっそく手に取った♀アコと共に一片を口に入れようとする。
「待ってください」
淫徒プリがそれを止めた。そして♀ケミにたずねる。
「これの効果は?食べてみましたか?」
「効果、ですか?」
淫徒プリの質問に♀ケミは首をかしげた。
食べてみたことなどないのに分かるはずがない。
ちょっと困った様子の彼女を観察しながら淫徒プリは説明した。
「お菓子の中には茶菓子のように集中力を高められるものや、チョコレート類のように精神力を回復できるものがありますよね」
「あ、そんなんだったらいいね」
つかまれていた手を振り払って♀アコは手元の一片を眺める。
淫徒プリは思慮深げにうなずきながら続けた。
「もしそういった効果があるなら食べずにとっておくべきではないでしょうか」
もちろん真意はやや異なる。♀ケミの差し出した食料を怪しみ、とりあえず食べずに済むよう理由をこじつけたのだ。
一方の♀ケミはどう答えるか少しだけ迷った。
だが嘘をついても食べればすぐに分かってしまうことだ。ここはある程度事実に沿って答えるしかない。
「私も食べてみたことはないんです。特別な物かも知れないなんて考えませんでした」
「ふーん。ってことは箱から?」
「はい」
♂ローグを殺して奪ったとは答えにくいのでそこだけ嘘をつく。
「効果について何か説明のようなものは?」
「ありませんでした」
「それじゃ食べてみないと分からないよ?」
「そうですね」
♀アコの言葉ににっこりと笑い、淫徒プリは♀ケミに対する攻撃のカードを切った。
「ですからまず、ひとかけらだけ食べてみて効果を確かめておくべきでしょう」
「誰が食べるの?」
よだれを垂らさんばかりの顔で♀アコがたずねる。
淫徒プリはしれっと答えた。
「ここは当然持ち主の♀ケミさんにお願いしましょう」
もし彼女が毒を仕込んでいればこれで困るはずだ。
淫徒プリは♀ケミの反応を慎重にうかがった。
だが、そこには毛ほどの動揺も見られない。
「ではお言葉に甘えて」
「あ、待ってください」
まだ疑いを解いていない淫徒プリはさらにもう一押し。
「私の分の方が小さい気がするのでこちらを。なるべく多く残したいですし」
「はあ」
♀ケミの分だけ毒が入ってない可能性もある。そう考えて交換を要求したのだが、彼女は多少困惑した様子を見せただけだった。
それもそのはず、♀ケミは毒が入っている可能性に思い至っていなかった。
これまで他人を陥れることはあっても自分が仕掛けられる側に回ることなどなかったせいだろう。
「それではお先に」
どうも警戒されてるらしいと感じながらも、今度ばかりは何もしていない♀ケミは返してもらった欠片をあっさり口にした。


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