【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】
[160:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2007/10/14(日) 00:40:11 ID:SrbfZZpU)]
278.BlockBuster[3日目午前]
まばゆいばかりの緑あふれる森の中、毒々しい紫色の触手がうねっていた。
空中をのたうち、あるいは地中を貫いて突き上げ。
2人の騎士を取り囲もうとする。
「マグナムブレイクっ」
♂騎士は四方へ衝撃波を放ち、取り囲む触手の波を吹き払った。
その瞬間に生じた触手の隙間へ飛び込み、大剣を振るう。
切り飛ばせたのはわずかに2本。
傷ついた触手は断面から不気味な粘液を撒き散らしながら素早く引かれる。
だがそれ以外の触手が再び別方向から襲い掛かってきた。
きりがない。
馬防柵と弓兵・槍兵で固められた防御陣を突破しようとするのに似ている。
援護なしでの強攻は無謀と言っていい。一度引く方が賢明だ。
そんなことは分かっている。
だが飲み込まれたハンターに果たしてどれだけの余裕があるのか。
今さら下がる道はない。
「あぶないっ」
警告の声と共に♀騎士の剣が突き出され、彼の死角から迫る触手を切り裂いた。
さらに盾でもいくつかを受け止める。
しかし安心する間もなく2人の足元が不気味に震動した。
とっさに跳び分かれた彼らを真下から飛び出した触手がかすめ、態勢を崩した所へさらに何本かがまとめて襲い掛かった。
♂騎士は身をかがめて頭上にかわし、幅広の剣身を盾にして受ける。
しかしさばききれなかった触手に胴を強く薙ぎ払われた。
からみつかれこそしなかったものの、衝撃で数歩押し戻される。
「くそっ」
怪物の本体までわずか10歩ほど。
走れば数秒しか掛からないその距離が今は果てしなく遠い。
それでも彼は諦めずに押し戻された間合いを詰めた。
大剣を振り回し、取り残された♀騎士に絡みつく触手を叩き切る。
さらに残りを吹き払うため再びマグナムブレイク。
「きゃっ」
余波を浴びてよろめいた♀騎士が小さく声を上げる。
距離が近すぎたようだ。
「すまんっ」
味方を巻き込んだことに気を取られ、踏み込みが遅れる。
その間に吹き払った触手が戻ってきてしまった。
突き上げ振り下ろされるそれらに追われ、2人そろって数歩下がる。
仕掛けなおすタイミングを計りながら彼は♀騎士に改めてもう一度謝罪した。
「悪かった。大丈夫か?」
「…ええ、平気です」
返答までにわずかな間があった。
♂騎士はそれを苦痛の表れと取って表情を固くする。
「怪我させたか。すまん、無理するな。さがっててくれ」
「あ、いえ。そうではなくて」
♀騎士が盾を構えて彼に並ぶ。
そして追ってきた触手を切り払いつつ言った。
「今のでひとつ手を思いつきました」
♂騎士は驚きに眼を見開く。
そして早口に問い返した。
「ハンターの子を助ける手か」
「ええ」
「教えてくれ」
急かすと♀騎士はなぜか少しだけ迷う様子を見せた。
だがすぐに決心した様子で告げる。
「ボウリングバッシュの用意をしてください」
「なんだって?しかし…」
両手剣を得意とする彼は確かにその技を使える。
実際に使ってもみた。
だが軽い上に自在にうねる触手はその場で爆ぜるばかりで、吹き飛んで別の目標に衝突するという効果が発生しない。
それは♀騎士も見ていたはずなのだが。
「議論してる暇はありません。お願いします」
「お、おい!」
一声残し、これまでどちらかといえばサポートに徹していた♀騎士が一直線に突入する。
途端に殺到する触手。
慌てて♂騎士も追うが、タイミングがずれた上に彼女の踏み込みが深すぎてカバーしきれない。
♀騎士の体を触手が打ち据え、あっという間に四肢を絡め取った。
「くうっ」
「今助ける!」
追いついた♂騎士は♀騎士を捕らえた触手へ剣を振るうが、1本断つと2本が、2本を断つと3本が絡み付いてさらに絞り上げる。
それどころか♀騎士の解放に気を取られた彼の体にも触手が伸びた。
それでも触手を断とうとする彼に♀騎士が叫ぶ。
「私にBBを!」
「な…!?」
♀騎士は身動きの取れない体を必死によじり、絶句した彼へ盾を向ける。
それで♂騎士はやっと理解した。
たしかにボウリングバッシュを直撃させれば彼女を怪物のところまで飛ばせるかもしれない。
「しかし――」
「早く!」
決意に満ちた眼の色を見て♂騎士は反論の言葉を飲み込んだ。
彼女は議論している暇はないと言った。
その通りだ。
危険だとか、自分が受けるとか言いたいことは山ほどあるが、そんな暇はない。
なのに♀騎士へ剣を向けることを意識した瞬間から腕が震えだした。
また死なせてしまうかもしれない。
♀アーチャーの命を奪わなければならなかったのとはまた話が違う。
今度は殺してはいけないのだ。
(俺は……また……?)
♀プリと♂アルケミの顔が、消しきれない後悔の念と共に脳裏をよぎる。
だがその瞬間。
トン、と背中を押す力を感じた。
『なにグズグズしてるのよ。助けるんでしょ?さっさとやりなさい』
『大丈夫、俺たちがついてる。死なせやしないさ』
2人に笑われた気がした。
気のせいかもしれない。
触手が当たっただけなのかもしれない。
でも、それで充分だった。
腕に力が戻る。
「歯を食いしばれっ」
♀騎士と自分自身に言い聞かせるように叫んで、剣を思い切り振りかぶった。
体をひねり、それを妨げようとする触手の弾力さえも利用して、
横殴りの豪打を爆発させる。
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」
轟音。
♀騎士を縛る触手が束になって千切れ、すらりとした長身が弾丸となる。
瞬時に空間を横切った肉体は剣の威力そのままに怪物へ激突した。
ミギィイイィィィイィィッ
怪物は衝撃で口から粘液を吐き出し、耳障りな悲鳴を上げて身もだえた。
その動きに振り払われて♀騎士が転げ落ちる。
♂騎士はひやりとする。
手加減はうまく行った感触があった。
だが剣と怪物に連続して激突したのだ。ダメージは軽いはずがない。
「おい、大丈夫かっ」
「え……え。な…ん…とかっ」
それでも♀騎士は体を起こした。
右手の剣を重そうに持ち上げ、突き下ろす。
ず、と鈍い音を立てて怪物の体に切っ先が埋まった。
同時に気合い一声。
「マグナムブレイク!」
突き刺した剣を中心に衝撃波が生まれ、傷口を裂き広げる。
それは怪物の体腔奥まで届いて体液とは別のさらりとした液体を吹き出させた。
辺りに刺激臭が立ち込め、怪物が今度こそ絶叫する。
ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!
「くうっ」
ほとんど超音波のような悲鳴に身をすくませた♀騎士は滅茶苦茶に振り回される触手に跳ね飛ばされた。
同時に♂騎士に巻きついていた触手も暴れだし、投げ出されるように解放される。
彼は急いで♀騎士に駆け寄った。
「よくやった。あとは休んでてくれ」
しかし♀騎士は剣を杖に立ち上がろうともがいた。
「…まだ、やれます」
「無理するな。ここからは俺1人でなんとかなる」
彼は♀騎士を制した。
どう見ても連続でダメージを受けすぎている。これ以上は危ない。
それに消化液が抜けて空気が入った分、飲み込まれたハンターの命にも余裕ができたはずだ。
ただ、1人で何とかなると言ったのは気休めに過ぎない。
怪物は防衛本能なのか、付近のもの全てを跳ね飛ばそうとする勢いで触手を振り回していた。
今までより危険は少ないが、近付くのはさらに難しくなった。
さっきみたいにスキルで強引に接近したとしても攻撃する前に弾き返されるだろう。
何か投げられるものでもないか。
♂騎士は周囲を見回した。
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