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【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】

[328:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2008/08/09(土) 18:57:02 ID:if0sqnh6)]
287.猛る力[3日目]


それは大切な、大切な約束だった。
なんであの人がそんなことを望んだかはよく分からない。
守ればどうなるのかもよく分からない。
理由なんてどうでもよかった。
あの人との約束だから守りたかっただけで。
破るなんて想像もできない、神聖な誓いともいえるものだった。
だから――

◇◇◇◇

「クァグマイアー!」
先手を取ったのは♀Wizだった。
目標空間に充満した水分が地面をぬかるみに変え、空中にいるパピヨンの羽をも重くする。
「あーもーうっとーしーっ」
パピヨンは大きく羽ばたき、上空へ逃げた。
一瞬遅れて彼女のいた場所にファイアウォールが立ち、熱気にあぶられる。だが辛うじて炎は届かない。
「なにすんのよー!」
「何って…あえて言うなら教育的指導、かしら」
魔法が届かないと見た♀Wizは皮肉めいた答えを返す。
間合いに引き込むための挑発。しかしパピヨンもさすがに前の遭遇で懲りたのか、簡単に乗るようすはない。
母譲りの魔力によって得た圧倒的スピードを生かして、魔法の射程外ぎりぎりを飛び回りながらタイミングを計る。
こうなると♀Wizとしても油断できなかった。
前の遭遇ではあっさり撃退したが、それはウォール系魔法やクァグマイアを駆使して動きを制することができたからだ。
その手の設置魔法はうまく使えば複数の敵を同時に捕らえることもできる半面、目標をロックオンしないため高速で動き回る相手は捕らえにくい。
かといって適当にばら撒いたのでは、精神力の浪費となる上に自分の逃げ足まで封じかねない。
詠唱が遅めな分を身の軽さでカバーしている彼女としては、そんな自殺行為は避けたかった。
確実に捉えられる一瞬を逃すまいと、♀Wizは油断なくパピヨンを追い始めた。

一方♀Wizに這いよろうとする寄生虫には♂プリと♀アコが立ちはだかった。
唯一まともにパピヨンと戦える♀Wizがあっちに集中できるよう、なんとしても押しとどめなくてはいけない。
だがそのとき、一歩退いて全体を見ていた悪ケミが声を上げた。
「ね、ちょっと。こっちも動いたわよ!」
それまで身じろぎもしなかった♂スパノビがゆっくりと巨体を起こす。
すぐ近くに居た♀マジは一瞬迷った。
♂スパノビが敵の可能性はかなり減ったが、目の前で立ち上がられてみると圧迫感がすごいし、捕まったら手も足も出ないのは経験済みだ。
とりあえず蟲への攻撃を中断して身を守る呪文を唱える。
「ファイアウォール!」
「え?そっち?」
火柱の上げる轟音に♀アコが振り向いた。
しかし♂プリは舌打ちをしつつも正面の蟲から視線を外さない。
「そっちぁ任せたっ」
一声怒鳴って突進。
先手必勝。躊躇していたらそこから戦線が崩壊しかねない。
他の脅威に何かのケリが付くまでこの蟲は1人で抑える。
そんな彼の決意をあざ笑う声が降り落ちた。
「あ〜あ、結局いっちばんマズそ〜な奴か〜」
「♂プリさん、上!」
一瞬で振り切られた♀Wizが距離を詰めつつ警告する。
促されるまでもなく♂プリは頭上から押し寄せる殺気を感じていた。
同時にギチギチと牙を鳴らしながら地を這う蟲が足元へ殺到する。
「こなくそっ」
振り下ろされる触角をマイトスタッフで受け止めつつサイドステップ。脚を狙う蟲には勘で見当をつけて蹴りを放つ。
当たりそこねの鈍い感触。
牙に挟まれることはなんとか防いだが、角度が悪い。
バランスを崩してたたらを踏む。その足に突っ込んできた蟲の脚が絡まった。
ひとたまりもなく転倒する。
「やべっ」
絶体絶命。
跳ね起きた目の前に真紅の鞭が、背後からギチギチという不気味な音が迫る。
両方は避けられない。パピヨンの攻撃は食らう覚悟で前へ――
「アイスウォール!」
ギンッ
逃げようとする鼻先に白い壁がそそり立った。
避けようもなく顔から激突する。だが紅い鞭は壁の向こう側で弾かれた。
「邪魔しないでよおばさんっ」
必殺の一撃を妨害した相手をパピヨンは振り返った。
「あら。おばさんには大人の都合があるから、そういうわけにも行かないのよ」
「あーっ!何かムカつくーっ!」
まさに大人の余裕を浮かべてみせる♀Wizにパピヨンは顔を真っ赤にして怒る。が、その直後
「アイスウォール」
「あ、あぶなっ!?」
連続して立てられた氷の壁に閉じ込められかけ、慌てて上空へ逃れた。
一方♂プリはぶつけた鼻をさすりながら背後を振り返る。
パピヨンの攻撃は♀Wizが止めてくれたが、後ろからも寄生虫が迫っていたはずだ。
そっちが当たらなかったのはなぜか。
「おめえ…」
振り返った彼はうめいた。
腕を伸ばせば届くような距離で、三本の牙がガチガチと噛み合わされていた。
ただその切っ先は近付いてこようとしない。
いや、むしろわずかずつではあるが離れていっている。
そして、その原因が蟲の向こうにいた。
「♂スパノビ…だっけか」
寄生虫の尾にしがみつき、握った短剣をつき立てて。
両の腕に力を込め絞り上げる。
「あんた、味方してくれるの?」
♀アコが不思議そうに問う。
どちらの問いにも♂スパノビは無言。
助けるとか、味方するとか、そんなことではなく。
ただ、敵を、壊す。
淫徒プリはぼすの仲間だったから。
探して、やっと見つけた2人目の仲間だったから。

なかまをさがすんだよ

それは大切な約束。
破っちゃいけない約束を邪魔した奴は、
淫徒プリを殺した蟲は、敵。
敵は、壊す。
♂スパノビは力の限り蟲を締め上げた。
「おいやべえぞ、一旦離れろっ」
その間に態勢を立て直した♂プリが♂スパノビへ怒鳴る。
ウンゴリアントに似たその蟲には厳密な前後がない。
尾に当たる位置にも複眼と牙がある。
そこにしがみついたままでは反撃を防ぐすべがない。
だけど♂スパノビには関係なかった。
ただそいつを壊すために、刃をねじ込み、締め上げ続ける。
蟲は形容しがたい声を上げ、体を振り回した。
ドチュッ
湿った音を立て、牙が彼の腹にめり込む。
それでも♂スパノビの力は弱まることはなく、むしろ強まった。
腹に突き立てられた牙が、彼自身の力でさらにズブズブと深く埋まってゆく。
他の牙にも挟まれ、引き裂かれた傷口から血が激しく噴き出した。
「おいっ、やめろって!死ぬぞっ」
無茶する彼を♂プリが引き剥がそうとする。
だが生存本能を捨てたように攻撃し続ける♂スパノビは♂プリを振り払った。
「くそっ!…こうなりゃヤケだっ、さっさとやっちまうぞ!」
「おっけっ」
♂スパノビが手遅れになる前に蟲を倒そうと、♂プリと♀アコが殴りかかる。
♀マジも長い詠唱を始め、蟲の周囲に魔法円が浮かび上がった。

「あーっ、あたしのトモダチいじめるなっ!」
集中攻撃を受けようとする寄生虫の様子を見て、蝶の羽を持つ娘は非難の声を上げた。
急降下を掛けようとするが、すかさず魔法が飛んできて元の高さへ追い返される。
牽制にソウルストライクを放った♀Wizが首を振った。
「勝手すぎる言い分じゃないかしら」
「なにがよー!あんたたちだってトモダチ以外どーでもいーのは一緒じゃなーい」
あっかんべー、と舌を突き出して見せながらもパピヨンは高度を下げない。
否、下げられない。
魔法の撃ち合いで勝てるとは思いにくい。
かといって接近戦を挑んでもクァグマイアに捕まってあっさり避けられる。
スピードで振り回せることは分かったが、他の連中と固まっている状態ではそれも生かせない。
相性が悪すぎる。
唯一のアドバンテージである魔法の届かない高度を維持したまま、彼女は『トモダチ』を取り戻す手を必死で探した。
「…あれ?」
その目が地上を忍び寄る黒くて小さな影を捉えた。
どうやら♀Wizはこちらに気を取られていて気付いてないらしい。
(チャンス、かも?)
パピヨンは口の端に小さく笑みを浮かべた。


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