【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】
[352:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2009/02/11(水) 03:13:28 ID:abvqCqkc)]
290.撤退戦・前
ぐぅ、と焼け付くような痛みを感じた。
♂プリーストは一瞬混乱したが、即座に自分が腹を刺されたのだと悟った。
足元を見れば、そこにはデビルチがいた。こいつが下手人だろう。
♂プリーストは渾身の力でデビルチを蹴りつける。
それだけで、デビルチはサッカーボールのように弾んで、近くの木にぶつかった。
さらなる伏兵がいないかと周囲を確認するが、どうやら伏兵はこのデビルチだけだったらしい。
だが、それでもパーティーは壊滅的な打撃を受けたらしい。
モンスターと共にやってきて自分達と共闘していた♀WIZは木に叩きつけられたらしく、まったく動く気配がない。
♀マジは意識はあるものの、叫びつつ地面でもんどりうっている。おそらく彼女も奇襲を受けたのだろう。
♂スパノビはさらに酷い。元々かなり傷ついていたが、今パピヨンに背中ごしに胸を貫かれている。
悲鳴を上げているため即死ではないようだが、それもいつまでもつやら。
かく言う自分も酷い。
デビルチの槍は鋭く、内臓がかなりやられている。
さらに呪いまでかかっていたのか、全身に力が入らず、今にも意識を失って倒れそうだ。
幸いにも♀アコライトと悪ケミは全くの無事なようだが……あの素早いパピヨンを相手にどれだけ戦うことができるやら。
突発的な共闘者である♀WIZは知らないが、他の仲間と比べれば、♂プリーストが最も戦歴が長い。
ゆえに、パーティーのリーダーとして、この状況をどうすればよいか決断しなければならない。
退くか、戦うか。
ほんの一秒。
それで♂プリーストは決断を下した。
「皆、聞け!!」
どすん、とマイトスタッフを地面に叩きつける。
その音で、意識のあるものたちの意識は全て♂プリーストに集まった。
「現在、パーティーは絶望的な状況にある。俺はもう長くは持たないし、動けないやつらも多い。だが――」
♂プリーストは、♀アコライトと悪ケミを見る。
「お前達は、幸いにも無傷だ。お前達は他のやつらを連れて逃げろ。悪ケミは♀WIZを。♀アコライトは♀マジを。その間――俺がモンスターを足止めする」
「そ、そんな――」
「俺がリーダーだ、口答えは許さん!!!」
反論した♀アコライト叫ぶのと同時に、♂プリーストの口から血の混じった唾が飛び散る。
「念のため、撤退は別々の方向へとする。悪ケミはD6方向へ、♀アコライトはF6方向へ逃げろ。以上だ」
あっさりと終わらせすぎたか。
悪ケミも♀アコライトも、呆気にとられた目で♂プリーストを見る。
こういうとき、咄嗟に動けないようじゃ冒険者失格だぜ、と内面で苦笑しつつ、♂プリーストは叫ぶ。
「以上だといっている、全員、動けええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
「う、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
弾けるように、悪ケミと♀アコライトが動いた。
悪ケミが♀WIZに走り寄る。
だが、悪ケミは♂プリーストの言葉に従ったから動いたわけではない。
パーティーが壊滅状態になった最大の要因は、増援である♀WIZが動かなくなったからである。
果たして、♀WIZは木に寄りかかったまま気絶していた。だが、彼女さえ起きれば、犠牲を出さずにモンスターを追い払うことができるかもしれない。
♂プリーストは己の死を自覚していたが、悪ケミはまだ彼らの命を諦めてなかったのである。
「ねえ、起きて」
ペチペチ、と頬を叩く。
「ねえ、起きてよ。貴女の力が必要なんだよ」
頬を叩く力は強くなり、パチン!パチン!と力強い音がする。しかし、♀WIZは目を覚まさない。
「ねえ、お願いだよ! 貴女が起きてくれないと――」
大切な仲間が、死ぬ。
こらえきれなくなった悪ケミは、♀WIZの体全体を揺すろうとして――そこで、ぬるりとした感触に気づいた。
♀WIZの後頭部を触った手が、真っ赤になっていた。
なんのことはない。
ユピテルサンダーのダメージ自体は軽症だった♀WIZだったが、叩きつけられたときの当たり所が悪かったのだ。
つまり、それは彼女もまた重傷者ということであり――この状況が絶望的であるということでもあった。
思わず、悪ケミの目に涙が溢れてきそうになる。
何故こんなに運が悪いのか。神様は何故、こんな意地悪をするのか。
だが泣き言ばかりを言っているわけにはいかない。
こうなった以上――私が最後の砦にならなければいけない!!
(悪ケミ奥義!!)
所 持 限 界 量 増 加 ! !
このスキルは、商人には必修のスキルとなっている。
何故か。
アイテムを沢山持てるようになることで、移動の手間や狩場の滞在時間を延ばすようにするためか。
否!!
このスキルが商人の必修スキルとなっている理由、それは例え非力な者であっても、重い人間を運べるようにするためである!!
そもそも、商人は基本的に前に出て戦うための職業ではない。
ブラックスミスは数々の自己支援を持つが、その理由も元を正せばパーティーの仲間を鼓舞するためなのだ。
そんな商人だから、パーティーが壊滅状態となっても、生存していることが多い。
そんなとき、パーティーが反撃可能ならばよいが、撤退の余地しかない場合。
そのときこそ、商人が最後の砦となって息のある仲間を連れて逃げられるように、と所持限界量増加が必修となったのだ!!
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
悪ケミは、怒号とともに♀WIZを両肩に背負う。
さらに、悪ケミは懐の切り札を取り出す。
「封じられし名馬の魂よ、我に力を与えよ!!」
ヒヒーーーーン!!!
力強い馬のいななきが悪ケミの全身に力を満たしていく。
悪ケミは馬のごとき凄まじい速さで、西へ向かって走り出したのだった。
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