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【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】

[380:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2009/02/20(金) 21:52:22 ID:w3VW5w4A)]
291.撤退戦・後

♀アコライトのまぶたから涙が流れ落ちる。
♂プリーストは死ぬだろう。♂スパノビも死ぬだろう。
それが、悲しい?
違う。
自分にその未来を変えるだけの力がない。
それが、たまらなく悔しいのだ。

♀マジは今もなお地面にのたうちまわって喘いでいた。
♂プリーストは言った。♀マジを連れて逃げろ、と。
逡巡する暇はない。
もしここで立ち止まって参戦したとしても勝ち目がない以上、一秒でも早く彼女と共に敵から逃げなくてはいけない。
いや、むしろ戦えば、比較的傷の浅い♀マジをさらに傷つける可能性もある。
仕方ない。
仕方ないけど……悲しい。
悲しいけれど、仕方ない。

「大丈夫? 意識はある?」
「う、はぁ、はぁっ……」
言葉にはなっていなかったが、首をわずかに縦に振る。
「背中を蹴られたよね。骨は大丈夫?」
こくり、こくり。二度首を縦に振る。
「すっごく、痛くて、いしきがとびそうに、なったけど、なんとか――」
「うん、もういいよ、大丈夫」
背骨が折れていれば、タンカのないこの状況では脱出は絶望的なのだが、そうでなければ希望はある。
「失礼するよ。痛かったら言ってね」
そう言って、♀マジを持ち上げてから背負う。
♀マジにはおデブ扱いされたが、こういうときのために体力をつけていて正解だった、と痛感する。
「大丈夫だね? なら――行くよ。速度……増加」
風の守護が♀アコを包み、人一人分担いでいるとは思えないほど体が軽くなる。
(ごめんなさい。そして――ありがとうございます。私は絶対、貴方達の分も生き延びてみせます)
ほんの少しだけ、♂プリースト達の方向を見る。
彼らは満身創痍ながらも、屈せずにモンスターに相対していた。
(本当に、本当に、ありがとうございましたっ――!!)
溢れそうになる涙を必死にこらえ。
♀アコは東へ向かって走り出した。


大声を出してマイトスタッフを振り回す♂プリの攻撃をよけながら、パピヨンは内心舌打ちをしていた。
敵を蹴散らしたところで、パピヨンは心躍っていたのだ。
なにしろ、敵には美味しそうな奴らばかりいたのだから。
♀wizと♀アコは色艶がよく、きっとその血は極上であっただろう。
♀マジと悪ケミは若干貧弱ではあったが、肌が今直ぐにでも突き刺して血を吸いたくなるほど白かった。
しかし、奴らは全員逃げてしまった。
残ったのは、汗臭い大男を泥臭い大男のみ。みるからにまずそうだ。
しかし、だからといって女達を追いかけていってしまっては、今もなお♂スパノビと交戦中のトモダチがやられてしまうかもしれない。
元々トモダチを守るために乱入したというのに、それを失ってしまっては本末転倒だからだ。
(ああああ、もう、イライラする!!)
血だらけになりながらも一向に倒れる様子のない男達もまた、パピヨンの苛立ちに拍車をかける。
お前らみたいな血を吸う価値もない肉塊なんて、とっととくたばってしまえ!!

パピヨンは自覚してはいなかったが、パピヨンは苛立つと同時に焦っていた。
どれだけ攻撃しても倒れる様子のない男達に阻まれ、パピヨンは未だにトモダチを救出できずにいる。
女から逃げられ、トモダチにも死なれては、なんのために乱入したのかわからない。
苛立ちと焦りはパピヨンの攻撃を雑にさせ、それによって戦闘が長引きさらに苛立ちと焦りを生む。
パピヨンは完全に不の悪循環に陥っていた。

体力はなく、気力もなく、それどころか命すらもほとんど残っていない。
しかし、♂プリーストにはただ、闘志のみが残っていた。
「うらうらうらぁっ!! どうしたこの虫畜生、かかってこいやあああああああっ!!!」

意識はなく、闘志もなく、それどこか正気も残っていない。
♂スパノビに残っているのは、戦闘の経験による条件反射と大事な人の言葉のみ。
(な…ま…を………)
いや、既に♂スパノビにはその大事な言葉を思い出すだけの正気すら失っていた。
しかし、その言葉の意味だけは、理解していた。
仲間を見つける。仲間を守る。そのために――戦う!!
♂スパノビは、寄生虫の殻に僅かに開いた隙間にスティレットを突き刺す。
プパを相手に何百回、何千回も繰り返した行為だ。
そして、そのときと同様に、なけなしの気力を開放させる!
「インベナム!!!」
シーフギルドに伝わる秘術により、スパノビからスティレットに伝わった気力が寄生虫の血の一部を毒に変換する。
決して強い毒ではないが、しかし弱くもない。
「グギャァァァァァァ!!」
体内を走る異物に寄生虫がのたうちまわる。
と同時に、♂スパノビが崩れ落ちた。
のたうちまわった寄生虫の鋭い顎が、スキルを使い隙をさらした♂スパノビの心臓を貫いたのだ。

(やっだ……やっだよ、ぼず……おで、なかまを、まもれた……)
命が飛び去る前のほんの一瞬だけ訪れた正気の思考で、♂スパノビは歓喜し、そのまま絶命した。


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