【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】
[395:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2009/03/08(日) 16:33:47 ID:IygkPxDU)]
293.死屍累々
腹を貫かれた♂プリーストは、言うまでもなく重症であった。
出血はおびただしく、何らかの応急手当をしなければ数分程度しか生きられないだろうと思われた。
その状況で、彼は、なんとキリエ・エレイソンを緊急の包帯代わりに使った。
制御装置により、ヒールで傷口を塞ぐには大量の気力を消費するし、それだけの気力は既に彼にはなかった。
一方、キリエ・エレイソンも弱体化されてはいたものの、しかし耐久力が弱まった程度であったため、傷口をカバーする用途にはうってつけだったのだ。
しかし、この方法には重大な欠陥がある。
それは、根本的な解決にはならない、ということである。
もし、パピヨンの攻撃をまともに食らってしまったら、二度と立ち上げれるかもわからない。
それ以前に、彼の気力が尽きれば、再び腹から血が流れ出し死亡するだろう。
だが、それでいい。
どちみち、助からない命なのだから――
♂プリーストは、よく戦った。
結局パピヨンに翻弄されろくに打撃を与えられなかったものの、敵の攻撃をうまく避け、流し、防いだ。
それでも、それが限界だった。
「その命、奪った!!」
「はぅぁっ……!!!!」
ついに、執拗なパピヨンは彼の腹のバリアを破壊し、のみならずその傷口をさらに広げたのだ。
それが♂プリーストの限界だった。
マイトスタッフが手から滑り落ち、支えを失った♂プリーストは地面に崩れ落ちる。
崩れ落ちた姿はまさに芋虫。
鮮やかな蝶の前にして、血と土に塗れたその姿は、無様としか言いようがなかった。
「きゃはは、ねえ、今どんな気分? ねぇ、どんな気分? 今から死ぬけど、どんな気分?」
「くぅっ……はぁっ……」
「うふふっ! しゃべることもできないんだ。あはっ、ばーかばーか、ざまあみろ♪」
ようやくストレスから開放されたパピヨンは、今や絶頂にあった。
自分をいらいらさせた肉塊を、徹底的に貶める。
それしか、彼女の頭には存在しなかった。
「うふっ、さて、今からアンタを殺すけど……でも、アンタの血は、絶対に吸わない。何故だかわかる?」
♂プリーストが答えられるはずもないことはわかっているので、パピヨンはうれしそうに続ける。
「それはね、アンタの命が何の価値もないことを証明するため。
だって、血を飲んだら、アンタの命にはそれだけの価値があるってことを認めちゃうからね。
……うふふ、アンタ、私に比べるとだいぶ生きてきたみたいだけど、今日この日まで、どれだけの命を奪ってきた?
アンタは、昨日までは食物連鎖の頂点として何億の生命の犠牲の上に永らえてきた!!
その犠牲の責任を負っているアンタは! 今! 何の意味もなく死ぬ!!
ばーかばーか、無責任! 恥知らず!
アンタのために犠牲になった命はなんなのか!!
アンタは今日、全ての犠牲を無駄にして死ぬ!!
そして、アンタはその全ての生命に謝罪しつつ、自らの生命を賠償にして惨めに死ね!
うふ、ふふふ、きゃははははははははははははははっ!!!!!!」
「ククッ、馬鹿なのはお前のほうだよ、単細胞さんよ」
「なっ!?」
口を開くことすらも予想の範疇外だったため呆然とするパピヨンをよそに、♂プリーストは続ける。
「俺の生命が無駄だ? 勘違いしているんじゃないのか? おばかさんよ。
俺の命はなぁ……さっきの女の子四人を逃がすためだけに、存在していたんだよ。
何億の犠牲が無駄に? 四人の命を助けられたのなら、俺一人の犠牲になるよりもよっぽどいい。四倍だぞ、四倍。
そうさ、お前は自分を勝者だと思っているようだが……お前が俺に挑んだ時点で、既に勝敗は決まっていたんだ。
お前は既に敗者なんだよ、このマヌケがっ!!!!」
「くっ、黙れ黙れ黙れだまれだまれダマレダマレッッッ!!!!!」
「ばーかb−kbbbbk……」
「くそっ、くそっ、くそっ!!!!!!!」
パピヨンの一撃が♂プリーストの顔を抉り、彼はもうまともに話すことができなくなったが、それでも彼は罵倒を続ける。
それに激昂したパピヨンは、さらに顔を抉り続けた。相手に伝わらない罵倒を繰り返し、何度も、何度も。
♂プリーストの遺体の頭部が完全に破壊されたころ、ようやくパピヨンは冷静な頭を取り戻していた。
(そうだ、あのコはっ……)
パピヨンは、何故自分がここに来たのかをすっかり忘れていたのだ。
トモダチである寄生虫は直ぐに見つかった。
その体はだらりと弛緩し、ぴくりとも動かず。
つまり――死んでいた。
寄生虫は、♂スパノビを殺したが、その傷は深く、毒も受けていた。
そのため、何度もパピヨンに助けを求めたのだ。
しかしパピヨンは、聞き入れなかった。♂プリーストの死体を破壊するのに夢中だったから。
現状から一瞬でそのことを悟ったパピヨンの全身から、力が抜ける。
ここにきた最大の目的が潰え、彼女は貴重な仲間を失ったのだ。
(そうだ、仲間といえば!!)
デビルチは、どうなったのか。
♂プリーストに殴られて、飛んで行ったはず。
その方向をうろ覚えながら探して――それは、直ぐにみつかった。
デビルチのぬいぐるみのような体が、まるで綿を抜かれたようにぺちゃんこになっている。
「ねぇ、大丈夫? 生きているの?」
パピヨンの願うような問いにも、デビルチは答えない。
「ねぇ、ねぇってば。ねぇ、返事をしてよぅ……」
何が悪かったのか。どこから間違えてしまったのか。
敗北感と脱力感に包まれながら、パピヨンは空ろにデビルチの遺体にすがっていた。
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