【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第14巻【燃え】
[21:ブルー&ジェット3/4(2007/11/27(火) 23:42:17 ID:OlhyQDOY)]
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「槍は、あまり趣味ではないんだがな」
手綱で首筋を叩かれて、怪鳥が頭を低くして更に加速した。騎士は手に入れた槍を左に構えて、
切っ先を相棒の顔より前に突き出す。扱うと言うよりは据え付けるだけ。そしてそのまま一直線に
敵へと向かう。狙いは先頭、フワフワと浮かぶシーツの幽霊達のその一体だ。
切っ先が真っ白なシーツに食い込む。その瞬間刀身から火花が散って穂先が紅蓮に加熱された。
紅の切っ先は先程の刀の様に容易くシーツをすり抜けて、そして確かに零体に傷を刻み付けた。
肉の痛みを忘れた零体に、久方ぶりの激痛を提供し刺し貫く。穂先は次の獲物、次の獲物と貪欲に
求めて、一つの槍でシーツの幽霊を串団子にしてやる。
零体を貫く奇跡を可能せしめるのは槍に込められた紅蓮の輝き。錬鉄に四大属性を秘めた石を混
ぜ込み、鋳造された火の属性の片手槍だった。打ち壊された露店の幟には『属性パイク各種大安売
り』と書いてある。値段自体は平均以下とは言いがたいとだけ書いておこう。
安売りどころか無銭で手にした槍を片手で振り回し、団子の数を増やそうと切っ先は残る水饅頭
をも狙い定める。
そして、迷い無く穿つ。敵の中心、水饅頭の顔しかない胴体を刺し貫いた。
「ぬおおおおっ、このゴーストリング様が……。馬鹿な!」
二の句を告げさせる暇もなく、幽霊連なる槍を振り回して地面に突き立て縫い付ける。血染めの
石畳を食い破り、穂先どころか貫いた饅頭達ごと地中に捻り込ませてやった。そのままぐりぐりと
槍を捩じって、不浄霊共を無理矢理土に返して行く。
「うおぉぉぉおのれぃ忌々しい人間どもめ。だがワシはこの程度ではくたばりはせぬぞぉぉぉぅ。
あえて言おう、アイシャルリターンと! へぶっ!」
最後まで煩かった水饅頭が全て地面に埋まったところで槍を手放す。止めとばかりに相棒が砕け
た石畳を根元に蹴りやり、完全に饅頭たちを埋めてしまった。哀れ亡者は土の中、後はもうシクシ
クとすすり泣く声のみとなる。
「いやぁ、やはり水饅頭殿では止められなんだか。見事な手捌き、天晴れ至極であった」
一仕事終えた背中に涼やかな声が――そして、同時に静かなる太刀の一振りが見舞われた。
首筋に涼風。肝には寒風。振り返る暇も無いと断じて、腕だけで手にしていた大太刀を背後に回
す。肩越しに突き出した刃が、振り下ろされた太刀に触れるや否や、跨る相棒の腹を踵で強かに蹴
りつける。蹴られたほうは無駄に驚かず、ただ前に突き進み背に乗せた相棒を二の太刀から離れさ
せた。
三の太刀も振るえぬ距離まで離れると、鞍に手を置き身体を跳ね上げて愛騎を降りる。中空で置
き去りになりながら、身を捻り襲撃者へと相対して地に降り立った。
それを出迎える襲撃者は、抜き身の刃を肩に乗せくつくつと肩を揺らして笑う和装の白骨だ。
「散々っぱら此方の駒を切り捨てたのだ、一太刀位浴びせても罰は当たらぬと思うがの」
「そいつは、虫が良すぎるぜ!」
相対する騎士は大太刀を両手で保持し斜め正眼に構える。心中にあるのは苦々しい不意打ちへの
義憤だ。思わず露骨に嫌悪が口元に出る。
「そんな顔をするな。斬れる時に斬るのが我々の鉄則であろう?」
まるで自分を卑怯者扱いされている様で不愉快だ――目の前の躯は暗にそう語る。真剣の持ち手
の癖に、何を甘い事を言うのかと。
勝負において卑怯もへったくれもない。そんな事は判っている。気に入らないのは、唯一つ。
「あそこまでの腕を持ちながら、こんな虐殺に加担するとは……腕と刃が泣くな」
「泣く腕など、あった所でとうに骨。成れば後はただ魔性の性に生きるのみ」
流す涙は尽き果てたと騎士の糾弾を切り伏せる。そして刃の方は、持ち主の肩に乗せられてその
刀身を不気味な紫に輝かせていた。怪しく紫をその明滅させる。
まるで自ら血油を欲しがるかのように。腹が減って食わせろ食わせろと唱えるように。
「それに、今日も我が相棒は人に飢えている……。どちらも生前より変わらぬ性、貴様に言われた
程度で変わりはせぬよ」
言って不快を切り払う様に刀を一閃、紫がぱっと散ってまた直ぐに陽炎の様に立ち上る。
「判った……」
騎士もまた短く言って、斜め正眼にあった刀を小さく振るう。斜めに、横に振った後、静かに鞘
へと収めた。
その奇怪な行動を怪訝に思い胡乱げな眼を送ると、騎士の方は腰を落とし足を前後に大きく開い
て鞘の口元を掴んで鯉口を切ると言う、いわゆる抜刀術の構えを取る。柄の前に広げて添えられた
右の手が、今にも白刃を抜き放たんと微かに揺れる。
ははっ、と骨の侍が薄く笑う。構える騎士の意図を理解して、己の剣技を見せるために一歩一歩
生身へと寄っていく。
歩み寄りながら、自信もまた手にした刀を鞘へと納めて、腰帯に差していたそれを態々外し手に
持った。下半身は歩むまま、上半身は同じ様に己が刃を抜き打つ構え。騎士の誘いに興が乗り、速
さ比べに腕比べ、挑んでやろうと自ら近づく。
「最早互いに問答は無用。後はただ、流るるのみだ」
「剣客は刀で語るもの、か。嫌いではないな、その流れは」
人が言って骨が応える。
その間にも待ち構える騎士に、進み行く侍が近づく。気迫は十分、気力は無尽蔵。抜けば音斬る
神速の刃が二つ、今にも弾けんと戦場を進む。
後一歩、今一歩、徐々に間がなくなって、互いに回避も無くなる必殺の間合へと堕ちて行く。
間合が、ついに、整った。
しかし、両者いまだに動かない。互い向かい合わせて機を測る。揺れていた騎士の手も今は止ま
り、ただ只管に静止していた。骨も無論、微動だにせずに、ただ待つ。
共に思う、この勝負一瞬で付くと。故に容易に動けない。先に動いた方が負けるのか、先に動け
なかった方が負けるのか。それすらも錯綜する見えない鍔迫り合いの中、無数に問答され消え果る。
そんな折、生々しい屍の山の上でパイプを燻らせていた船長が一人、睨み合いに退屈して紫煙を
吐き出していた。ふと、パイプの中がすっかり燃え尽きている事に気が付いて、パイプをさかさま
にし、ポンと掌で底を打つ。
燃え尽きた灰が塊のままゆっくりと地に落ちて……――
「「……っ!!!!」」
――ジッと灰が地に触れた途端、両者、一寸の狂いも無く同時に動く。
瞬く間の間に数十合、刃が踊り、翻り、削り合って火花を散らす。吐く息も忘れて続いた剣舞の
果て、抜き放たれた刃が何時の間にか両手で振るわれ、大上段からの一合一閃、がっちりと鍔競り
合ってせめぎ合う。
ぎりぎりと今までの華麗な剣戟が嘘の様に、互いに奥歯を噛み締めて押す押す押す。引いて蹈鞴
を踏ませようなどと、姑息な真似など思いも付かない。其れほどまでに真剣必至、この競りに己が
全てを賭けている。刃が離れた時こそ、終焉であるとお互いに悟っている。
ぎりぃっと互いの剣の根が擦れ、競り合う力が逸れ合う。それを機にして両者が再び同時に跳躍
し、後方へと遠く距離を取り、着地と同機全速で前へと飛び出した。
距離を詰めながら互いにとったのは、きしくも同じく納刀からのすかさずの抜刀術構えだ。もう、
互いの頭には、斬ると事だけが渦巻いている。
砲弾の様に突き進む、二つの雄姿が今また重なる。
「御印頂戴!!!」
「転空神剣奥義! 華舞太刀!!」
一瞬の交差が終わった。斬撃の応酬が過ぎた後に、ただ只管の静寂が上から叩きつける様に周囲
を襲う。静けさが身を切り、耳に痛く、じんわりと後ろ髪に広がった。
ぴきりと音を立てて、騎士の着けていたサングラスが断たれた姿で地に落ちた。静寂の中に、酷
く騒音を振りまいて落着が鳴り響く。
背中合わせだった両者の片方、骨の侍が抜き放つままにしていた体を動かし、ゆっくりと紫に燃
える己の刀を鞘に納めた。両手を着物の袖に収めて、満足げに空を見上げる。
「フン……、散るには良い空であったか。人の侍よ、その見事な腕、次は黄泉比良坂にて間見えた
折に、また見せてもらおうぞ」
語った侍が、まず上下に胴を薙がれて身体をずらした。切り上げる形で逆袈裟を斬られ、加えて
交わる様に袈裟懸けにもう一閃入れていた。一瞬の交差で三撃、これぞ奥義の冴えである。
「また、つまらぬ物を斬ったか。ご免っ、ジェェーーーーット!!」
呟いた騎士は刀をくるりと柄で一回転させて、刀の位置を鞘の側に移しながらもう半回転、切っ
先を鯉口に合わせ流れのままに鞘へと収める。そうして、呼びつけた相棒に飛び乗り残す敵へと駆
け出す。駆けながら、新たなサングラスを懐から取り出して装着するのも忘れない。
その背後で、崩れた侍が塵となって消え去った。
「やーれやれやれ……、うちの一家はことごとく全滅か。ふがいない事だ、たった一人に、しかも
そちらは無傷と来ている」
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