【18歳未満進入禁止】みんなで創る18禁小説Ragnarok ♀×♀ 第6巻【百合】
[93:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2009/06/04(木) 01:12:32 ID:ysg8yW82)]
アサシンが冒険者として認知されるようになってから随分経つ。
暗殺者、盗賊と陰口を叩かれていたアサシンも、今は欠くべからざる冒険者の一翼として世間にその名を連ねていた。単独行動に秀でたアサシンは斥候として、またその名の通りの暗殺者として極めて優秀だったのである。嘗て人間相手に振るわれた恐るべき凶刃は、モンスターを相手にしても鈍ることはなく易々と敵を貫き、世界の平和に貢献してきていた。影の存在だった過去は遠くへ消え去り、今や市井にもアサシンが、そしてアサシンを目指す人間は大勢いる。彼ら、そして彼女らは非合法の存在であることをやめたのだ。
一部の例外を除いては。
闇夜に閃光が乱舞する。目で追うことができる限界の速度で動く二つの閃光は跳び、奔り、消え、そして現れてを繰り返しながら衝突を繰り返す。衝突の度にきん、という金属がぶつかる硬い音が響き、また閃光は互いに離れる。
「C隊、前へ」
閃光、否、閃光にも似た速度で疾走し、もう片方の閃光に対してカタールを振るうアサシンは歯噛みしながら部下に指示を出した。
「噂以上の腕前だ。だが頭は悪い。包囲できるぞ」
それを受けて闇夜に新たなアサシンが現れ、音もなく四方に散る。開けた場所に『彼女』を誘導し、一斉に包囲して捕らえるか、殺すか。今のところ全ては上手く行っている。だというのに追い詰める側の彼は苛立っていた。
(完全に遊ばれている)
実のところ衝突の瞬間、本来ならば彼はもう何度殺されたかわからない。彼とて熟練のアサシン、レベルは90を超えている。だというのに彼は完全に圧倒されていた。凌ぐのがやっとというレベルではない。虚を衝かれて首にカタールを当てられた。体勢を崩した瞬間に心臓の位置に刃先を突きつけられた。何気なく差し出された脚に引っかかって転びそうになった。そして、その全てが寸止めで終わった。ゆえに彼はまだ生きている。
『くすくす、くすくす』
衝突、轟音。同時に聞こえてくる甘い声。酒場で聞けばさぞ魅惑的だったろう。だがこの場では彼の怒りを掻き立てるものでしかない。いつの間にか背後に回っていた敵は、驚いて振り向いた彼に向かって投げキスをしてみせた。艶やかな朱に、思わずどきりとする。
「……っ! 各隊配置についたな!?」
振り払うように怒鳴る。ついに噴水広場に追い詰めた。優秀な部下たちは四方についているはず。後は一斉にかかるだけだ。
「よし、かか……っ!?」
号令をかけようとした瞬間、眩い光が辺りを覆いつくした。闇から光への急速な転換に目がついていかず、号令が中断される。部下たちの気配を探れば、こちらもかなり混乱していた。
「落ち着け! 奴の手に乗るな! 冷静になればすぐに目は慣れる、なんとしても奴を……」
「いっつ、しょーたいむ☆」
余りにも場違いな声と共に、更なる光が溢れる。プロンテラの市壁から、民家、街灯に至るまでの照明が一斉に点灯し、真夜中のプロンテラに時ならぬ明るさを出現させた。そしてその中心、一際明るい光の舞う噴水広場に、ソレはいた。
大胆にV字にカットされた衣装からのぞく肉感的な肢体、すらりと伸びた手足、豊かな胸を強調するような衣装。金色に輝く長い髪に白い肌。そしてそれらとは余りにも不釣合いな、カタール。影の世界に身をおくべきものながら艶やかなその身体は今、総身に光を浴び、無邪気に微笑んで、馬鹿なことを言っていた。
「怪盗アサシン、ファル参上っ☆ミ」
アサシンクロスの教育
ぼろぞうきん。
プロンテラの王城を守護するアサシンたちは今、そんな呼び名で呼ばれていた。それもそのはず、彼らのうちでまともに歩けるものは一人としておらず、全員が包帯塗れのミイラ男と化して詰め所でうんうんと唸っているのだから。
いや、ぼろぞうきんと呼ばれるのはそのためだけではない。寧ろ理由としてはこちらのほうが大きかった。即ち彼らは任務に完全に失敗したのだ。
「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!」
だんだんとテーブルを叩き、悔しさの余りに包帯の下の顔を真っ赤にしているのはどこからどうみてもピラミッドダンジョンのマミー、ではなく、王城を護衛するアサシンたちを束ねる隊長、だったノービスである。彼は非常にわかりやすい形で責任を取らされていた。即ち彼の視線の先、窓から見えるプロンテラ王城にでかでかとされた落書きの主のために。
『王家の宝物、頂戴しました』
出てくる世界を間違えたのではないかと思うほどに場違いな内容の落書きは、どうやって描いたのかプロンテラ王城の正面に見事な色使いで描かれ、朝日に燦然と輝いている。それは彼らの敗北の証であった。盗まれた宝物は『怪盗アサシン』の興味を引かなかったらしく、バラバラに寸断された挙句に市内中にばら撒かれており、お陰でやんごとなき方々の同人誌の趣味が市井に知れ渡り、王家の威信は大いに衰えた。
「な、何が怪盗アサシンだっ! お陰で俺たちアサシンのイメージはがた落ちだ!」
「きみはもうノービスでしょ?」
横から無遠慮に心臓を抉った言葉に、包帯塗れのノービスは身悶えして苦しんだ。
「予告状まで貰って、名誉挽回のために水も漏らさぬ警備をしておいて、城の一番深いところまで侵入された挙句、仕掛けた罠は全部解除され、挙句に街中が注目する中で大立ち回りを演じた結果がこれじゃ、確かに無能のそしりは免れないと思うよ。ぼくも」
「セリアか……何しにここにきた」
現れたのはやはりアサシン。しかし女だ。昨日街中を荒らしまわったアサシンクロス程ではないが、その衣装はかなり際どい。動きやすいよう肌に密着したスーツは妖艶さを強調し、むき出しの腿は目を惹きつける。流れるような銀髪から覗く瞳はガーネットのようだ。
「きみたちを笑いに。でもこれは笑い事じゃないねぇ」
軽蔑と憐憫の入り混じった視線を周囲で唸る元アサシン達に向けると、セリアはテーブルに投げ出されたMNNを手に取った。そこには得意げにカメラに向かってVサインをするファルが大見出しで載っていた。
「天才アサシンクロス・ファルね」
天才。
今や怪盗アサシンを称するファルはそう呼ばれている。シーフの頃から有名だった。1を聞いて10を知るどころの騒ぎではない。何も学んでいないのに、彼女はおよそ必要なことはなんでもできた。彼女はレベル1の頃から恐るべき才能を発揮する天才の中の天才だった。
天才は学ぶことが少ない。早くに頂点まで上り詰めたファルはあっという間に退屈した。彼女とて一人の人間である以上、冷静に見ればその力など高が知れたもののはずだが、苦労知らずで頂上まで駆け上がったファルは慢心した。たちの悪いことに、それを矯正できる人間もいなかった。
結果、これである。有り余る才能を普通に使うことに嫌気がさしたファルは、己の才能で世界をからかうだけからかってやろうと考えた。わざと際どい衣装に身を包み、衆目が監視する中、堂々と下らないものを盗み、捨て、立ちふさがる物はその必要がなくとも当たって倒す。こうして今まで数多の権威ある存在が彼女一人のために大きくその威信を喪失していた。
「でも、そろそろお仕置きが必要だね」
高く飛びすぎた存在は、太陽によって羽をもぎ取られる。それをそろそろ誰かが教えてあげなければ、とセリアは呟く。
「できるのか、平凡なアサシンのお前に。奴は本物の天才だぞ。50人以上いたアサシンが3分で全滅したのだ」
「なんというピクミン。流石に呆れざるを得ないよ、それは」
周囲の元アサシン達は更にうんうんと唸った。
「ま、見ててよ。ぼくに秘策ありだよ。それに……」
写真(スクリーンショット)に写る『天才アサシン』の姿に、セリアはぽう、と頬を染め、唇を舐める。その仕草は酷く妖しかった。
(この子、とても好みだよ)
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