【いくら】♀アルケミたんに萌えるスレ【ひまわり】
[61:18(2004/02/11(水) 13:18 ID:bRJhrS8Q)]
「お、伯父様、驚かさないでくださいよ〜」
「いやー、すまんすまん。
珍しいところで懐かしい人間を見たもので、ついつい驚かしてみたくなってな。」
私の前で人なつっこい笑顔を浮かべた悪魔の王。
この悪魔の王が、毎日プロを騒がせている悪ケミの父親だということは、
首都プロンテラの中でも、4人しかいない。
悪ケミの母の師でもあり、悪ケミの育ての親でもある大司教、
私や悪ケミの幼なじみでもある騎士子の父親の騎士団長、
ふとした事件で幼なじみの不幸な生い立ちを知ることとなった私、
そして、悪ケミの弟でもあり、悪ケミの小さな騎士でもある子バフォ。
たとえ全ての人に恐れられる悪魔の王であっても、
私にとっては幼なじみの父親でしかない。
「で、伯父様はどうしてこんなところに?
また城をこっそり抜け出してきたんですか?」
「はっはっは、これは痛いツッコミだな。
いや、今日は重要な日でな。」
「重要な日?」
「ああ…、そうだ。
そうだな。とりあえず目的の場所に行くとしよう。暇なら付いてくるといい。」
そう言って、バフォメットは私に背を向けて、森の奥に向かって歩き始めた。
私も慌てて彼の後を追いかけ、横に並ぶ。
巨大で強力な悪魔の王の横を歩く、矮小で非力な人間。
知らない人が見たらどう思うんだろう。
そして…
悪ケミの母は、どういう気持ちで彼と一緒に歩いていたのだろう。
そんなことを考えつつ、私は彼と一緒に闇に閉ざされた森の奥にと入っていった。
どれくらい歩いたろう。
真っ暗な森の中、時間感覚はもう無い。
この森はこのまま地獄に続いてるのではないかとさえ錯覚してしまう。
私はこのまま悪魔に連れられて、地獄に行ってしまうのだろうか。
そんな考えがふと頭をよぎったとき、突然視界が広がった。
急に光の波が私を襲う。
暗闇に慣れきっていた私の目は、急な光の奔流に耐えきれなかった。
あまりのまぶしさに目を閉じてしまう。
しばらく目を閉じていると、目がだんだん光に順応してくる。
再び目を開くと…
そこは
天国だった。
闇の森の中にある、光の空間。
この森の中に、こんな空間があっただなんて。
空は太陽の光が敷き詰められ、地面は花の絨毯で覆われている。
木々は生き生きと生え、池には小さな魚も泳いでいる。
そして
池の側に積み上げられた石。
周りにはより多くの花が咲き乱れている。
あれは間違いなく、墓標。
彼は迷わずそちらの方に歩いていく。
「こ、ここは…?」
「ここは、あの人間の女の墓だ。」
彼が人間の女などと言う対象は、一人しかいない。
「そして、我とあの女とが初めて…二人で一緒に来た場所なのだ。」
彼はどこか遠くを見つめ、懐かしい日々を思い出しながらも語り続ける。
「初めてデートに来たこの場所が、あの女のお気に入りでな。
その後もよく一緒にここに来たものだ。
もしも何かあったら、ここに埋めてくれと言うのもあの女の意志だった。」
悪魔の王と人間の聖女。
二人の歩んだ道は、決して平らではなかったはずだ。
しかし、死して尚彼にこれだけ愛され続ける彼女は、どれほど幸せなのだろう。
「そして今日は…
今日は、あの女の命日なのだ。
ふふふ、悪魔の私が「命日」などという人間の決まりに縛られるのも不思議な話だがな。」
彼は自嘲気味に呟く。
そして、墓標の前に跪き、悪魔式の印を結ぶ。
私も彼の横に並んで跪き、人間式の印を結ぶ。
「安らかに眠り賜え」
どちらともなく最後にそう呟き、立ち上がる。
「下らないことに付き合わせてしまったな。
さて、急で悪いが、用件も済んだのでそろそろ帰らせてもらうとしよう。
いつまでも城を不在にしていると、カーリッツの小言が五月蠅くてな。
これからも娘をよろしく頼む。」
彼はそう言い残して、テレポートで去っていった。
彼がしゃべっている間、私は口を開くことが出来なかった。
私ももう恋とか愛とかいった言葉を理解できる年だ。
悪魔と人間という種族の壁も
生と死という世界の壁も越えた二人の愛が
非常に眩しかった。
私もいつかあんな恋が出来るのだろうか。
私もいつかあんな恋をしなきゃ。
もう一度、彼と彼女がいた場所を見つめ、
そして最後に彼女に礼をして、私は蝶の羽を発動させた。
この天国から現世に戻るために。
もうすぐバレンタインデー。
今年は誰にあげようかなぁ。
read.cgi ver4.20 by GlobalNoteScript (2006/03/17)