掲示板に戻る 最初- 前5 次5 前1 次1 最新5

【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】

[131:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/29(木) 10:10:38 ID:FcA1itgA)]
 少女がひもじさに打ちひしがれ、空腹をもてあましているとどこからかギターの音色が響いてきた。それは鼓膜と同時にすきっ腹にも響くために彼女の機嫌はすっかり傾いてしまった。顔を上げると小さな人だかりができており、その中心に逆恨みではあるが、不機嫌の原因があった。
 まず印象に残るのは仮面だろう。白くいかついそれは何かのモンスターをかたどったものだと露店の売り文句にあった。頭を覆うバンダナにやたらと細身のシルエット。雰囲気の割りに若い声。そして違和感。だが、少女の目を引いたのはそのどれでもなく、おひねりとしてギターケースの中に放り込まれたzeny紙幣だった。

「(いいなあ、あれだけあったらしばらく食いつなげる…。)」

 気づくのが遅かったかもしれない、そういえば彼女はローグなのだ。成り立てとはいえ。ということは、得意とするのは窃盗だとか恐喝だとかいう物騒な手段だろう。力なさそうな詩人をひねるだけの仕事効率のよさは今の彼女にとってはまさにうってつけの方法に思えた。
 盗ろう。少女は奥歯を強く噛み締めて決心した。だってそうしなければ自分はこのまま飢えて死んでしまうかもしれないし、大体悪党になったのだからそれくらいできなくてどうする。よくよく考えればもっとマシなやり方がいくらでもあったのかもしれない。だがまあ、人が堕落する順路としては順当。後は詩人が歌い終わり、一人になるのを待つ。そうすれば少女には荒んだ悪党としての未来と今夜の暖かく幸せな寝床が待っているのだから。
 少女は待った。その間詩人が歌っている詩を聴いていた。お金は必ず払うわけじゃなさそうだったからだ。題目は御伽噺だった。その楽園があれば自分もこんなこと考えなくてすむのかとぼんやり思ったが、現実逃避よりも今の飢えを収めなければならない。
 やがて詩人の詩は終わり、人々は自分たちのあるべき場所へと帰り始める。辺りは夕闇に包まれ、人影も少なくなってきた。少女としては仕事をやるためのお膳立てが勝手に整っていく気がして、逆に不安になってしまうというのが正直なところだった。彼女の、やはり子猫を思わせる瞳がくるくると周囲を見回す。自分も素敵なホテルに帰りたかったがそんなものは用意されていないので、街灯の下にぽつんと立っている詩人にこっそりと歩み寄る他なかった。
 ハイディングの技術があるので、気づかれはしない。はずだった。後ろまで回りこみ、飛び掛ろうとかまえたところで彼はゆっくりと彼女のほうに振り向いた。仮面の奥で光が強く揺らめいている。

「何か、用かい?」
「…いえ。」

 まさか初っ端から躓くとは思っていなかった少女はどうにも返答できずに固まった。詩人は微動だにせずに少女に質問を続ける。

「じゃあ、強盗? 刃物がちらついてる。」
「…そんなとこ。」
「そうか、悪いが他を当たってくれないか。」

 ここではいそうですかと退けるわけもない。考えていた悪党らしいセリフを思い出しながらすごむ。

「こっちこそ悪いけど、持ってるお金全部出して欲しいのよ。お腹空いちゃってね。」
「そうか、ピザくらいならおごるけど。」


掲示板に戻る 最初- 前5 次5 前1 次1 最新5
NAME:MAIL:

read.cgi ver4.20 by GlobalNoteScript (2006/03/17)