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【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】

[132:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/29(木) 10:11:12 ID:FcA1itgA)]
 何故こんなことになったのだろう。わからないが今、少女の口内はピザに占領されている。存分に味わったそれを嚥下し、すぐさま次の一切れをとっては口に運ぶ。炭火にとろかされたチーズにふんわり包まれたピザソースと、ジリジリ音を立てるサラミにまぶされたバジルの香りがこんなにも熱く、食欲を刺激するのは彼女には初めての経験だった。
 隣で半ばあきれたように(表情はわからないがきっとそうだ)それを眺めている詩人におごってもらったものだ。

「よく食べるな、見ていて満腹になってきた。」
「ここんとこ、リンゴくらいしか、食ってなかった、のよね。」
「食べてから話すといい。」

 少女は1枚まるまる食べ終えてからこいつを襲うことにしてよかった、と心から思った。そして礼を言うのを忘れていることを水を飲みながら思い出した。

「ありがと、助かったよ。」
「礼なんていらない。どうせ俺には使う当てのない金だから。」
「それでも礼は言わないと。兄貴に昔からうるさく言われててね。言わないと落ち着かない。」
「いいことだな。」

 詩人の仮面からは表情が読めないが、目の奥にある光が揺れたりするのでなんとなく感情はわかる。

「それにしても、何であたしみたいのにピザなんかおごってくれたんだい? 強盗に一目ぼれ?」
「俺にロリータフェチはない。…妹…に似ていたんだ。」
「妹さんねえ。あたしそこまで幼いわけじゃあないんだけど。」
「まだ15、6ってとこだろう。十分に子供じゃあないか。」
「正確には17歳と3ヶ月よ。」
「変わらないさ。細かく年齢を気にするのは意識が若いってことだ。」
「アンタそういうとこあたしの兄貴にそっくりだよ。」

 一通り話してから、詩人はなんと少女に宿泊施設情報と宿代までくれた。この骸骨のような詩人が悪運の神様か何かに見えてくる。少女が最初に感じた違和感などはすっかり過去のものだった。
 彼女は絶対に宿代とこの借りは必ず返す、と悪党らしいセリフを言いながら走り去っていった。後姿に完全返済までは付き合おう、と約束した。ホテルの部屋はまだあるだろう。詩人はふと時計塔の方角を見た。アラームは、あいつらは、俺の家族たちは元気だろうかと。

「(楽園を創る…そのためにはきっとあいつらだけじゃだめだ。だから力を借りないと。誰かの、力を。)」

 詩人の旅の中でこの物語に共感を示す者は少なからず、いた。だが足りない。一度諦めた物をもう一度最初から作り直すには不充分すぎると彼にはわかっていた。

「(アラームに嘘をついてまで出てきたというのに、これか。)」

 アラームもいつか詩人の言葉が嘘だったと悟るときを迎えるだろう、彼はそれを何よりも怖がっていた。恐れていた、などと言うと何か違う。怖がっていたのだ。母親に嫌われたくない子供のように、ただ震えているだけの犬のように、彼はアラームに否定されることを忌避していた。
 だからこそ彼の心はその長い旅の途中決して折れる事がなかったと言える。アラームがまだ自分を信じてくれているのだと、信じ込むことによって彼の心は守られていたのだから。
 彼は、強くて弱い愚者だった。ただここでわかってほしいのは彼が決して気取っているのではなく、彼自身気づかないうちにそうなっていたということくらいだ。


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