【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】
[133:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/29(木) 10:11:50 ID:FcA1itgA)]
イズルードに滞在している間、少女はイズルードダンジョンに通い詩人に宿代を返し続けた。しかし、少女の宿代・移動費はかさむわ、ひよっこローグでは大して稼げないわとほんの少しずつしか返していくことはできない。でも、それでよかった。友人のいない少女はこの奇妙な詩人と話す時間が嫌いじゃなかったし、詩人もどこか懐かしく居心地のいい時間を楽しんでいた。彼女には詩人が話す昔話の妹が、少しうらやましかった。
さて借りは少しずつ返されていくが、返し終わることは詩人との別離を意味する。少女には詩人の詩や話がもはやこの上なく大切なものになっていた。いっそ旅について行こうか。街を渡り歩くだけだろうし、きっと足手まといにはならないはずだとまで彼女は考えはじめていたくらいだ。
2週間ほど経ち、そろそろ全額返済となるはずだった。詩人はいつもの場所でいつもどおり詩を歌っていた。本当にいつもどおりだったから気づかなかった彼に責任はない。誰も予想なんてしなかったし、できなかった。だからこれは仕方ないこのなのだ。
イズルードダンジョンで大規模な枝テロが発生し、進入禁止の警告が出された。もちろん、それまで中にいた冒険者の安否はわからない。ただ、あのモンスターの数で生きていられる人間がいると想像するのは難しいだろう。それを彼が知ったのは発生してから1時間ほど経ってからだった。
ここから先のことはあまり語るべきでもないかもしれない。彼の性格を知っている人間ならば皆容易に想像がつくからだ。彼は召喚されたパニックで荒ぶり、津波のように押し寄せるモンスターたちの頭上を飛び越えイズルードダンジョンを駆け巡った。彼が少女を発見したとき少女は奇跡的に生きていた。健康的に細かった腕が千切れかけ、不似合いに赤かったコートは黒く汚れていたが、少女は紛れもなく息をしていた。
詩人が彼女に駆け寄ると、彼女は昼寝をしていた猫がこちらを確認するように少しだけ目を開けた。摩擦の少ない、震える手で少女にポーションをかける。これがピクニック程度の狩りであったなら、なんだか白いと卑猥だと言って笑っただろう。
「ああ、アンタ、やっぱり、きてたのかい。」
「喋るんじゃあない。今喋ったら痛いぞ。」
「次でたぶん、借金は全部、返せるだろ? もうチョイ、待って。…だけどさあ。まだ、なんだよ。」
うつろな表情のまま囁く。傷は治ってきているのに、まるで肺病病みのように咳をする。
「借りがさ、まだなんだあ。」
「喋るんじゃあないって言ってるだろう。」
「だから、手伝おうと思ってさ。か、荷物もちくらいなら、できるだろお。」
「後で聞くさ、だから。」
傷がある程度塞がり、負ぶっても腕が千切れてしまわなくなったので詩人は少女を背負ってダンジョンを出た。入り口周辺のモンスターはほとんど鎮圧されていたから外に出るのには困らなかった。なんとか救急施設(といっても数人のプリーストがいる診療所だ)に駆け込んで当直していた巻き毛のプリーストに必死で頼み込み、なんとか緊急治療にこぎつけた。治療中も少女はうわごとをやめなかったし、やめさせる術もしらなかったから詩人はその言葉をずっと聴いていることにした。彼は少女が目を覚ませばきっとその内容に赤面するだろうことはもう容易に想像できるようになっている。そうだ、コイツを時計塔に連れて行こう。きっと俺の家族はお前を受け入れてくれる。だから、目を覚ましてくれないか。そう言って祈りを捧げる。
彼は謝っていた。彼が悪いわけじゃあないというのは誰だってわかる。しかし、彼は謝っていた。流れることのない涙を心の中で流して、許しを乞うていた。こんな想像は陳腐だと思われるかも知れないが、彼は少女とアラームを重ねていたのだろう。彼女を救えなかったら。彼女を救えなかったら彼は彼女に恨まれてしまう、憎まれてしまう、拒絶されてしまう。
これを自分勝手な感情と言うだろうか。少なくとも彼は彼女の身を案じていたわけだし、彼女にとっては彼が救い主にあたるのだから、そこに自分勝手だとかなんだとか言う余地は存在しない。ただ純然たる事実が存在するのみだ。彼は彼女を助けたかった、生きていてほしかった。それだけなのだ。
だが、彼は自分を利己的で弱い存在だと思っていた。彼は愚者だった。
read.cgi ver4.20 by GlobalNoteScript (2006/03/17)