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【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】

[134:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/29(木) 10:12:30 ID:FcA1itgA)]
 翌日少女は息を吹き返した。やはりあの高価なポーションは初期治療としては最適だったようで、一週間ほど入院すれば完治するだろう、大した体力だと担当した巻き毛のプリーストは口に手を当てて笑った。目覚めた少女に会いに行くと体中包帯だらけでマミーを思わせる風貌になっていたが、昼食だったと思われるどんぶりのようなスープ皿は綺麗に空っぽだった。ゆっくりベッドに近づくと、彼女は素早くこちらを振り向いた。

「ネコがまわりを警戒してるみたいだ。」
「ネコに喩えられるのはあんまし好きじゃない。」

 少女は冗談っぽく眉間にしわを寄せて笑った。その仕草は彼女のためにあるようだった。少女は指先でスプーンをくるくる回していた。二つの視線は、自然とスプーンの銀色に吸い寄せられていた。

「よく似ていると思うけど。」
「うん、だから嫌なの。兄貴にもよく言われたし。」
「死にかけたというのに元気だな。」
「いやあ、五体満足に助かるとは思ってなかったけどね。死ぬとも、まあ思ってなかったさ。」
「それは…甘い考えだな。」
「いやね、アンタが助けてくれるんじゃないかってさ。」
「…信じるものを間違っている。」
「そう思うよ、でもなんでだろうねえ、なんだかアンタの妹さんの気持ちがわかったんだ。」
「…。」
「あたしと同じさ。きっと、約束信じてるよ。」

「(約束、信じてるよ。)」

 少女が詩人を見上げると、詩人もじっと少女を見ていた。
 彼女の目には何故か、彼が親に抱きしめられた子供のように見えた。しかられると思ったけど許されて、泣き止んだ子供に。彼は少し呆然としてから、少し笑った。

「そうか。」
「また少し返済遅れちまうけどさ、許しておくれよ。」
「ああ、構わない。」
「借りもさ、返すからさ。」
「…もう返してもらったさ。」
「?」
「首をかしげると余計ネコに見えるぞ。」

 やがて巻き毛のプリーストがやたら明るい声音で面会時間の終了を告げた。詩人はじゃあな、とだけ言って後ろを向いた。少女にはその背中が今までより少し大きく見えた気がしたのだが、何故かはそこにいる誰もが知らなかった。
 また、彼女にはそれが彼なりの別れの挨拶であることはわかっていなかったが、部屋を出る瞬間はぼんやり寂しかった。そういうものなのだ。別れというのは。
 次の日から詩人は少女に会いには来なくなった。三日目に巻き毛のプリーストに問いただしてみると、

「あの人なら入院費だとか全部置いていったわよお。『仕事を思い出した。ありがとう、全部とっておけ』ですって、いいお兄さんね。」
「…ええ、そういうとこもそっくりです。」

 詩人は一応約束は守ったのだ。彼の行動を少女は勝手なことを、と判断したようだ。だが、旅支度をすませた少女は増えてしまった旅の目的をわずらわしくは思っていなかった。また彼に会いたい。彼の家族の話を聴きたい。彼の家族に会いたい。
 そして、助けてくれてありがとうともう一度言わなくてはならない。
 旅立つ朝、巻き毛のプリーストに礼を言ってから、冷たい空気を吸って彼女は歩き出した。

「まずは時計塔行くかっ。」

 彼女はそれ以来、奇妙な詩人には再会していない。


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