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【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】

[33:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/03/10(木) 16:06 ID:DZckOT7Y)]
「…ふむ、ふむ。アルデバランの時計塔か…ふむ」
 ひとしきり、観客達が壇上の詩人に拍手を送り終え、満足した表情で、家路に付き始めた頃。
 その男は、顎から、山羊の如く長く、垂れ下がった白い髭をいじくりながら、呟いていた。

「まさか、あすこの連中が…未だに本気だとはのぅ…
魔導を志し、早や1200年…長く生きておると、面白いこともあるもんじゃて」
 室内だというのに、目深く被ったフードの奥から、燃える蝋燭の様な目が、詩人を捕らえる。
 男…汚れた薄紫のローブを着た、老人は傍らの金色の杖に手をやり、椅子から立ち上がった。

 …その唇には、深い深い笑み。

「おぉい、そこの若いの!!」

「…俺のことか?」
 愛用のギターを手にし、楽屋に引っ込みかけていた詩人が、老人の声に立ち止まる。

「おお〜、そうじゃそうじゃ。ちょっと、こっち来てくれんかの?
お主に、尋ねたいことがあるんじゃ」
 入れ歯を通り越して、何度目かの瑞歯が生え揃った顔で破顔しつつ、言う。

「何をだ…?」

「別になんでも構わんじゃろ? 悪いようにはせん。ささ、こっちに来なさい」

 しばし、詩人は不審げに老人を見る。
 無理も無い。詩人も、人のことを言えた姿では無いが、
 それにしても…この老人は、どこをどう見ても怪しさ以外の何者も搭載していない。
 正直、よくこの酒場に入店できたものだ、と詩人は思った。

 頭では怪しげな姿を疑いつつも、だからこそ詩人は老人の下へと歩み寄っていた。
 彼等の座るテーブルの向こう側で、酒場の店主が既に店じまいを始めている。

「で、ご老人、俺に何の用だ」

「んー…単刀直入に言わしてもらうぞぃ?」

「ああ」

「お前さん、人じゃないだろう?」

「………俺は、唯の旅芸人だ。あんたが考えてるような骸骨じゃないさ」
 詩人は、数度呼吸をした後、平坦な声で言った。

「ワシ、一言も『骸骨』だなんていってないぞぃ?」

「………………」

 もしも、男の被った仮面が表情を表すことが出来たなら、
かくん、と顎が落ちた表情を連想させる、沈黙。

「ま…お前さんが『何であれ』、あの歌…時計塔物語だったか…は、いい歌じゃったよ」
 墓穴を掘った詩人を前に、老人は言う。

「…何が言いたい?」

「…判らんか。そうか、そうか。お主もまだまだだぞぃ?」
 からから、と老人は笑う。

「お主の歌は、人にも、ワシにも通じておるじゃないか。
人の心にも、魔の心にも…お主の歌う、楽園の様に。
そんな詩人は、そうそうおらんよ。ワシが保障する」

「………」
 深い皺を顔に刻んで笑う老人を前に、詩人は顔を伏せた。

「さて、ワシはそろそろ失礼するよ。急に用事ができちまった」

「用事…?」
 詩人は、老人に問うた。
 そして、老人は詩人に答えた。

「時計塔を訪ねに行くのさな」

 老人は笑い、杖を片手に立ち上がった。


 いつの夜、何処とも知れぬ街で出会った詩人と老人。
 そして、時計塔に、永遠を手に入れた古き魔導士『エルダー』が顕れるようになったのは、
この夜から暫く過ぎてからのことである。


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