【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】
[124:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2007/08/17(金) 14:13:11 ID:GCgEsyY2)]
271. Greed (3日目午前)
「いや・・・・・・・・・」
ふたりの騎士の前で、相棒であるファルコンを抱きかかえて、♀ハンターは立ちすくんでいる。その表情に貼り付いているのは、まるで幽霊でも目にしたかのような恐怖の色。がくがくと全身を小刻みに震わせて、彼女は己が弱者であるということを全身でアピールしているかのように見えた。
「君は・・・」
♂騎士にとって、♀ハンターの顔を視認するのは初めてだった。ミストレスとの激戦の渦中では未だ、彼の瞳は“人”を映すことを拒んでいたから。
しかし、情報として得てはいる。あの場に、ハンターの女性がいたということは。
「あなたは、♀スーパーノービスさんと一緒にいたハンターさんですよね?」
声をかけられた♀ハンターが、びくりと大きく反応する。
――そう、♀スーパーノービス。俺の不手際の所為で命を落とした、その少女の仲間であったと。
「一体、どうしたんです? ♂プリーストさんは・・・」
♀騎士は駆け寄ろうとするが、いやいやをするように♀ハンターは後ずさる。
「来ないでっ!!」
「・・・・・・何があったんですか? よければ、教えて・・・・・・」
足を止め、優しく話しかけようとする♀騎士だが、
「嫌なのっ! もう、嫌だよおっ!!!」
♀ハンターの口から飛び出すのは、ただ拒絶の意思のみ。だが、後退する♀ハンターは、たまたまその足元にあった木の根に足を取られ、尻餅をつく。
「やだ・・・・・・・やだ・・・・・・」
目尻に涙を浮かべ、ぎゅうっと強くふぁるを抱きしめたまま、♀ハンターは起き上がることも忘れてどうにかして距離を取ろうとする。その視線は辺りを目まぐるしく彷徨っては♀騎士に戻り、♀騎士に視線が移るたびに見たくないとばかりに視線を逸らす。何も考えられなくなっている今の♀ハンターは、♀騎士の存在を恐怖の対象としか捉えていない。
♂騎士も♀騎士も、どうすればいいのかわからなかった。原因は不明だが、♀ハンターに何かがあったのだろう事は察しがつく。まずは彼女を支配する、恐怖という枷を外さなければ。この場に♀アコライトでもいれば、ぐいっと首根っこでも掴んで檄を飛ばすことくらいやってのけたのだろうが、残念ながら♂騎士も♀騎士も、そんなキャラクターではない。
そうこうしているうちに♀ハンターは近くに生えていた木の幹に身体を預けるようにしながらよろよろと立ち上がる。膝はがくがくと震え続けているが、今は逃げなくては。
・・・・・・・・・“何処へ?”
それすらも思考の中からはすっぽりと抜け落ちたまま、♀ハンターは♂騎士達に踵を返すと、おぼつかない足取りで駆け出そうとした。
・・・・・・・・・だから、今の彼女には危険を知らせる森の中の鳥達の『声』も、耳には入っていなかった。
「あ、待って・・・・・・!」
兎にも角にも、♀ハンターをこのまま放っておくわけにはいかない。そう判断した♀騎士が、後を追おうと一歩を踏み出した時。
がくん、と。
前方で、♀ハンターの身体が大きく跳ねた。
「・・・・・・・・・!!」
どさり、と、大事そうに♀ハンターに抱えられていたふぁるの身体が地に落ちる。
そのまま、♀騎士の目の前で今度は、♀ハンターの身体が少しだけ、宙に浮き上がった。
「・・・・・・や・・・・・・!!」
♀ハンターは空中で藻掻くように身体を捻らせるが、自由が効かないらしく、手首と足首が虚空を掻き回すだけだ。苦しそうに呻き声を洩らす♀ハンターだが、♀騎士には今目の前で何が起こっているのかがわからない。
・・・・・・だが、彼女の身に何かが起こっている。助けなければ。
「待ってて、今――!?」
駆け出そうとした♀騎士の足首に、何かが絡みついた。
「きゃあっ!?」
そのまま凄い力で足元を掬われ、転倒する。見れば、地面から不気味な長い触手のようなものが何本か突き出し、それが己の足に絡み付いている。
「何、これ・・・」
「何だってんだ・・・!?」
少し遅れて反応した♂騎士が♀騎士の前に飛び出した、その瞳に映ったのは。
♀騎士を襲ったものと同じ、何十本ともいう触手によって全身を空中で絡め取られ、ぐったりとしている♀ハンターと、その触手の主――♂騎士は知る由もないが、♂ローグの屍体より生まれ出でた、異形の寄生虫の姿だった。紫色の、不気味に蠢く柔らかそうなぬめった塊。子供くらいの大きさはあろうそれの全身から、躍動する何十何百という触手と、おそらくは体液なのだろう不気味な液体が流れ出していた。
「ペノ・・・メナ!?」
・・・できそこないのペノメナ。それが♂騎士の第一印象だったが、すぐにそんな感想など頭の中から追い払い、瞬時に判断する。
「放し、やがれぇ!!!」
カッツバルゲルを大きく振りかぶると、♀ハンターの身体を空中に固定している触手郡に向かって飛び掛り、大きく――
薙いだ。
但し、それを行ったのは寄生虫の触手、吹っ飛ばされたのは横合いからの直撃を喰らった♂騎士のほうだったが。
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