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【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】

[154:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2007/09/20(木) 09:03:35 ID:9B2KGO5g)]
276. 嘘 [3日目午前]


♀商人は激しくえずき、背を丸めて全身を震わせた。
「どうしたんですか!?」
「どいてっ」
驚く♀ケミを半ば突き飛ばすようにして淫徒プリが少女の傍らに膝をつき、丸まった体を無理矢理引き起こす。
「吐いて!早く!」
そう言って少女の顔をのけぞらせると有無を言わせず喉に指を突っ込んだ。
さらにみぞおちへ膝を当てて強く押す。
「ぇうっ、うぶぇえええぇぇぇっ」
少女の口から食べたものと胃液があふれ出した。
さらに彼女の口に水筒を押し付けて強引に水を流し込み、もう一度吐かせる。
毒物に対する素早い処置。
♀ケミへの疑いを完全には捨てていなかったからこその反応だろう。
次いで自分も吐こうとする様子を一瞬見せるが途中でやめる。
食べた順序と時間経過からして、同じ毒が入っていたならとっくに効果が出ていなければおかしい。
代わりに淫徒プリは周囲に問いかけた。
「緑ポーションかそれに類するもの、ありませんか!?」
即座に悪ケミが答える。
「したぼくがもってたはず」
「そうですか」
淫徒プリは激しく咳き込む♀商人を背負おうとした。
「追います」
毒薬を飲まされたのだとすれば助かる可能性は低いが、見捨てるわけにも行かない。
それを悪ケミが呼び止める。
「これに乗っけて」
悪ケミはひっくり返った♀商人のカートを起こし、しっかり握った。
「おんぶするより早いと思う」
「お願いします」
ひとつ頷き、淫徒プリは少女の体をカートに押し上げた。


「いったいどうして…」
今回に限り本当に心当たりがない♀ケミは狼狽する。
だが彼女に向けられる視線は厳しかった。
「まだしらを切るっ!?毒入れれたのはキミしか居ないだろっ」
♀マジはその手を♀ケミへ向けまっすぐ伸ばす。
疑っていたのに防ぎきれなかったという後悔が頭に血をのぼらせている。
「ま、待ってください。毒なんて」
「だまれ」
♀マジはファイアーボルトの詠唱をはじめた。
その表情に本気を感じて♀ケミは身を翻す。
ヒュドドドドドドンッ
木の後ろへ隠れるのに一拍遅れて炎の弾丸が着弾した。
細めの木では止めきれず、2発ほど肩先をかすめる。手加減はまったく感じられない。
「やめてくださいっ」
呼びかけながら鞄をさぐり、彼女はクロスボウを取り出した。
濡れ衣で命を落とすなんて馬鹿らしすぎる。
一戦して逃げるか。あの2人ならうまくすれば殺せるかも。
クロスボウを構えて様子をうかがうと、♀アコが♀マジの背をつついていた。
「あの人何かやったの?」
いささかのん気な質問が聞こえる。事態の急変についてこれてないらしい。
♀ケミは思わず少し期待した。なんとか♀マジを止めてくれないだろうか。
撃つのはやめて声を掛けようとする。
「私はなにも――」
「♀商人のお菓子に毒仕込んだんだよっ。あれ見て、ボク達に矢を撃ったのもきっとアイツ!」
説得しようとした言葉は♀マジの早口にさえぎられた。
しかも後半は事実なので思わず詰まる。
その間に♀アコは説明を要約した。
「つまり悪者ってことね」
「そう。わかった?」
「わかった」
♀アコはうなずき、そして♀ケミへ向けてびしりと指を突きつけた。
「正々堂々と勝負しなさいこの卑怯者っ」


「ちょっ…まっ…」
ガタガタとゆれるカートの上で♀商人は細い声を絞り出した。
「動かないでよっバランス悪いんだから」
カートを引く悪ケミが文句を言い、後ろで支える淫徒プリも彼女を寝かそうとする。
「じっとして、少しでも毒の回りを抑えてください」
「ちが…」
ひどい揺れで吐き気が止まらない。
胃にほとんど何も入ってない状態で無理矢理吐かされたために喉も痛い。
それでも♀商人は淫徒プリの手を押し切って体を起こした。
「うわ、ちょっとっ」
その動きで一気にバランスが崩れ、カートがかしぐ。
なんとか支えようとする2人の努力もむなしく、カートはそのまま横転して♀商人の体が投げ出された。
「♀商人さんっ」
淫徒プリは慌てて彼女の元に駆け寄る。
「大丈夫ですか」
「ごめんなさい…」
あちこちに擦り傷を作り、少女は泣いていた。
「謝んなくていいから。早く乗りなさいよ」
「揺れるかもしれませんけど我慢してくださいね」
悪ケミと淫徒プリはもう一度彼女をカートへ乗せようとする。
その優しい声に♀商人の嗚咽が深くなった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんさい…」
首を左右に振って謝罪を続ける。
「それはもういいですから」
「ちがうの」
なだめる淫徒プリの言葉にさらに強く首を振る。
悪ケミはだだっこを叱るように腰へ両手を当てて言った。
「今はいいとか悪いとか――」
「毒じゃないの」
「……え?」
小さな声だったので聞き間違いかと2人は顔を見合わせる。
だが♀商人は続けてはっきりした声で言った。
「みんなをびっくりさせようと思っておなかが痛いふりしただけなの。毒なんて入ってなかったのっ」
淫徒プリと悪ケミの顔から一瞬表情が消えた。
それが理解と同時に驚愕の表情に変わる。
「あんた、どうして」
「あの人♂セージさんに色目使ってたし、みんな怪しんでたから…」
「ドッキリはすぐネタばらさないとシャレにならないのよっ」
悪ケミが思わず声を高くすると♀商人はぽろぽろ涙を流した。
「言おうと、思ったけど、苦しくて…」
「…そうでしたね」
有無を言わせず処置した淫徒プリは唇をかんだ。
胃の内容物がない状態での嘔吐は胃が痙攣するため非常に苦しい。
しかも飲ませた水か逆流した胃液が気管に入ったらしく、ついさっきまで激しく咳き込んでいた。
しゃべれという方が無理だ。
そこまで考えて淫徒プリは首を振った。
「彼女を責めても仕方ありません。それより急いで戻らないと」
「そうね。罪をにくんでイタズラにくまずって言うし。…あんた、自分で歩けるわよね」
悪ケミの確認に♀商人はこっくりとうなずく。
それを見て淫徒プリは即座に歩き出した。
「急ぎましょう」
来た道を戻る足取りはすぐに小走りになる。
残された♀商人はしばらくぐすぐすと鼻を鳴らしていたが、やがて残されたカートを握った。
そして来た方角と向かっていた方角を見比べ…、トボトボと歩き出した。


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