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【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】

[232:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2008/03/26(水) 17:23:21 ID:8IcLkBfk)]
282.Who is Helper?[三日目午前]

 どうしよう。どうすればいい。
 はぁはぁと弾んだ息を抑えようとしつつ、木陰に隠れて♀アルケミストは現状の把握と整理に必死で頭を回転させていた。が、すぐにその思考には余計な感情が入り混じってくる。
 ――今までの人生も巧く立ち回らなければここまで生きてこれなかったのは確かだろうが。こんなに疲れる頭の使い方をしたのは、この島が初めてだ。もう嫌だ。
 駄目だ。考えろ。諦めるな。考えなければいけないのは、ここだ。今考えなければ、後悔しても遅い。死にたくなければ、考えるしかないのだ。そうやって今までも考え続けてきたじゃないか。
 ♀アコライトと♀マジシャンには、完全に敵と見做されたに違いない。いずれ戻ってくる淫徒プリら仲間達も、最早♀アルケミストの安全を確保してくれる駒にはならないだろう。元から、淫徒プリや♂セージには自分の行動は怪しまれていたようだったし。
 残っている参加者は何人だったか。その中で、自分が取り入れそうな奴は果たしてどれだけいるのだろうか。あの大所帯以外で生き残っている奴らなんて、もうこのゲームに乗った殺戮者しかいないんじゃないのか。

 ――もう、自分の身は自分で守る以外に術は無いんじゃないか。

 はっとする。
 自分の味方は、もうこの島には居無い。
 居無いんじゃ。そうだ、きっとそうだ。
 ひとりの心細さはもう、この島に来てからだけでも何度も経験してきた。それでも、誰かが――使える誰かが、何処かにいるだろうと思っていた。利用できるものを探して、どうにかしようと、どうにかなると、どうにかできると、そう思っていた。
 でも、もう、自分は、本当にひとり――

 ながま、助ける。

「・・・・・・あいつ」
 ♂スーパーノービス。そういえば、♂スーパーノービスはどうしたのだろうか。
 私の仲間だと思われて、ほかの奴等にやられてしまったのか。
 否、あいつ等は馬鹿だ。殺し合いのこの場に置いて、まだ甘さがある。あの♂スーパーノービスが悪い奴ではないということは、私にだって解る。それが解ったとして、私の仲間というだけで殺したりなんかするだろうか。
 ・・・・・・あの集団を追い出されることはあっても、殺される可能性は低い筈だ。ならば、私はあの♂スーパーノービスを拾いに行かないと。
 もしかすると、あの集団の仲間に入ってしまっているかもしれない。或は、本当に殺されてしまっている可能性だって無い訳じゃない。
 それでも。それなら。
 今の私には、否――私には、きっとあいつが必要なんだ。


 鳥の鳴き声がまばらに聴こえた気がした。
 そして、かさり、と。
 何かの音に気づいて、♀アルケミストははっと息を呑んだ。
 誰だ。♂スーパーノービスか? そうであって欲しい。否、そうでいて。
 木陰からちらりと顔を出す。向こうから、何かが歩いてくるのが見えた。

 ――何、あれ。

 人には見えなかった。
 人の形を成してはいるが、それは人ではない。
 グール。そうだ、ゲフェンの地下洞窟に棲む屍人があんな風な姿をしていた。
 どういうことだと、♀アルケミストはまたも頭を抱える。このゲームの敗者の誰かの亡骸が黄泉返って、真っ昼間から島を闊歩しているとでも言うのだろうか。・・・・・・ああ、もうそれでいい。何が起きても不思議じゃないんだ、この島は。
 だが。
 少なくとも、アレは味方ではない。味方である筈がない。
 だが、よろよろとしたその屍人は♀アルケミストの方に近付いてくる。気づかれているのか、偶々か。よく見れば、屍人はぼろぼろの曲がった棒のようなものを片手に持っている。あれは・・・・・・弓、か?
 どうすればいい。♂スーパーノービスはいない。今は♀アルケミストひとりしか、ここにはいない。

 ――自分の身は自分で守るしか無いんじゃないか。

 そうだ。グール程度、ひとりで倒せなくてどうする。私だって、アルケミストの端くれなんだ。
 武器だってある。グラディウスも、クロスボウも。どちらも普段あまり使い慣れない得物だけど、戦える。誰かに、♂スーパーノービスに頼り切ってるばっかりじゃ駄目なんだ。
 唾を飲み込むと、毒を含んだ矢を一本、クロスボウに番える。
 屍人は、ゆっくりと歩いている。疲れ切ったように、ふらふらと。
 こいつを倒して、♂スーパーノービスを探しに行こう。♂スーパーノービスと一緒に、守り、守られ、生き残ろう。その先なんて、考えるのはもう疲れた。


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