【憎悪と狂気】バトルROワイアル 十冊目【恐怖と絶望】
[75:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2007/05/18(金) 02:21:09 ID:9OmP2TJM)]
グラサンモンクの動きが鈍ったのを見てパピヨンはにんまりした。
しかし自身の突撃速度が速すぎて止まるにも別の攻撃を加えるにも間に合わない。
衝突を避けてグラサンモンクの脇をすり抜けようとしたその時
「せぇいっ!」
♂モンクの体の陰から♀アコの拳が飛び出した。
狙い打ちに突き出したジャブは正確にボディを捉える。確かな手ごたえが拳に残った。
ところが本命の右ストレートは空を切る。
「速い!?」
「やーいやーいへなちょこぱんちー」
落下のスピードをほとんどそのまま飛翔速度に変えて、ワン・ツーの間をすり抜けたパピヨンは♀アコをからかおうと振り返る。
だがその目が驚愕に見開かれた。
動きを止めたかに見えたグラサンモンクの指先が正確に彼女をさしている。
「破っ」
「うっきゃああああああ!?」
気合と共に5つの気弾がパピヨンに迫った。
とっさに生み出した魔力球で2つを打ち落とし、スピードにまかせて1つを振り切る。
だが残りの1個が羽を貫通し1個が足を直撃した。
「どーして寝ないのっ!?あんたヘン!」
足の傷から体液をしたたらせながらパピヨンは叫ぶ。
「さあ。どうしてだろうな」
グラサンモンクはぼそりとつぶやき、サングラスの位置をなおした。
そこにはナイトメアの力が宿っている。悪夢の名を持つその馬は取り憑いた者に安眠を許さない。
それこそがインソムニアック――すなわち不眠の呪い。
「もーっ。おぼえてろーっ」
パピヨンはスピードに乗ったまま一気に間合いを取った。
攻撃が効かないのならこれ以上あのモンクにこだわるのはまずい。
本能的にそう察して標的を切り替える。
「来るよっ」
「まだやるつもりですか。私だったら逃げますが」
まっしぐらに突進してくるパピヨンを目にして♂セージはつぶやいた。
サングラスのモンクが睡眠毒に屈しなかった時点で勝負はほぼ決している。
いかに素早くても遠距離攻撃の持ち主がこれだけ居る以上パピヨンはジリ貧だ。
だからこそパピヨンもモンクを封じようとしたのだろう。
それに失敗した以上、次の一手で彼か♀マジのどちらかを倒さなければいけない。
となれば狙いは体力と防御力に劣る♀マジへの直接攻撃。
それなりの覚悟で来るだろう。ソウルストライクでは止めきれまい。
彼と同じ判断をしたわけではないが、♀マジは突っ込んでくる敵に対しほとんど反射的に防御の術を唱えた。
「ファイアウォール!」
正しい選択だ。だが。
♂セージは詠唱しながら♀マジへ向かって走る。
「ソウルストライク!」
パパパパンッ
炎の壁の中で魔力球同士が相殺しあう音が連鎖した。
パピヨンも赤いソウルストライクを撃っていたのだ。
さらに♂セージはそのまま駆け寄り、驚き顔の♀マジを突き飛ばす。
「え!?」
ガキンッ
一瞬後。何かが猛スピードでファイアウォールを突き破り、♂セージの胸元で激しい金属音を上げた。
「ちょっとキミ、大丈夫!?」
「♂セージさん!」
♀マジと♀商人が悲鳴じみた声を上げる。
よろめく♂セージの体から、のたうつ赤いものが炎の向こうへ引き戻された。
触角の長いリーチを利して壁越しに攻撃されたのだ。
ファイアウォールを出す位置が近すぎた。♂セージがかばってくれなければ♀マジは心臓を貫かれていただろう。
「ファイア…ウォールっ!」
♀マジは自責の念を押し殺し新たな呪文を唱えた。
ファイアウォールの厚みが倍に膨れ上がる。
パピヨンは素早く飛び上がってそれを避けた。そして不満そうに口を尖らせる。
「ちぇー。やったと思ったのになー」
「え?」
パピヨンの言葉の意味を測りかねた♀マジは眉根を寄せる。
その背後で♂セージが身じろぎした。
「大丈夫?」
「ごほっ…まあなんとか大丈夫のようです」
心配する♀商人に彼は右手のソードブレイカーを上げて見せる。どうやらそれでぎりぎり防いだらしい。
「無事だったんだ。って、わ!?」
「よそ見はいけませんよ」
思わず振り返った♀マジのケープをつかんで♂セージは立ち上がる。
その勢いで2人の位置が入れ替えるのとほとんど同時に頭上へ忍び寄っていたパピヨンの触角が襲い掛かった。
だが不意打ちを狙った一撃にさっきほどの勢いは乗っていない。
彼は刃で受け止めながら素早く詠唱した。
「フロストダイバ…ごほごほっ」
「うわ」
地面から伸びてきた氷の帯に足を取られかけ、パピヨンは慌てて距離をとる。
もし♂セージが咳き込まず、呪文が完全だったら凍結させられていたかもしれない。
捕まったら最後だ。
彼女は高く舞い上がった。
もうすぐグラサンモンクも射程距離に入る。さすがに潮時だろう。
ただ、1人も殺せずに逃げるのは腹の虫がおさまらなかった。
「べーっだ。いーもん、おばさんやっちゃうからー」
パピヨンは♂セージらに舌を出し、ついでに尻まで叩いて見せてから♀ケミ達向けて飛び出す。
「いやもうまったく。私も翼が欲しいですね」
ため息混じりにぼやきながら♂セージはパピヨンを追って駆け出した。
一方、地面に伏す2人の容態を確かめていた淫徒プリは一息ついていた。
パピヨンの放った魔力球のうち♀ケミに直撃したのは1つか2つだけらしい。
いっそ死んでてくれれば面倒がなかったのに。
ちらりと黒い考えが頭をよぎったが、ひとまず彼女のことは置いといて一刻を争いそうな♂プリの治療に専念することにする。
その時
「逃げてっ」
背後から♀商人の声が届いた。
振り返るとすぐ近くまでパピヨンが迫っている。♂セージ達が追っているがどう見ても間に合わない。
淫徒プリは舌打ちし、瞬時に『正しい』選択をした。
「速度増加」
自分の足を速くし、パピヨンが直線的には追って来れないよう立ち木をはさむ位置へ移動する。
そしてその離れた位置から倒れている二人にヒール。
少々利己的に見えるが、淫徒プリでは2人をかばい切れない以上もっとも合理的な判断だった。
ただし、もちろん他の者まで同じ意見とは限らない。
「ちょっと、何やってんのよ!」
「逃げるなー!」
♀アコと♀マジの熱血コンビが怒鳴った。
淫徒プリは少しむっとする。
合理的に考えて、これ以上治癒魔法の使い手を減らす危険は冒せないだろう。
それも素性の怪しい♀ケミや助けられるかどうか怪しい♂プリのために。
言い返そうとしたとき♀ケミがゆっくり身を動かすのが目に入った。
「プリーストさん…」
♀ケミは小さくつぶやき、♂プリを守ろうとするかのように覆いかぶさる。
これは賭けだった。
彼女の嘘を論破されないためには最低限♂プリの口を封じないといけない。
それも♀ケミ自身が手を下すことなく。
だから♂プリもろとも攻撃を受け、それが瀕死の彼へのとどめになるよう仕組んだ。危うい賭けだが今はこれしかない。
そして、彼女の頭上へ蝶の羽ばたきがたどり着いた。
「バイバーイ」
ドドンッ
高速で飛び過ぎるパピヨンの頭部から真紅の鞭が連続して振り下ろされ、ぱっと血しぶきが上がった。
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