【18歳未満進入禁止】みんなで創る18禁小説Ragnarok ♀×♀ 第6巻【百合】
[152:夜とカクテル4(2009/10/23(金) 23:21:14 ID:JdBGdoBw)]
「どうぞ、散らかってますけど」
大通りから少し入った場所にある三階建ての建物の二階が、彼女の住まいだった。小さめのテーブルと椅子が一脚、それから窓際にベッドがあるだけで、むしろどうやったら散らかせるのかと聞きたいくらい簡素な部屋。きっとキッチンも浴室も簡素なんだろうと容易に想像できた。とはいえ、私も似たようなものだ。家よりも装備品のほうが高価なのは、どこの冒険者も大体一緒だろうと思う。
「お茶入れますね」
そう告げて、紙袋を抱えた彼女はキッチンへ消える。私は客人の権利として、一脚しかない椅子に座った。くるりと部屋を見回して、へえ、と少し感嘆する。部屋の片隅に無造作に立てかけられた杖は、地獄のように暑い火山に棲む魔鳥からしか手に入らない一級品だ。見たところ精錬もかなりしてある。あれを持っているならば、彼女は結構力のあるウィザードなんだろう。そもそも転生を済ませている。ハイウィザードの制服に、どこかのギルドのエンブレムもつけていた。
そんな彼女が名前も知らない、ただ夜の宿でなし崩し的に行きずりの関係を結んだだけの私を部屋に招いてくれたことが不思議だった。私は彼女との関係はあの店の中だけで完結していると思っていたし、外に持ち出すつもりもなかった。だから愚かにも、あの店以外で会うことはない、とどこかで考えていた。
「お待たせしました」
キッチンから戻ってきた彼女が、湯気を立てるティーカップを二つ、テーブルの上に置く。椅子は私が座ってしまっているので、彼女はベッドの端に収まる。
「ありがとう」
口をつけると、ふわりと香りが広がる。真っ白な飾り気のないティーカップが、何故だかとても彼女らしいと思った。よく知りもしないのに。
「おいしい」
そう言うと、よかった、と彼女は目を細めて笑う。
「もしも」
微笑んだまま、彼女がするりと言葉を紡ぐ。
私は、彼女との関係はあの店の中だけで完結させるつもりだった。さっきまでは。
「さっき、あなたが断ったら、あのお店には二度と行かないつもりでした」
けれど、果たして彼女もそうだったのだろうか。私が口付けをしない理由に、彼女はきっと、気がついていた。多分、最初の夜から。
立ち上がり、私の横で彼女が言う。
「キス、してもいいですか」
その声は、少し、震えていた。
ウイスキーの瞳が、ひたり、と私を見据える。
窓から入る光できらりと透けるそれを、初めて美しいと思う。
昨日までの私なら断った。けれど昨日までの私は今さっき、あの大通りで容赦なく崩されて、再構築された。それはもう、徹底的に。
だから、返事の代わりに、ゆっくりと瞼を閉じた。
そろり、と頬に指が触れる。その指先は震えていて、そこから彼女の緊張が私にも伝播する。
恐る恐る唇に押し付けられる柔らかな感触。彼女の髪が淡く香る。私はまるで初めてキスをする少女のように緊張していて、心臓は自分のものとは思えないくらい早く動いた。彼女もきっと、そうだったに違いない。押し付けられた唇と、頬に触れた指先とがそれを教えてくれた。
何分も経ったのか、それとも一瞬だったのか。ただ触れるだけだった彼女のぬくもりが離れて、私はそれを名残惜しい、と感じる。
瞼を持ち上げると、椅子に座ったままの私を見下ろす彼女と目が合う。彼女は何とも言えない表情をしていて、そして多分私も同じだった。
無言で差し出された手を取って立ち上がる。そのままベッドへ導く彼女に抗う為の理由を、私は何一つ持っていなかった。
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