【18歳未満進入禁止】みんなで創る18禁小説Ragnarok ♀×♀ 第6巻【百合】
[96:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2009/06/05(金) 01:53:16 ID:/rXJNrfc)]
「あーあ、退屈退屈―」
隠れ家で一人、くだんの天才アサシンことファルは一人腐っていた。
ベッドで寝そべる彼女の周囲にはうず高く積まれたがらくたの山。
中には黄金の宝杖や銀の短剣など、がらくたとは言えないものも混じっていたが、
いずれもがらくた類と一緒くたに扱われてしまっては宝物としての威厳も失せてしまう他なかった。
「ダンジョンもボスも怪盗ごっこもつまんなーい」
がらくたは彼女の戦果だ。モンスターから、或いは遺跡から、
或いは人から正々堂々と奪い取ったり盗み出したりしたものである。
中には冒険者達が血眼で捜し求めるようなものもあるし、
国家機関までもが必死で追い求めるものとてあるが、
彼女の前には一律全てがらくたである。どれほど価値があろうと、
手を伸ばせばすぐに手に入るようなものに価値など感じられない。と彼女は常々ぼやいている。
(世界は酷く甘くて狭くて、『怪盗ごっこ』なんて馬鹿げたことをして舐めてみても通る。
でもわたしの心は満たされないまま……)
MNNに目を通す。華麗に夜を舞う自分の姿に多くの人たちが幻惑されていた。
子供っぽすぎるやり方で世間をからかってみれば面白いかもと思って始めた『怪盗アサシン』だが、
実際にやっていることはいつもと大して変わらない上、楽しむのは寧ろ世間であって自分ではなかった。
(つまんない。怪盗も廃業しようかな)
何でもいい。自分の心を誰か、震えさせて。ファルは大の字になって寝そべりながら、そんなことを考えた。
(産まれたときからずっと、なんの失敗もしないって、実は不幸かも……)
贅沢な悩みなのは知っている。しかしこのまま何の感動も喜びもなく人生を終えるのかと思うと、
酷く面倒になる。ここが人生の頂点だというなら、誰かに代わってあげたかった。
「あーもう、誰かわたしを満足させてよーっ!」
「いいよ? 代償は案外高くつくかも、だけどね?」
突如として響いた声に対するファルの反応は早かった。必要なことしかしなかったのだ。
風を切り裂いて4本のナイフが真っ直ぐ何もない壁に向かう。
壁に赤錆が目立つ刃が立つか、と思われた瞬間、壁が突如として膨らんで一枚の布に変化し、そのままナイフを振り払う。
「あぶなっ、ベノムナイフじゃないか。かすり傷でもすぐに膿んじゃう特別製。そんなの常備してるの?」
壁に化けた布の後ろから現れたのはアサシン。セリアである。
喋りつつも彼女はカタールを構え、ファルに相対する。瞬時の油断も許されない。ファルは既に戦闘態勢で突っ込んできているのだ。
ぎん、と金属音、カタール同士がぶつかり合う。
狭い室内ゆえにアサシンらしい機動性を活かした戦いは望むべくもなく、
そのまま鍔迫り合いになる。ぎぎぎ、と金属が擦れる音が響くことしばし、
セリアは脂汗を早くも浮かべていた。
(冗談じゃない。なんて馬鹿力)
完全に不意をついたにも関わらずノータイムでこちらの位置を見極め、
ナイフを放つ眼力といい、それを牽制に突っ込んできて逃げる余地をなくす判断力といい、規格外だ。
その上この馬鹿力はなるほど、天才と称されるのも頷ける。
対照的にファルは汗ひとつ掻いていない。
体勢を崩そうとするセリアのありとあらゆる企みを巧みに力加減することで挫折させ、
ますます追い込むだけである。
「確かに強いけど、それほどじゃ、ない」
ぎりぎりと押さえ込みながら、ファルが言う。
「穏形もすぐに見破れた。わたしに匹敵するほどのアサシンじゃないのに……
なんであの瞬間まで気づかなかったの?」
「さあ、なんでだろうね?」
その間にも攻防は続けられる。しかし優劣は今や明らかだ。
ファルが上から押し倒すようにしているのに対し、
セリアは両手を交差させてやっと支えているだけである。
「不意をつけばいけるかと思ったけど……! これは、奥の手を使わざるを得ないかな……?」
「そんな暇ないわ」
「どうかな? 甘く見ていると足元をすくわれるよ」
ファルがまさにセリアを床に叩きつけようとした瞬間。
「……え?」
セリアの姿が掻き消えた。支えを失ったファルは逆に床に激しく叩きつけられる。
「っ……!? テレポート!? 室内なのに!」
この相手は何かおかしい、とファルは考えた。最初に気付かなかったのもそうだし、
今のテレポートもかなり無理がある。魔力の高まりすら感じなかったのだ。
一旦引くべきだろうか、とも考えるがプライドがそれを邪魔する。
それに、誰にも知られていないはずの隠れ家にすら潜入されていたのだから、逃げても無駄とも思える。
(ここで決着をつけるしか)
カタールを構えなおし、気配を探ろうとした、その時。
「……っ!? 身体が、動かない!?」
いつもなら羽のように動く手足が、突然鉛よりも重くファルをその場に縫いとめた。
「ふう、あのままやられちゃうかと思ったけど、間一髪だったかな」
「こ、このっ」
全力を込めるが、手足はぴくりとも動かない。
カタールを構え、今正に突進しようとする構えのまま、ファルは動きを封じられた。
目を凝らしてみれば、手足には細い銀糸が巻き付いており、ぴんと張った糸のその先にはセリアがいた。
「マリオネットコントロール!? 違う……こんな魔法聞いたこと……」
「すぐにわかるよ、ほらっ」
セリアが指を軽く曲げると、ファルの右腕が主の意思によらずに動き、
カタールを取り落とす。更に指が曲がり、左手からもカタールが落とされた。
「よっ……と」
そのまま指を動かし、糸を操る。ファルは操り人形のようにその場で踊った。
「な、なにこれっ! や、やめなさい!」
「止めたらぼくの立場も命も危ないし、もう観念してもらうしかないかな」
ファルが動かせるのは僅かに首から上だけだ。ひょっとしたら心臓だって止められるのではないだろうか。
そう思うと恐怖がこみ上げてくる。
(こんなことって……なんでアサシンがこんなの……まさか)
身動きが取れないだけでなく、思うが侭に操られる。その瞬間、ファルは自分が何をされたのか理解した。
「アカウントハッキング……」
「ご名答」
ファルは戦慄した。アカウントハッキングは重犯罪という言葉すら生ぬるい、
最悪の犯罪だ。これに比べればファルのしたことなど児戯に等しいだろう。
だがそれだけに効果は恐ろく強力だ。当人や周囲が何をしようと、身体の自由が完全に奪われ、
場合によっては思考すらも奪われる。事実上かかった時点で終わりの、最悪の業なのだ。
「くっ、何よ。アンタのほうがよっぽど犯罪者じゃないっ」
「きみを捕らえようと言うんだから、これぐらいの用心は許して欲しいかな。
もっとも、少しヒヤリとさせられたからね、お礼はさせてもらうよ」
お礼という言葉と共にセリアは唇の端を吊り上げる。
指が軽く動くとファルの右腕が動き、左腕が下がる。
「な、や、やめなさい! 後で酷いわよ!」
「その格好で言われても、説得力ないよ? ほら、ぼくを楽しませて」
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