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【18歳未満進入禁止】総合命令スレ19【inハァハァ鯖】

[201:アリスとエリザ-双子の隷嬢剣士(2011/11/26(土) 21:08:56 ID:73yY19mU)]
>>193


 再建された城下町に人間の市民は以前程多くはない。
 もっとも、市民としてカウントされることのない人間が多いことには変わらないのだが。
 少ない人間の大半は情報産業(諜報・防諜)か錬金術に従事するという産業構造もまた、旧城下町と同様である。
 アサシン達は魔族や住民の益となる情報を収集し、学者達は魔族に場所代を支払う代わりに町の情報産業に多額の出資を行っている。
 人間の動向を知りたい魔族と、倫理の束縛なしにライフサイエンスが研究できる場を欲している学者達、そして継続して高額の依頼を得る事の出来るアサシンギルド。
 三方の利害が一致し、また人口も減ったことから三者の関係はより強固なものとなっていた。
 魔族は決して手を組んだ人間を裏切る真似はしない。
 そこまで魔族が人間に誠実なのはなぜか。
 答は簡単で、人間がゲフェニアを『異界』と呼ぶように、魔族にとっても地上がでそれあるからである。
 しかし同時に人間が魔族に対してそうであるように、魔族もまた人間を畏れているというのも事実である。
 様々な形で行われる人間同士での『共食い』は、ほとんどの魔族達にとって理解の範疇を越えているからだ。


「ほれ、行ってこい」
 カウンターの上に置かれたバスタードソードを指さしながらセージワームは言う。
 それらはかって剣士姉妹だったアリスとエリザ、メイド姉妹の物だった。
「どういうことですか?」
 姉だったアリスがセージワームをにらみつける。
「城下町の研究所でバイオハザードだ。人間の起こした不手際の落とし前は、お前等人間で付けてくるのが筋だろう?」
 不満顔で命じるセージワーム。
「く…っ。都合のいいときだけ人間扱いですか」
「お、お姉ちゃん…やめようよ」
 今にも剣を抜き放ち、セージワームに切りかかりそうなアリスを、かって妹だったエリザが諫める。
 カードの絵柄もあってか、一般的にお淑やかなアリスと勝ち気なエリザというイメージからはかけ離れた光景だ。
「お前達のエサ(闇水)代もバカにならないのだよ。自由に生きたければ、自分たちで仕事を取って古城コインを稼ぐのだな。まあ、まともな仕事のクチがあればだが」
 城下町において通用している地域通過の事で、市民か否かを問わず人間はこれを用いて取引を行っている。
「あの…鎧は?」
「アリスやエリザが鎧を着るはずはないだろう。それ、さっさと行け」
「行くわよ……」
「うん…」
 セージワームの答えに特に異議を唱えることもなく、二人はメイド服の上から剣を帯び町へと出て行った。


 空は赤銅色の霧に包まれ、大通りを魔物が行き交う。
 ここに来てから日は浅いものの、それでもここが人間にとって『地獄』であると姉妹は確信していた。
 真新しいゲフェン様式の建築物からは絶え間なく悲鳴や泣き声が、そして時折断末魔だろうそれも聞こえてくる。
 二人はそれらから目をそらし、耳をふさぐかのように俯き、足早に目的地へと急いだ。
「ここが依頼の研究所ね」
 前の前にはガラス張りの巨大な温室が並ぶ植物園のような施設。
 その方々から煙が立ち上っている。
 依頼の詳細−といってもやることは簡単だがーは、温室にいるバイオプラントを完全に枯死させるため、用水ポンプに専用の除草剤を投入してくる事。
 暴走が始まった時点で自動的に対応されるはずだったが、完全に機能しなかったらしい。
「行きましょう」
「うん。お姉ちゃん」
 二人はうなずき合い、左手を鍔に添えつつ中へと足を踏み入れた。


「なに…これ」
「何を栽培していたのかわからないけれど、どうせろくな物じゃないでしょうね」
 怯えた目で周囲を見回すエリザにアリスが言う。
 二人の左右には、無惨に千切られた植物の茎や根が浮かぶ巨大な水槽群。
 水面には何に使うのか考えたくない‐おそらく磔用だろう‐の『大』字型の柱が並び、獣のうなり声のような循環ポンプの音が不気味に響いている。
 温室の入り口には『繁殖実験棟』と書かれていたが、内部の様子を見た瞬間から二人は深く考えないことにした。
「目的の揚水ポンプはこの奥みたいね」
 耳を澄ませつつアリスが言う。
「そう…だよね…あ、お姉ちゃん前!」
「生存者…?」
 巨大な水槽同士の隙間に黒い影が見える。
「助けないと!」
 影に向かって駆け寄るエリザ。
 彼女はそれが自分達のような存在だと考えたのだろう。
 だが、それは大きな間違いであり、そのことに気づくのにそう時間はかからなかった。
 アリスが彼女に注意を促すよりも早く、それは起きた。


「大丈夫ですか!?」
 エリザが駆け寄る。
 影の正体は女性だろうか、驚くほど体の線は細い。
「あの…」
 うずくまった女性に近づいたその瞬間。
「危ない!」
「え?」
 アリスの声が響くと同時に、エリザの体に何かが巻き付いた。
 同時に影が立ち上がり、顔を上げる。
 影の正体は、にたぁ、とした笑みを浮かべた樹木のような肌をした女性だった。
「ドライ…アド?」
 図鑑でみたウンバラの植物がなぜここに。
 だが、その疑問に答える物は居なかった。


「……く」
 目の前の光景に、アリスは奥歯をかみしめた。
 水槽から延びた蔦に絡め取られたエリザと、それをみてにやにやと笑うドライアド。
 樹木人間の肌は灰色で、人の髪の様に茂る葉も緑色ではなく漆黒の如き黒色をしている。
 眼前のそれがまともなドライアドではないのは一目瞭然だった。
「コウサン?」
「こいつ、言葉を?」
 片言の言葉に驚愕するアリス。
 だが、ドライアドはそれが気に入らなかったのか顔をしかめエリザの首に蔦を巻き付ける。
「コウサン?」
「く…」
 そう言うことか。
 アリスは手にした剣を地面に放り投げた。
 既に彼女の足下には多数の蔦が這い寄っていた。

 続きます


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