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【殺し合いに】バトルROワイアル 十一冊目【終劇を】

[26:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2012/04/26(木) 02:25:15 ID:NhSvkTuk)]
306.Foolish or Fool(三日目・昼)

 虚脱感の中、目を覚ます♂モンク。
 最初にその目に映ったのは。
「やあ、どうも。おはようございます」
 暢気な声と笑顔でもって、彼を見下ろして片手を上げてみせる魔術師の男だった。

「…Who?」
「フール? 起き抜けにしては随分と辛辣ですねえ。
 まあ、治癒の施行もなく起きていただいている以上、文句など言えた状況ではありませんが…」
 馬鹿(フール)呼ばわりされたと思い、しょぼんと分かりやすく肩を落とす♂セージ。

 言われた通り、覚醒したばかりで思考のまとまらない頭をはっきりさせようと目を瞬く。
 が、それがかえって眩暈を引き起こし、文字通り白黒と世界が明滅するような感覚に襲われて上体がふらりとよろめいた。
「おおっと」
 慌てて肩に手を置き、♂モンクの身体を支える♂セージ。
 呻き声を喉の奥に抑え込みながら、手応えのありすぎる頭部を押さえて二、三度かぶりを振るう。

 ♂モンクは今、周囲を草木に囲まれた森の中にいた。
 木漏れ日落とす木々の葉音と、腰を落とした木の根の股。どうやら自分は、立派な木々の中の一本に背をもたせかけ腰掛けた状態でいるらしい。

 手放しそうになる意識を無理矢理に叩き起こす。
 全身にまとわりつく鈍い痛みと疲労感。
 ―それに続いて、フラッシュバックする映像。

 

 紫煙の如き怒涛の雷光。その向こうに一層鮮やかに明滅した、紫と赤の光芒。
 逆再生される記憶。己の拳が放った一撃、貫いた肉体。

 惨劇の前夜。拳を合わせた狩人の青年。
 こんなクソったれた島で、どんな御伽噺にも負けやしないとびっきりの告白をかましてくれた。

 さらに映像が巻き戻る。
 物語の王子とお姫様、そして悪い女王様の下へと駆け出す直前。

 彼が地を蹴る刹那に。視線を走らせた先で。

 己と同様、されど己より僅かに。確かに早く。
 卵から孵ったばかりの女王の眷族と対峙する騎士の男に加勢すべく、迷い無く駆けるもう一人の騎士。

 見慣れた桃色の背を見た。

 

「―Shit! Fool is me!!」
「は?」
 突然大声を上げる♂モンクに、面食らう♂セージ。

 交戦していたミストレスの動向とパーティのその後。
 怒涛の勢いでまくし立て、それらの質問を投げる♂モンクだったが、
「…えーと」
 さしもの♂セージであれ、♂モンクのラッパー語についていけず頭を抱える破目となった。

 ―しかし、事を急いでいるのは♂セージも同じ。
 でなければ、ろくに手当てもしていない彼を起こすような真似などするはずもなかった。

「あのですね。
 真に申し上げにくいのですが、一旦こちらの話の方から先にうかがっていただくというわけには…」
「言葉・ココロ・伝わる・♀騎士! マイヴァルキュリア! ソウ・オール!」
「あーもう、すみません! 少し私に喋らせていただけませんかね!?」
 ついに痺れを切らし、大きな声で怒鳴り返す。
 解読不能ではあったが、それなりに努力はしてしまったために疲労した頭を人差し指で押さえ、ぜーはーと息を整える。

「…残念ながら、そちらの事情はさっぱりわかりませんが。
 私ともう一人の仲間が、気絶していらっしゃった貴方と女性の騎士の方をこちらのパーティの支援職の方に診ていただく目的で保護させていただきました。
 ですが運搬の途中、狂化したものと思われる他の人間と遭遇してしまいまして。安全確保のため、もう一人の仲間が迎撃に向かいました。
 そのためにお二人ともを運ぶことが出来なくなってしまい、私が貴方一人を背負いここまで運んできた、というところで今の状況という形になります」

 最小限、且つ無用な誤解を招く言い方を極力避けた文章ですらりと伝える。

「ここまではよろしいでしょうか?」
「イエス。オー・ノウ!」
「はい?」
 大人しく(?)話に耳を傾けてもらえたのかと思えば、真剣な面持ちとはまるで違う言葉が飛び出してくる。…アフロ頭には相応しい口調なのかもしれないが。

 ともかく、♂モンクは顎に当てていた手を外し、びしりと♀セージに指を突きつけた。
「言った・支援・必要・俺たち。それってつまり怪我人・♀騎士。
 ―ソウ・バッド。本末転倒・イッツマイハート・イッツ♀騎士」
 ふざけた口調ではあるが、何故か迫力を感じる低い声音で言う。

「アンタは趣味か・男のエスコート。ノンノン・俺は・違うぜ趣味!
 今すぐUターン・正解アンサー・は・レディーのエスコート。アンタがノー・なら・俺がUターン」

 ♂セージに突きつけた右手の先を鉄砲の形に変えて、♂セージと♂モンクの間で捻るようにくるりと回転させる。
 その言葉と仕草から伝わるもの。

「…貴方を置いて、彼女を連れて行け、と?」
「Cool」
 ♂セージの解釈に、こっくりと大きく頷く。

 それを受けて、今度は♂セージが顎に手を添え思案を始める。
 数秒の沈黙が落ち―そして、♂セージが動いた。

 左手の人差し指を口に当て。
 右手で荷物の中から、一冊の聖書を取り出す。

 眉を潜める♂モンクに、ページを開いてその聖書を差し出した。
 そこには掠れたルージュの文字で、【ジョーカー達に盗み聞きされています】と記されていた。


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