◆みんなで創る小説Ragnarok ♂萌え2冊目◆
[43:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/23(金) 20:45:46 ID:Z49IO7IQ)]
宿の廊下を、一つの部屋を目指してセージが歩いている。
柔らかな衣擦れの音こそするが、常の習慣故か足音はほとんどしない。
口元に微かな笑みを浮かべて歩く彼の、頭の後ろで子馬の尻尾に似た形で結われた髪が右に左に揺れる。
目当ての部屋の前まで来て、彼はひたりと足を止めた。
閉め忘れたと思われる扉の隙間から、人の声が聞こえてきたので。
「今日は駄目だって言ったろ」
柔らかな声は彼にとって聞き慣れた声だ。この部屋に泊まっている、少々マッドなアルケミストだったりする。
多少咎めるような響きが混ざった声はあまり聞いたことがないもので、セージの口元から笑みが消えた。
「邪魔はしねーよ」
低音の声には明らかに聞き覚えがあるとは言えなかったが、部屋の主に横柄な口を叩く男には覚えがあった。
真っ赤な服のそこかしこに赤黒い染みをつけてそのままにしているローグなのだが、セージは彼ぐらいしか
あのアルケミストを見下す姿勢を持った男を知らない。
それはともかく、果たして自分はどうしようかとセージは悩んだ。
このまま立ち聞きをするのは明らかにマナーに反しているし、そのような行為をアルケミストが好むとも思えない。
かといって最初に約束をしていたのは多分自分であるし、やっと用事を済ませて会いに来たのにあっさり
引き下がるのも何か釈然としないものがある。しかし取り込み中の所を邪魔するのも気が引ける、と
彼が堂々巡りの思考の渦に入り込みそうになった、まさにその瞬間だった。
「好きなのは君だけだ」
すっと、何の前触れもなくアルケミストの台詞が脳髄に叩き込まれた。
考え事を始めると多少まわりの情報をシャットダウンしてしまう自分の性質を知ってはいるが自覚には
至っていないセージは、突如として飛び込んできた台詞に固まってしまった。
アルケミストとは、もうずっと他人には大仰に言いふらせない関係である。
それはセージの一方的な考えではなくアルケミストもそういう風に、つまりまあ世間一般で言う恋人のような
関係であると彼のことをとらえていた――はず、であった。
しかし先程の台詞は淡い吐息混じりで、若干熱が篭もっていたようにセージには感じられた。
アルケミストの目の前にいたのはセージではなく別の人間で、しかしあの台詞を言ったのは間違いなくアルケミストで、
とそこまで考えたところで、すっと指先から熱が引く感覚をセージは味わった。
頭ががんがんと痛む。
つまりこれはなんだ、とセージはふらつきそうになる足を叱咤しながらどうにかその廊下を離れるべく歩き出す。
単純に言うなら浮気なのかと手すりにつかまって階段を下りる。
それとも、と、その結論に至るのが恐くて遠回りしていたのだが。宿の外の陽光が目に眩しかった。
それとも、自分は振られたということなのか。
実際今からあのローグと結ばれる(嫌な言葉だ、と心から思った)というのなら振られる、といった方が適切だろうかと
妙なことを考えつつも、足は自然と宿から離れる方向に向かっていく。飛んできた砂が目に入る。
頭痛が更に酷くなった。
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