◆みんなで創る小説Ragnarok ♂萌え2冊目◆
[44:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/23(金) 20:46:14 ID:Z49IO7IQ)]
目的も無しに歩いていたら、いつの間にか露天商が集まる通りまで来ていたらしい。
常に人で賑わう首都とは違って、ここ砂漠の都市モロクでは決まったところに何軒か露店が並ぶ。
その中で、ここでは珍しく消耗品以外の品が主体の露店にセージは目を留めた。
立てかけられた槍はぎらりと激しい光をはね返し、板の上に並んだ短剣は鞘に入ってはいるものの、
柄の意匠からして出来の良い品であることを思わせる。今でこそ長剣を腰に提げているが、
マジシャン時代にお世話になったものからダマスカスまで、様々なものが並んでいる。
「おっ、にーちゃん良かったら見てきなよ」
露店の主、日焼けしたブラックスミスが白い歯を見せて笑っている。
特に必要なものではなかったが、懐かしさにかられて手に取ってみた。
こういうものを眺めている時は余計な事を考えなくて済む、という理由もあったのだが。
「へー、あんたきれいな髪してんね」
本人としては他意もなかっただろうが、愛想のいいブラックスミスはさらっとそんなことを言ってのけた。
セージの頭に、違う人物が発した言葉がリフレインする。
――綺麗な髪をしてるね。伸ばしてみたら?
初対面の時言われた台詞だった。奇妙な人だなという第一印象を抱いたのは事実だ。
あの瞳で別の男を見つめて、あの声で別の男の名を呼ぶのだろうか。
「……抜いてもいいか?」
一際ずしりと重い短剣を手にとって尋ねた。その重みは実際心地良い。
「どぞどぞ」
尚もにこにこと、愛想の良さを崩さずにブラックスミスが勧める。
軽く刀身を確認すれば、ごく淡い緑色の光を帯びていた。
腕のいいブラックスミスの手によるものだろう、ウインドダマスカスを完全に鞘から抜き去る。
刀身に映る自分の顔を瞬間確認してから、セージは突然後ろでくくっている髪をひっつかんだ。
右の手で、場所を確認する必要もなくその髪の束を根本から切り落とした。
「え……っ!?」
全くためらいもない動作に泡を食うブラックスミスを余所に、セージは左手に自分の一部だった髪を
持ったまま口の中で短呪を唱えた。
瞬時に呼び出された魔法の炎によって、髪の束は灰にもならずに燃え尽きる。
頭に張り付くように残った紐を適当に剥ぎ取ってから何事もなかったかのようにダマスカスを鞘に戻して、
悪かったなとだけ言い残してセージはその場を立ち去った。
ねえ俺のせい? 今のって俺のせいですかー!? と騒いで、周りから同情の目で見られているブラックスミスを
顧みることなど、全くしなかった。
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