【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】
[131:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/29(木) 10:10:38 ID:FcA1itgA)]
少女がひもじさに打ちひしがれ、空腹をもてあましているとどこからかギターの音色が響いてきた。それは鼓膜と同時にすきっ腹にも響くために彼女の機嫌はすっかり傾いてしまった。顔を上げると小さな人だかりができており、その中心に逆恨みではあるが、不機嫌の原因があった。
まず印象に残るのは仮面だろう。白くいかついそれは何かのモンスターをかたどったものだと露店の売り文句にあった。頭を覆うバンダナにやたらと細身のシルエット。雰囲気の割りに若い声。そして違和感。だが、少女の目を引いたのはそのどれでもなく、おひねりとしてギターケースの中に放り込まれたzeny紙幣だった。
「(いいなあ、あれだけあったらしばらく食いつなげる…。)」
気づくのが遅かったかもしれない、そういえば彼女はローグなのだ。成り立てとはいえ。ということは、得意とするのは窃盗だとか恐喝だとかいう物騒な手段だろう。力なさそうな詩人をひねるだけの仕事効率のよさは今の彼女にとってはまさにうってつけの方法に思えた。
省略19
[132:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/29(木) 10:11:12 ID:FcA1itgA)]
何故こんなことになったのだろう。わからないが今、少女の口内はピザに占領されている。存分に味わったそれを嚥下し、すぐさま次の一切れをとっては口に運ぶ。炭火にとろかされたチーズにふんわり包まれたピザソースと、ジリジリ音を立てるサラミにまぶされたバジルの香りがこんなにも熱く、食欲を刺激するのは彼女には初めての経験だった。
隣で半ばあきれたように(表情はわからないがきっとそうだ)それを眺めている詩人におごってもらったものだ。
「よく食べるな、見ていて満腹になってきた。」
「ここんとこ、リンゴくらいしか、食ってなかった、のよね。」
「食べてから話すといい。」
省略31
[133:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/29(木) 10:11:50 ID:FcA1itgA)]
イズルードに滞在している間、少女はイズルードダンジョンに通い詩人に宿代を返し続けた。しかし、少女の宿代・移動費はかさむわ、ひよっこローグでは大して稼げないわとほんの少しずつしか返していくことはできない。でも、それでよかった。友人のいない少女はこの奇妙な詩人と話す時間が嫌いじゃなかったし、詩人もどこか懐かしく居心地のいい時間を楽しんでいた。彼女には詩人が話す昔話の妹が、少しうらやましかった。
さて借りは少しずつ返されていくが、返し終わることは詩人との別離を意味する。少女には詩人の詩や話がもはやこの上なく大切なものになっていた。いっそ旅について行こうか。街を渡り歩くだけだろうし、きっと足手まといにはならないはずだとまで彼女は考えはじめていたくらいだ。
2週間ほど経ち、そろそろ全額返済となるはずだった。詩人はいつもの場所でいつもどおり詩を歌っていた。本当にいつもどおりだったから気づかなかった彼に責任はない。誰も予想なんてしなかったし、できなかった。だからこれは仕方ないこのなのだ。
イズルードダンジョンで大規模な枝テロが発生し、進入禁止の警告が出された。もちろん、それまで中にいた冒険者の安否はわからない。ただ、あのモンスターの数で生きていられる人間がいると想像するのは難しいだろう。それを彼が知ったのは発生してから1時間ほど経ってからだった。
ここから先のことはあまり語るべきでもないかもしれない。彼の性格を知っている人間ならば皆容易に想像がつくからだ。彼は召喚されたパニックで荒ぶり、津波のように押し寄せるモンスターたちの頭上を飛び越えイズルードダンジョンを駆け巡った。彼が少女を発見したとき少女は奇跡的に生きていた。健康的に細かった腕が千切れかけ、不似合いに赤かったコートは黒く汚れていたが、少女は紛れもなく息をしていた。
詩人が彼女に駆け寄ると、彼女は昼寝をしていた猫がこちらを確認するように少しだけ目を開けた。摩擦の少ない、震える手で少女にポーションをかける。これがピクニック程度の狩りであったなら、なんだか白いと卑猥だと言って笑っただろう。
省略17
[134:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/29(木) 10:12:30 ID:FcA1itgA)]
翌日少女は息を吹き返した。やはりあの高価なポーションは初期治療としては最適だったようで、一週間ほど入院すれば完治するだろう、大した体力だと担当した巻き毛のプリーストは口に手を当てて笑った。目覚めた少女に会いに行くと体中包帯だらけでマミーを思わせる風貌になっていたが、昼食だったと思われるどんぶりのようなスープ皿は綺麗に空っぽだった。ゆっくりベッドに近づくと、彼女は素早くこちらを振り向いた。
「ネコがまわりを警戒してるみたいだ。」
「ネコに喩えられるのはあんまし好きじゃない。」
少女は冗談っぽく眉間にしわを寄せて笑った。その仕草は彼女のためにあるようだった。少女は指先でスプーンをくるくる回していた。二つの視線は、自然とスプーンの銀色に吸い寄せられていた。
省略40
[135:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2005/09/29(木) 10:18:36 ID:FcA1itgA)]
という>>130-134でございました。
掘り下げが甘いとこやら伏線回収してないんじゃ?なとこはスルーしてください。
感想がいただけると嬉しいです。
ではまた。
read.cgi ver4.20 by GlobalNoteScript (2006/03/17)